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連載開始 1巻4/10発売!【完結】魔王様、溺愛しすぎです!  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
80章 勇者は魔王の対じゃない?

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1109. 実験と手料理の天秤

 アベルの話では、偽物は鏡に映らないという。それは異世界の常識だと言われ、彼の話を聞くために階下に降りた。だが見つからず、代わりにアンナとすれ違う。


「アンナ、悪いんだが話を聞きたい」


「え? いいですけど。お買い物間に合わなくなるので、手短にお願いしますね」


 若いのに、もう熟練の主婦のようなセリフが返ってきた。ルシファーから見たら、親鳥のフリをする卵のようで微笑ましい。リリスが「お買い物行くの?」と目を輝かせた。


「リリスが期待してるお買い物じゃないぞ。食料品のことだろう」


「そうです。夕飯を作るので」


 にっこり笑ったアンナに、リリスが尊敬の眼差しを向けた。リリスが作れるのは、焼き菓子数種類とプリンのみだ。多少のアレンジは可能だが、彼女の料理は爆発率が高いため、台所を預かる料理人イフリートの許可が必要だった。


「素敵! ねえ、ルシファー。私も作りたいわ」


「……イフリートの許可が出たらな」


 話を微妙なところで打ち切る。アンナの帰宅を妨げているので、こちらを先に尋ねてしまいたかった。ルシファーを見て、そわそわする兵士が数人いるが……まさかいきなり攻撃はされないだろう。魔王が魔王城の中庭で攻撃される心配をするなんてな。


「異世界の常識らしいが、本物と偽物がいる場合に偽物は鏡に映らないのか?」


「……誰に聞きました?」


 問い返されてしまった。答えようとして誤魔化そうと思ってしまう。もしかして、アベルの知識が間違っていて……いや、逆にアンナが鏡に映らない偽物だったり? ホラーな展開が浮かんだのは、数日前に読んだ創作本のせいだろう。


「アベルだが」


「ちょっと違いますが、ほとんど合ってます。吸血鬼に適用される神話? じゃなくて御伽噺……都市伝説? うーん、そんな感じでした。向こうの世界で教会には銀製の鏡がありまして。銀を嫌う吸血鬼が触ると火傷するし、姿も映らないという話があったんです」


 唸りながらも説明したアンナは、一礼して去っていった。お礼を言って見送ったルシファーは、眉を寄せる。銀製の鏡なんてあったか? いや、作れるが。それを吸血鬼……すなわちアスタロトに押し付けると火傷する?


「ルキフェル、ルキフェル!」


 召喚の響きで呼んだため、ルキフェルは欠伸をしながら白衣のまま姿を見せた。水色の髪をぐしゃりと乱しながら、じとっとルシファーを睨む。


「何? くだらない話だったら……」


「銀製の鏡を作ってくれ」


 そこからアンナに聞いた話を手短に繰り返すと、ルキフェルの青い瞳がキラキラ輝いた。真剣に話を聞いたあと、大きく頷く。顔を突き合わせる2人の横で、リリスは首を傾げていた。


「出来たらすぐに持っていく」


「頼んだぞ」


 悪巧みをする子どものような2人は、にこやかに別れた。腕を組んだリリスは、笑顔で強請る。


「お料理がしたいわ。ルシファーに手料理を食べてもらいたいのよ」


「イフリートが、なぁ」


 大事な仕事場が爆発するたびに、飛び込んでくるし。書類や予算の配分もあるから、そう何度も爆発させられると困る。そもそも、なぜ爆発するのか解明出来ていなかった。


「ルシファーを思って作った料理を、あーんで食べさせるの。番っぽいでしょ?」


「ああ、うん。そうなんだが」


 煮え切らない返事に、リリスは笑顔で脅迫にかかった。


「さっきの鏡の話、アシュタに……」


「わかった! すぐにイフリートの許可を得よう。リリスの手料理、楽しみだな」


「良かった、わかってくれて」


 魔王と魔王妃の恐ろしい相談は、侍従のコボルト達の耳に入っていた。だが……触らぬ魔王に祟りなし。危険を冒して吸血鬼王や魔王に逆らうこともあるまい。何かあれば、彼らが責任をとってくれるのだ。


 聞かないフリ、見なかったフリで口を閉ざすのが最も賢い生き方だった。

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