1219. 予算書に署名が足りない
災害復旧の予算書を確認する。すでにベールやアスタロトの署名が入っているので、問題点の洗い出しは終わっているだろう。神妙な顔で待つベルゼビュートに頷いて、署名押印した。ふと空欄が気になる。ベルゼビュート自身の署名もすでに終わっていた。
「ルキフェルはどうした?」
書類は得意と言い切るあの子が最後だなんて珍しい。そんなニュアンスで声を掛けたところ、ベルゼビュートが大きな溜め息を吐いた。
「研究に夢中みたいですわ」
「また魔法陣か」
困ったと顔に書いたベルゼビュートは頷く。この様子では何度か顔を出したが、忙しいと後回しにされたのだろう。相手を軽んじているわけではなく、単に夢中になって遊ぶ子どもに別のことをしろと促すのが難しいだけだ。ルシファーが訪ねても、似たような反応だろう。返事はしても聞いていない可能性が高い。
「忙しいだろう、オレかベールで対処するから置いて行っていいぞ」
「ロキちゃんなら私が行って来るわ」
黙々とお菓子を食べていたリリスが、微笑んで請け負う。妹として可愛がるリリスのお願いなら、ルキフェルも反応するかもしれないな。引っ掛かってる場所をルシファーが指摘して、直してやるという手段もある。付き合いの長いベールも、ルキフェルの気を引く方法には長けているはずだ。
「本当ですか? 助かります。伐ってもいい木を探す精霊の数が足りなくて、とにかく忙しいんですの」
書類を置いて、ベルゼビュートは踵を返した。言葉以上に忙しいのだろう。テラスから転移で消える。見送ったルシファーは、開けっ放しの窓に苦笑いして閉めた。書類が飛んで行ってしまう。猫じゃないのだから、開けたら閉めて欲しいものだ。
舞い上がった数枚の書類を手で拾うリリスの黒髪を撫でて、先ほどの予算書を手に取った。詳細な内容は別紙で提出済みなので、これは予算内容を認めるか否かの表紙になる。すでに署名済みのため、収納魔法で持ち歩いたら消えてしまう。手に持ったまま廊下に向かった。
書類を持たない反対の手に腕を絡めたリリスは、ここ数日地味なワンピースを自ら選んでいる。淡い緑で挨拶回りをした日から、紺、焦げ茶、濃灰色、果ては黒まで。今日は久しぶりに明るい色だった。柔らかな水色である。見つめるルシファーの視線に気づいたリリスが、ふふっと笑った。
「実はね、今日は天気が悪いでしょう? 曇ってるから晴れた日の色にしたの。こういう日に暗い色を見ると気が滅入るって、オレリアが教えてくれたわ」
「なるほど、いいアイディアだ」
ハイエルフのオレリアが口にしたなら、誰も反対しない。よく見れば廊下ですれ違う令嬢方も、天気が悪い日は明るい色を纏うようだ。淡いクリーム色や薄いオレンジなど。派手にならない範囲で明るい色を選んでいる様子が見受けられた。
「こういったことは女性の方が気が利くな」
「ベルゼ姉さんはいつも明るい色よね。すごく素敵」
リリスが喜んでいるので指摘しないが、彼女の太ももや胸元を露わにしたドレス姿は目の保養だが、一部の貴族からは目の毒と嘆かれた。当人が好きな服を着るのが一番だが、公式な場では弁えてくれるので問題ないか。
「彼女は髪色が派手だからな」
「毎日頑張って巻いてるの、凄いわ。私なんて勝手に巻くのに」
「……んん゛、それはベルゼビュートに言わない方がいいな」
「言っちゃったわ」
悪気なく傷つけたな。ルシファーは一瞬天井を仰ぎ、それからリリスの口を指先で押さえた。
「余計なことは言っちゃダメだ。ベルゼビュートはタフだが、拗ねると数百年閉じこもるぞ」
元に戻すのが面倒くさいんだ。そう告げるとリリスは瞬いた後、考えながら頷いた。
「気を付けるわね」
「そうしてくれ」
そんな話をされているとは知らないベルゼビュートは、伐採する木を指定した直後に大きなくしゃみをした。
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