1205. 冷たい雨が引き起こす災害
神龍地区の土砂災害に続き、虹蛇が住む洞窟の天井が落ちた。防いでいた雨が流れ込んだため、木の上に避難した虹蛇が溺れそうだと救助要請が入る。神龍地区へ向かっていたルキフェルとベールが手分けをして対応した。
神龍地区へ向かうルキフェルを見送り、ベールは虹蛇救助のために転移する。子どもの安全のために洞窟の入り口を魔法陣で塞いだことで、雨水の流出先がないのだろう。洞窟は半分ほど水に浸かっていた。
壺状態になった洞窟内で、親達は必死に我が子を頭の上に乗せて持ち上げている。体が冷えれば、大切な子どもは死んでしまう。水に浸かって冷えた尻尾の感覚が失われようと、父親は妻と我が子を押し上げた。夫の献身を受けて、妻も我が子を鼻の先に絡み付かせたり口に入れて、己の身を縦に硬直させる。水の量が多すぎて、対応ができなかった。
「もうダメ」
「頑張れ! 助けを呼んでいる」
上からペガサスが叫ぶものの、彼らは翼が邪魔で救出できずにいた。広げた羽が洞窟の割れた天井部分に当たるのだ。完全に天井を落とせば入れるが、破片が虹蛇に当たる可能性があるため実行できなかった。
「ベール様だ!」
「水を抜きますので、魔法の使用を禁じます」
空中に転移するなり、状況を判断して対策を決めた。水を外へ転送する方法だ。これならば水だけを指定するため、洞窟内の虹蛇達や植物に害を及ぼす可能性が低い。ざっくり範囲指定し、転送を始めた。
虹蛇達は己の身を守るために展開していた、治癒魔法を解除する。途端に水の中に倒れ込む者が出た。それを仲間が必死に絡めて掬い上げる。ベールは危険な場所から転送を始め、水を結界でいくつかに区切りながら流し切った。
「天井を補修します」
魔法陣が刻まれた大地に大量の水が流れ、一部の文字が消えたことが天井落ちの原因だった。透明のガラスに似た天井を復活させるため、手早く魔法陣を再構成する。地脈からの魔力供給を接続し、ほっと息をついた。
「報告と救助要請、助かりました」
「いえ、無事で何よりです」
ぐっしょり濡れた銀髪をかき上げるベールへ、ペガサス達は挨拶して引き上げた。彼らの翼も水をたっぷりと吸って重くなり、よろめきながら飛んでいく。
「妙な雨ですね」
雨が冷たいのは分かるが、突き刺さる冷気を感じる。必要以上に体温が奪われていく気がした。眉を顰め、足元の虹蛇達の様子を確認する。互いに治癒を掛け合う姿は、やはり普段の雨より冷たい所為で体力を消耗したことが窺えた。
「報告しておきましょう」
虹蛇達に挨拶をしたら、寒さに弱い他の幻獣や神獣に警告を回した方が良い。判断の早いベールは、すぐに行動を起こした。
その頃、ルキフェルは復旧作業に追われていた。神龍が住む地域は縦に長細い山が連なる山岳地帯だ。本来は水害に強く、山崩れなど起きづらい。崖や山のほとんどが岩なのだが、大量に流れ込んだ雨水が古い岩の間に染みて、ヒビを増長させた。縦に裂けた山が崩れて下に住む若い神龍を襲い、胴体の半分近くを瓦礫のような岩に押し潰されている。生命力が強く、魔力が多い神龍族でなければ、とうに命が失われていただろう。
「鱗がある丈夫な一族でよかったね」
苦笑いして、大きな岩に魔法陣を貼り付ける。持ち上げて退けるより、砕く方が早くて安全だった。人の手に乗る石の大きさまで砕くよう指示した魔法陣を複製し、次々と貼り付けながら発動していく。
「手伝います」
「じゃあ、これをお願い」
魔法陣をいくつも複製して渡すと、手分けして瓦礫を砕き始めた。爆破の衝撃なく砕けて転がる石は、生き埋めの神龍の上から落ちていく。自力で出ようと暴れ始め、徐々に脱出に成功する神龍が出てきた。
歓声が上がる中、最後の神龍が空に逃げ出す。雨に濡れると消耗し体温を奪われるのは、蛇も龍も同じだ。それが竜でも一緒だった。体温温存のために結界を駆使して雨を避けるルキフェルは、ぐるりと見回して被害状況を確認する。人的被害はケガ程度で、死者はなかった。
「家の復旧は後回しにして、魔王城に避難してくれる?」
神龍族はほとんどが人化できるため、どこかの空き部屋を割り当てればいいだろう。ルキフェルの提案に、彼らは有難いと素直に従った。




