1099. 誰も知らない土地
希少種族の復活は、爵位を与える理由になった。人狼族も、息子が同族だと判断されれば同じように取り計らう。妖狐族の暮らす土地を用意することになったが、今住んでいる地区から離れない方がいいだろう。功績に応じた褒美を与えられるのは、魔族にとって当然だった。
ひょいっと空中に地図を貼り付けたルシファーが、色分けされた一部を拡大した。近づいて一緒に覗くアスタロトが唸る。
「この辺は入り組んでいますね」
「ここの土地はどうだ?」
「デカラビア子爵家の飛び地ですか。取り上げる理由がないので、代替え地が必要になります。それに、ここは代替え地で与えた場所じゃなかったでしょうか」
過去に代替え地とした場所をまた取り上げるのも、まずいか。唸るルシファーの隣で、リリスが地図に手を伸ばした。
「ここは?」
「ん、確かに空白だな」
奇妙な空白に気づき、アスタロトに示した。デカラビア子爵家の治める温泉地の中央より左側に、突然真っ白な土地が現れる。それは奇妙な状況だった。温泉街は人気の観光地で、この辺に空き地があればもっと早く誰かに与えられているはずだ。
「お待ちください」
アスタロトが咄嗟に思い出せない。まるで記憶にも空白があったように。この土地の過去が思い浮かばなかった。そこでアスタロトが取り出したのは、自動更新機能がない過去の地図だった。見比べて変化を確認するための地図に、その空白は存在しないはず。
広げた地図を隣に貼ると、そこは3つの貴族家の境界線が交わる点になっていた。首を傾げる。新しい地図から各貴族家の所有面積を計算するが、過去の実績から減っていない。
「ここをあげればいいわ」
「あ、ああ。変だな」
ルシファーも己の記憶力を疑うほど、まったくこの土地の情報が思い出せなかった。周囲の土地の計算を終えたアスタロトが眉を顰める。
「有り得ません。まるで何もない場所に突然湧いたみたいで」
「湧いて出たんだもの。当然よね」
リリスはあっさり肯定する。何を知っているのかと尋ねる魔王の腕に寄り掛かり、リリスは地図の一角を指さした。真っ白な空白地帯に等高線が表示される。
「ここは地面が隆起したのよ。だから新しく山の裾野までは、各貴族家の土地だけれど山そのものは新しい土地なの」
首を傾げるルーサルカに、ぽんと手を叩いたルーシアが絵を描いて説明し始めた。
「立体と平面の違いなのね。こうやったら分かりやすいわ」
土地の形を描いた紙を折り畳んで立体にする。確かに理屈はわかった。地面の中から隆起した山は誰の所領でもない。妖狐族は中程度の山を好むため、住処としても問題なかった。だが、これでは復活する妖狐族の近くに、相応しい土地が生まれた形ではないか。
「もしかして、魔の森か」
復活させる種族に何らかの規則性があるのかも知れない。そしてその時期に合わせて、地形は変動する。そう考えるしかなかった。納得するかどうかではなく、納得するしかないのだ。魔族は、魔の森という母が与える大地に住む子供だった。
「ええ、用意したんだと思うわ」
にこにこするリリスに、アスタロトは理論的に考えることを放棄した。これは無理だ。まさに魔法のように生み出された種族と、空白の土地。理屈をつけようとしても、魔の森の気紛れで起きた現象は説明しきれない。
「この山を与えよう。爵位の授与式は魔王城でいいか」
せっかくだから親子で遊びにきて、周囲を観光していけばいい。必要経費は魔王城持ちだ。驚きっぱなしの親子は手を取って喜んだ。魔王城へ来た時に製作者登録の許可証を受け取ることに決まる。その場で作られた申請書類にルシファーが署名押印し、他の大公へ回された。
「普段もこのくらい仕事が早いと助かるのですがね」
側近の嫌味を聴こえないフリで流し、ルシファーはリリスを巻き込んで、親子に提案した。
「魔王城に来る時の服や装飾品をプレゼントしようか。どうだ、リリスも一緒に選ぼう」
「手伝うわ! ルカ達もお願いね」
当然のようにルーサルカを巻き込んだことで、アスタロトの反撃を封じたルシファー。呆れ半分で負けてあげる側近は肩をすくめた。




