1126. 楽しくなって焼け野原
森の木々が思わぬ場所まで焼け焦げ、更地となった大地は遠くまで見通せる。これは……戦いが終わった後に必要となる魔力量が膨大すぎないか? 魔の森の一部なので、幸いにして魔力さえ供給すれば数日で森は元に戻る。しかし供給する魔力は誰が……。
「ベールに任せましょう」
まったく協力する意思のないアスタロトは、すべてをルキフェルの養い親に押し付けるらしい。現在は魔力を使って戦う予定もないし、ある程度は手伝おうと決めたルシファーは肩を竦めた。ベール経由で魔王軍から大量の魔力を搾り取ると、日常業務に差し支えそうだ。
どかんっ!
派手な爆発音の直後、みしみしと巨木が倒れていく。ルキフェルの蹴りが直撃したのだろう。足跡がくっきりついた幹が真っ二つに裂けた。根っこも大半が露出する衝撃を受けた木は、倒れた地面の高熱で発火する。結界越しなので実感はないが、外はかなりの高温だった。
「そろそろ止めるか?」
「まだ早いですよ」
どうせなら中途半端な複数回より、派手な一回の方が被害が少ないです。長年の経験からとんでもない理論で魔王を止める側近は、同僚の戦い方に興味津々だった。ルキフェルは魔法陣の研究に熱心で、普段は魔法陣を使った戦いを好む。しかし本性はドラゴンだ。本能の命じるまま力を振るう戦いは、ルキフェルの強さを浮き彫りにした。
「魔王城を吹き飛ばしたアムドゥスキアスを思い出しますね」
「嫌な記憶を呼び起こすな」
早い段階で止めようとして、うっかりがれきの下敷きにされたルシファーは舌打ちした。結界ごと魔王城の地下に沈められたのは、失態だった。あの後ベールとアスタロトに長い説教を食らったのだ。転移して戻ったら城は崩れて建て直しになるわ、側近には叱られるわ。散々だった。
「ロキちゃん、すごいわね」
凄いの一言で片づけるリリスを、器が大きいと考えれば悪くない。そう思ったルシファーに、続きが刺さった。
「私もやりたいわ」
「絶対にやめてくれ」
被せ気味に禁止を言い渡す。どかんと雷を落とすだけで、魔王城の塔が崩れる未来が見える気がした。魔の森の娘であるリリスの魔力は無尽蔵で、ルシファー自身が暴れるのと大差ない。銀龍石も無限ではないので、建て直しの資材が足りなくなるだろう。
「……我慢する」
「いい子だ、リリス。そうしてくれると助かる。一緒に暮らす城がないと、薔薇のお風呂も入れないぞ」
大好きなお風呂がなくなる。その一言は意外にもリリスの心に届いた。お気に入りのドレスやベッドも、ヤンと一緒にお昼寝したテラスもなくなる……そんなの嫌だわ。実感を込めて頷くリリスの黒髪を撫でるルシファーに、アスタロトが声を掛けた。
「一段落したようですよ」
結界の外で続いていた物騒な破壊音と、土煙が止んでいた。焼け爛れた大地は陽炎を立ち上らせるほどの高温で、その揺らぎの中で青い鱗の竜が振り返る。
「ルキフェル、片付けが大変だぞ」
「手伝ってあげるわ」
手を振るリリスの声に、するりとルキフェルが人化した。いつもの水色の髪をかき上げながら近づき、にっこりと笑って結界をノックする。
「いいぞ」
許可を出す。それは魔法陣に作用した。外からの干渉を排除していた結界を通り抜け、ルキフェルはほっとした様子で笑った。
「ごめん、途中から楽しくなっちゃって」
ぺろっと舌を出して詫びる。あまり悪いと思っていない様子だった。
「何を見つけたんだ?」
「ワイバーンを操っていた黒幕。ドラゴン種に生まれた変わり種の話を思い出したんだ。僕と同じで神龍と竜の間に生まれた子だよ」
ワイバーンを操る能力は種族の特性にない。個体が偶然得た固有の能力だった。その話を思い出して顔を出した途端に攻撃されたのだという。間違いなく関与していたと思われた。
「犯人なら確保してください」
「ああ、一応まだ生きてるよ?」
「……あの焼け野原で、か?」
アスタロトの苦情に、けろりと返したルキフェル。殺してないと言われても、ルシファーの目に映る景色は地獄絵図だった。




