1254. 区別がつかないほどの増殖
捕獲したぷるぷるを運搬中、やたらと広がったり縮んだりを繰り返す。捕まえた腕からこぼれ落ちそうなので、ルシファーが声をかけた。
「動くと落ちるぞ。丸くなれるか? ぷるんと丸い形だ」
手の動きを添えて丸い形を伝えると、動きを止めたぷるぷるが丸まった。
「悪いな、運んでる最中に落とすと申し訳ないから、そのままでいてく……ん?」
「ルシファー様、いま意思の疎通が?」
「こちらの言葉は理解してそうだ」
頷きあい、移動を急ぐ。3階にあるルシファーの私室から階段を降りて、横に移動すること数分。ようやくルキフェルの研究室に着いた。ノックもそこそこに扉を開けると……そこは、ぷるぷるが溢れていた。
「あ、扉閉めて! 外に出ちゃう」
ルキフェルの言葉に慌てて中に飛び込み扉を閉める。だが足の踏み場がなく、アスタロトは空中に逃げた。空中に浮かんだまま、蝙蝠の羽を広げてバランスを取る。その間にルシファーはぷるぷるに襲われていた。
逃げる間もなく、全身がぷるぷるだらけだ。結界があるので、誰も心配してくれないのも、ちょっと切ない。溜め息を吐いて、手に乗せたぷるぷるを見つめる。外にいるぷるぷる集団に混じったら、区別がつかないな。
「個体ごとに個性とかあるのか?」
話しかけたら、一斉にぷるぷるが動いた。顔を見合わせるようにくねくね動いたかと思ったら、するすると解散していく。状況は理解できないが、こちらの言葉を理解する認識は間違っていなかった。
「ルキフェル、なぜ増えたんだ?」
「切ったら増えたの! でもって増えすぎたコイツが爆発物を飲み込んだんで取り出そうとしたら、爆発して飛び散ってこの有様……あれ? 今日は夕食会じゃなかったっけ?」
ルキフェルは予定を思い浮かべながら首をかしげる。気付くのが遅いが、それだけルシファー達も混乱していたので、誰も指摘しなかった。
「これが、オレの私室に紛れ込んでいたんだ」
手の上の個体を示すと、ルキフェルは前のめりになった後、肩を竦める。
「これって、どれ?」
「いや、だから手の上に……!」
山ほど乗っていた。確かに個体の区別ができない今、どれが私室まで移動したか分からない。歩いてくる途中で別の個体を見た覚えはないが、もしかしたら城中に散っている可能性もあった。
「害がないか確認してくれ。それと話すと理解しているから魔族扱いにして、切ったり爆破したりは禁止だ」
「僕が爆発させたんじゃないのに」
むっと唇を尖らせながら、ぷるぷるをケースに収納していく。ルキフェルはケースに番号を振り、それで管理するつもりのようだ。縦に積み重ねていくが、片側に空気穴が開けられていた。よく見ると一桁番号で収容されたぷるぷるが、穴から脱出を図っていた。地上に降りたアスタロトを手招きし、ルキフェルも一緒に並んで観察を始める。
隙間から先端が出ると、きょろきょろ周囲を見回すような仕草をしてから細長く出てきた。内臓や骨といった概念はないようだ。形に合わせて出てくる。
「消化出来るのは包んだものだけみたいだね」
くるんと包み込まないと溶かすことは出来ないらしい。ルキフェルは新しい発見に目を輝かせていた。やり過ぎないよう釘を刺すべきか。顔を見合わせたアスタロトと頷き合ったとき、扉がノックされた。
「今は……」
ダメだと言う前に扉が開き、アベルが足を踏み入れる。目を見開く彼を風の魔法で引き摺り込んで扉を密閉した。隙間さえあれば出入り自由となれば、かなり危険だ。
「アベル、返事があるまで扉を開いては」
いけません。注意するアスタロトの声を遮って、アベルが叫んだ!
「すげぇ、スライムだ!!」
スライム? 彼以外が首を傾げた瞬間だった。




