1225. 求愛されたんですって
「いいわ、集計して統計を出せばいいのね」
事務仕事は嫌だと愚図ることを想定していたルシファーは、あっさりしたベルゼビュートの了承に目を瞬く。隣のリリスも同じような疑問を感じたらしく、顔を見合わせてしまった。
「いいのか」
「あら、嫌なの?」
「任せる」
字は汚いが、計算は確実でしっかりしている。出生率の計算を任せるなら、彼女が適任だろう。次点でアスタロト、ルキフェル、ベール辺りか。戸籍を渡して、ついでに過去の出生届を一緒に渡した。
魔族は誕生日を祝う習慣がない。そのため、生まれ年程度の記載しかないのが普通だった。良くて季節が記されている程度だ。中には詳細に記録を取る一族もあり、生まれた日がはっきりしている者もいた。だが珍しい方だ。
長寿ゆえ、即位記念祭で纏めて一族の出生届を出す貴族も多く、数年のずれはご愛嬌といったところか。中には年数を数え間違えており、即位記念祭の前の年に集計した子どもの一覧に、1年追加という文字を足して提出した種族もいた。戸籍制度ができたことで、今後は生まれ日を記録する旨を通達している。徐々に詳細な記録が集まるようになるだろう。
「私はルシファーに拾われた日に生まれたのよ。あの場所にぽんと湧いて出たの」
びっくりする出産の秘密に、ルシファーは一瞬固まり、それから頬を緩めた。捨て子で1ヶ月ほど経過していると予想されたリリスだが、生まれたその日に出会っていた。
「リリスは生まれてからずっと、オレといてくれたんだな」
にっこり機嫌よく笑うルシファーの膝に座り、リリスは頷く。魔の森も赤子を預けるにあたり、ある程度の大きさまで己の胎内で育ててくれたらしい。もしかしたら彼女の言葉通り、何もない場所にぽんと現れたのかもしれないが……。
「リリスを拾った日は、日記に日付があったはずだ」
夜寝る前につけていた業務日誌に近い記録がある。魔王史の編纂を請け負うルキフェルも同様に記録していた。そのため、リリスの誕生日は特定可能だ。
浮かれるルシファーの横で、ベルゼビュートは資料を確認し始めた。いくつか追加の資料を要求したあと、ピンクの巻毛を後ろでひとつに結ぶ。
「最低でも3日は掛かるわ。その間の辺境地区の見回りは魔王軍に回してね」
両方は無理よ。そう告げる彼女に頷き、リリスと腕を組んで部屋を出た。素直に仕事をしてくれるベルゼビュートは珍しく、邪魔をしないに限ると足早に退散する。
「ベルゼ姉さん、逃げてきたんですって」
「何かやらかしたのか?」
「求愛されて、追いかけられてるらしいの。でもオスじゃなくてメスなのよ」
「……なるほど」
辺境で誰かに見初められたが、その相手が同性だった――ベルゼビュートの場合、恋愛対象は異性だったはず。しつこく追われて辟易したのだろう。にしても、メスという表現は微妙だ。
「リリス、人の形をしている場合は女性、男性と表現した方がいいぞ」
「だって魔獣だもの」
「魔獣!?」
それは、確かにオスとメスの表現になるな。リリスに勘違いを詫びて許しを得る。そこで気になった。
「どこで噂を聞いてきたんだ?」
「それがね、ロキちゃんが楽しそうに教えてくれたの。笑いが溢れちゃって、途中からお腹を抱えて転がってたわ」
想像がつく場面に苦笑いし、ルシファーは肩をすくめた。ルキフェルに口止めをした方がいい。後でベルゼビュートが報復すれば、ベールを巻き込んで大騒動になる。すでに結果の見えた人災は、ボヤのうちに消すのが正しかった。
「ルキフェルを誘ってお茶にしようか」
「本当? 今日はアベル達も城にいるから誘ってみましょうよ」
おしゃべり好きなアベルを混ぜることに一抹の不安を覚えるが、いざとなればこの話題を避ければいい。簡単に考えた決断を、ルシファーは翌日後悔することになった。
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小説 綾雅
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