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【完結】魔王様、溺愛しすぎです!  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
9章 遠足ってこんなんだっけ?

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114. 失礼なことを考えませんでしたか

「パパ…」


「大丈夫、パパはここにいる」


 抱き上げたリリスが、ルシファーの首に冷えた手を回して抱きついた。湖から離れる形で、魔王とフェンリルを中心に集まった親子の様子に、ルシファーがアスタロトを呼ぶ。引率のミュルミュールとガミジンが、子供達を数えた。


「全員いるか?」


 ルシファーからの問いかけに、ミュルミュールが応じた。


「はい、います」


 その心強い断言に安堵の息をついた途端、生ぬるい風が吹いた。ヤンが顔をしかめて呟く。


「アンデッドですぞ、我が君」


 特有の腐敗臭を感知したフェンリルの顔が嫌悪に歪んだ。湖を囲う森の中から、元魔物がぞろりと顔を見せる。ゆったりした動きで近づく魔物や魔獣だったモノは、表面が崩れて腐っていた。


 獣人や魔狼以外の者も、鼻をつく悪臭に顔をしかめる。


「お待たせいたしました。陛下」


 さきほどの恐怖バージョンではない側近が、ベルゼビュートを伴って現れた。呼び出しは大した魔力を消費しないため、ルシファー単独で行っても問題ない。襲撃と言う物騒な単語を使ったため、戦闘能力が高いベルゼビュートを選んだのだろう。


「やだ、よりによってアンデッドなの? これと戦うとしばらく(くさ)いのよね」


 零れそうな大きな胸元を寄せるように身を乗り出したベルゼビュートが、ふわふわのピンクの巻き毛を弄りながら眉根を寄せた。死に損ない(アンデッド)は吸血鬼からグールやゾンビ、スケルトンまで大きな括りで考える人族と違い、魔族には明確な分類が存在する。


 単体での自我の有無と、他者の認識能力だ。


 分かりやすい例だと、生きた種族に出会った際に「他人」として認識できるか「餌」と考えるか。また種族としてでなく、個としての思考能力が存在するかどうか。そのため、今回出てきたゾンビ系は魔族から死に損ない(アンデッド)と認識される。


 吸血鬼(ヴァンパイア)首なし騎士(デュラハン)と明確に区別されてきた。自我があり自ら判断して動く彼らは不死に近いが、ゾンビを含め完全に不死の魔族は存在が確認されていない。


「面倒だな」


 数が多い。焼き払うのが一番簡単な処理方法だが、水の妖精族(ウンディーネ)樹人族(ドライアド)は火に弱いため、出来れば使いたくなかった。


「切り刻みましょうか?」


「子供によっては精神的外傷(トラウマ)になるぞ」


「……この光景自体がトラウマですよ」


 苦笑いするアスタロトは、右手に呼び出した剣を一度鞘に戻した。


「地を割って埋めたらどうかしら」


「すぐ復活するぞ」


 ベルゼビュートの提案も悪くないが、少しすると彼らは復活してしまう。浄化すれば被害は少ないが……実はアスタロトが吸血鬼系の派生であるため、巻き込むとマズい。簡単に浄化されて消滅するような玉じゃないから、余計に報復が怖かった。


「陛下、いま失礼なことを考えませんでしたか?」


「い、いや……何も」


 ぶんぶん首を振って否定したルシファーの腕の中で、鼻を摘んだリリスもぶんぶん首を振る。真似をする余裕があるリリスの黒髪を撫でながら、ルシファーはひとつの決断をした。


「よし、全部まとめて転移しろ。その後は任せる!」


 部下に丸投げという最悪最強の切り札(ジョーカー)だった。


「はぁ?」


 何言ってるんですかね、このバカは。そんな顔をしたアスタロトに、説明と言う名の言い訳を始めた。


「まず転移させて、子供達の精神的な面を含めた安全を確保する。それから焼却処分すればいいじゃないか。ウンディーネやドライアドがいる場所で火は使えないだろ」


「……いろいろ言いたいことはありますが、有効な策ですね」


 集まった種族は火、水、風、浄化、どれかが弱点となる。どの方法を選んでも、親子のうち誰かが犠牲になるのだ。しかも、幼子は親より耐性が弱い。アンデッドを倒す過程で、子供に被害が出たら一大事だった。


 ルシファーの屁理屈に納得したアスタロトの手が、パチンと音を鳴らす。範囲指定を行って対象を絞り込んでから、あっさりと転移魔法陣を描いた。

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