1222. 戻りつつある平和な日常
復元魔法陣は各地へ広められ、その際に生き物へは作用しないよう変更が加えられた。若返りに使うバカが出ないようにだ。間違って赤子まで遡るならまだしも、その先まで遡ったら消えてしまう。そもそも人に適用した際の弊害が分からない危険もあった。
ルシファーとルキフェルがあれこれ弄り回した結果、物体の時間に干渉するだけでなく、治癒を付加することに成功する。これにより、復興作業は目を見張る速さで進んだ。
「成功して安心した」
ルシファーは各地への見回りと挨拶を終えて戻ったばかり。リリスも久しぶりに、明るいピンクのワンピースへ着替えた。各地に派遣された大公女達は、明日には戻るらしい。大公4人はまだ現場で忙しくしているため、魔王城の留守はルシファーの番だった。
「しばらくお城にいるの?」
「復興が終わるまで、誰かが城にいることになる。アスタロト達が頑張ってるなら、オレが留守番だ」
「ルカ達が戻ったら、お茶会がしたいわ」
「そうだな、温室も空いただろう」
避難した神獣や幻獣がしばらく使用していたが、彼らの住む地はもう回復済みだった。アデーレがお茶の用意をしながら微笑む。
「温室でしたら、ご利用いただけます」
「残ってる種族はどのくらいだ?」
城内に残る、復興待ちの種族を問うた魔王へ、侍女長はすらすらと淀みなく答えた。
「そうですわね、小分類で50種族くらいです」
亜種などを1種族と数えた場合でも50種族、つまり1割ほどが復興待ちか。大災害だったが、ルキフェルが開発した魔法陣のお陰で順調な復興だった。数ヶ月でここまで漕ぎつければ御の字だ。中庭の大木の陰に椅子を置いていると、ヤンが鼻を鳴らして擦り寄った。
「帰っていたのか、息子達はどうだった?」
現当主である7代目セーレや一族の様子が心配で長期休暇を申請したヤンだが、まだ休みが数日残っている。大急ぎで走ってきたらしく、毛皮には木の枝や茂みの葉が絡んでいた。それを風の魔法で吹き飛ばしてやり、ルシファーが鼻先を撫でる。
「無事でした。被害もほぼなく、巣穴をいくつか新設しています」
「それはよかった」
「セーレの白いお嫁さんも元気だった?」
リリスも撫でながら尋ねる。甘えた声で鼻を鳴らしながら、ヤンは頷いた。
「新しい子が宿ったそうで、孫が12匹目です」
「……それは、凄いな」
絶句してしまう。現時点で10匹いたはずの子犬を思い浮かべる。現時点で腹に何匹いるのか不明だが、複数なので、12匹以上と判断したようだ。犬は多産系だというが指摘すれば、狼なので犬ではないと否定するだろう。
「お祝いしなくちゃね!」
「これだけの災害があったんだ、来年は復興祝いの祭りを開いてもいいな。新しく生まれる子を祝福する集まりなら、ベールやアスタロトも反対しないだろう」
ルシファーがいいことを思いついたとばかりに提案し、リリスが手を叩く。大喜びの主君を見守るアデーレが微笑んで付け加えた。
「陛下の結婚式の前夜祭という名目を付け加えると、予算が倍増しますわ」
「よし、それで行こう」
後で提案書を作ると意気込むルシファーの後ろで、ヤンがくるりと丸まった。撫でるリリスがいつも通りにソファ代わりに飛び込み、柔らかな毛皮を堪能する。隣に袖を引かれたルシファーが座り、いつも通りのお茶の風景が戻ってきた。
魔王城に勤めるエルフやドワーフ、デュラハンが頬を緩める。やはり幸せそうな魔王と魔王妃の姿が揃ってこその魔王城だ。わずか数十年前にはいなかったリリスの存在は、今ではなくてはならない人と認識されていた。
「はい、あーん」
ルシファーにお菓子を差し出し、ヤンの大きな口にもお菓子を放り込む。微笑むリリスの口に、ルシファーが白い指先で赤いジャムの乗った焼き菓子を入れた。
穏やかに揺れる木漏れ日と、心地よい風……平和な日常が戻りつつあった。




