1226. 思わぬ二次災害
予想通りやらかした。アベルがルーサルカに話したし、ルキフェルはすでにベールに知らせていた。その上、ルーサルカはアベルと何を話したか問い詰められ、ついアスタロトに白状したのだ。大公が全員知っている以上、隠し事という体裁は整わなくなった。
「陛下のバカァ!!」
主犯はルキフェルなのだが、勘違いされてベルゼビュートが引きこもった。主君に裏切られたと泣きながら、森の奥から出てこない。ただでさえ手が足りないのに、彼女の不在は予想外に業務に響いた。
出生率の計算は途中までで、アスタロトが引き継いだものの、字の汚さに解読不能。辺境を任された魔王軍は、休暇返上で働く羽目に陥っていた。ベルゼビュートなら転移で移動可能だが、通常の魔族は飛んだり走って移動する。同じ業務でも、担当できる範囲がまったく違うのだ。
「なんとかしてきてください」
溜め息を吐くアスタロトの言い分に、オレが悪いんじゃないとルシファーが拗ねる。その膨らんだ頬をリリスがぷすっと突いた。
「ベルゼ姉さんの居場所はわかるの?」
「森の奥にある祠だ。以前もそこに引きこもった」
魔力を消せるわけではないので、感知に引っ掛かる。方角がわかれば感知距離を伸ばせるため、あっさり見つかった。
「同じ場所にいるなら、迎えに来て欲しいのよ。ベルゼ姉さんとは、私が話すわ」
迎えに来て欲しい、その意見はあり得る。寂しがりやなので、拗ねてもちらちらとこちらの反応を窺うことが多かった。華やかな外見と裏腹に、小心者で臆病な面もある。意外と観察しているリリスに頷き、留守をアスタロトに預けた。
久しぶりの外出とあって、リリスは気合を入れて着飾った。大きな宝石が光るネックレスに耳飾り、髪にはリボンを3色も絡めている。先日購入したばかりの黄色いドレスを纏うと、ルシファーと腕を組んだ。
「準備できたわ」
「靴は青でいいのか?」
リボンが青、黄色、オレンジなのでおかしくはないが……微妙なチョイスだ。同じ青でもルシファーなら紺色を選ぶ。
「平気、これがいいの」
本人が満足しているなら無理に変える必要はない。歩きやすいなど別の理由で選んだのかも知れないな。納得してルシファーは転移した。終点にベルゼビュートの魔力を指定したのだが……なぜか温泉の湯船の前に出た。
「……何してるんだ?」
素っ裸で入浴するベルゼビュートは、酒瓶片手に真っ赤な顔で浮いていた。立派な胸がぷっかりと湯から突き出ている。男性から見たら魅力的な山だが、リリスはむっと唇を尖らせた。
「あの胸、卑怯だわ」
「そうか? オレは興味ないぞ。リリスの方が可愛い」
「可愛い大きさで悪かったわね!!」
褒めたつもりだが、何か地雷を踏んだらしい。本気で叫ばれてそっぽを向かれる。だが絡めた腕を解かない辺り、許してもらえそうだった。今度は慎重に言葉を選ぶ。
「リリス、女性にとって胸は性的なアピールの象徴なのはわかる。だがオレは大きいだけの胸に興味はない。可愛いリリスの胸だから好きなんだ。言葉が足りなくて心配させた。悪かったな」
ぽんと黒髪に手を置いて顔を覗き込めば、真っ赤な頬で頷く。先程の失言を上手に変更したルシファーに対し、湯船で放置されたベルゼビュートが唸った。
「ちょっと! 失礼じゃない。あたくしは、美女だし……胸もあるし、スタイルだって、性格だっていいのにぃ。なんでぇ、メスにモテるのよぉ」
途中から巻き舌の彼女に苦笑いし、魔法陣を描いてベルゼビュートを消した。
「本当にベルゼ姉さんの胸に興味ないの?」
「ん? 8万年も一緒に過ごして、彼女を娶ってない時点で、好みじゃないのは証明できてると思うが?」




