1165. 日本人の功績大!
今日はリリスが戻ってくる! 出陣した魔王軍と魔獣を含む魔族の帰還は明日以降と連絡があった。この時点でルシファーの意識は、リリスの帰城に集中する。そわそわする魔王に、かなり量の少ない書類を手渡すアスタロトが苦笑いした。
「ルシファー様、今日の書類はこれだけですから。処理してお迎えになれば、そのあとはゆっくり過ごせますよ」
魅力的な提案に目を輝かせ、ルシファーは手元の書類に取り掛かった。署名して押印を繰り返しながら、驚くべき速さで処理していく。
「きちんと読んでますか?」
「丸暗記してる」
問題ない。そう言い切ったルシファーだが、嘘ではなく内容をそっくり覚えていた。記憶力には自信があるし、毎日大量の書類と格闘すること数万年の実績で、内容を速読することにも長けていた。最後から2枚目の書類だけ訂正を入れて押印せずに返却箱に入れる。
「文官への分業と権限の委譲だけで、こんなに楽になるとは」
「アンナ嬢の提案に感謝ですね」
頷き、終わった書類を見やる。以前は机の上に大量の書類が積まれ、片付けた側から同量が追加された。必死で処理しても終わりが見えず、徹夜も日常茶飯事だったが……。部下へある程度の権限を与えて処理させ、彼らから報告書を受け取る形に変更しただけ。目に見えて処理する書類が減った。
日本人にとって当たり前の分業だが、その概念がない魔族にとって目から鱗の改革だった。逆にアンナやイザヤは、彼らの効率の悪さに驚いたくらいだ。部下がいて役職持ちがいるのに、書類はすべて魔王と大公に集中する。文房具購入で書類が1枚、書き忘れたペンの追加でまた1枚、インク瓶が割れたので購入しようと1枚。そうやって増える書類なら、部下でも決済可能だ。
文官のトップに予算を与えて、その範囲内で買わせればいい。内容と金額、購入先を報告するシステムに変更された。数十枚に及ぶ文房具の購入書類が、1枚の報告書に変わったのは魔法のようだ。ルシファーはそう褒め称えたが、当人は「これって日本では当たり前のシステムです」と謙遜した。
アベルから日本人は謙遜と礼儀の一族だと聞いたことがあるが、やはり人族とは別種族だと認識を新たにする。無礼で弁えない人族の方は、無事殲滅出来ただろうか。害虫のように湧いて出るため、徹底的に焼き払うとルキフェルが息巻いていた。ケガ人が出ることだけが心配だ。
「ケガ人の報告は入ってないよな?」
「ええ、現在はありません。何か起きるとしたら、人族の攻撃ではなく……」
「ルキフェルかベルゼビュートの暴走だろうな」
顔を見合わせたルシファーとアスタロトは溜め息をついた。付き合いが長い分、やらかしそうなことは想像がつく。お目付役として派遣したベールがうまく宥めてくれれば良いが。
「ん! リリスだ」
ルシファーが立ち上がり、大急ぎで部屋を出た。ベリアルやアデーレに叱られないよう、可能な限りの早足だが走らない。窓から出ると早いがアスタロトに説教されるため、最終的に時間を無駄にしてしまうのだ。ルシファーも彼なりに学んでいた。
黒いローブを揺らし、純白の髪を靡かせた魔王が中庭に到着した時、ちょうどリリスが現れた。魔法陣から飛び降りた彼女を守るイポス、続いて大公女達が順番に姿を見せる。それぞれ両手に何かを持っていた。
「おかえり、リリス。皆も無事で……? なんだ、それは」
目を瞬かせるルシファーに追いついたアスタロトも、彼女らの手にした獲物に絶句した。
「捕まえたのよ! お土産なの」
「あ、ああ……土産、か」
相槌を打ちながら、ルシファーは恐る恐る側近の様子を窺う。これは説教コースか?




