1092. 後でお話があります、再び
店主自身にも攻撃が降り注いだため、事故だった可能性を考えて保護する。確信犯なら改めて処罰すれば済むが、偶発的な事故なら店主の死は取り返しがつかないのだ。
最悪の事態を考えて動く側近を見守りながら、ルシファーは咄嗟に出た本音を取り繕う方法に悩んでいた。まずい、あの表情は怒ってる。絶対に後で説教されるぞ。
唸るルシファーの腕をしっかり捕まえて、リリスは下から見上げた。身長差は20センチほど。今日はお出かけ用のヒールなので、もう5センチ縮まった。背伸びして、ルシファーの頬に唇を押し当てる。
「リリス?」
「アシュタに謝った方がいいわ」
ね? 一緒に謝るから。そう言われてしまえば、逃げる余地はない。苦笑いしてリリスの頬にキスを返した。
「そうだな」
犬獣人の店主を結界に入れ、自分も守りながら無事帰還したアスタロトに「悪かった」と頭を下げる。しばらく無言が落ちて、アスタロトは「誰の入れ知恵でしょうね」と笑った。許してくれるらしい。
緊急事態だったこともあり、アスタロトはさほど怒っていない。民を守るために手っ取り早く優先順位を決めたルシファーの判断は、間違っていなかった。ただ気分的にむっとしたのはしょうがない。逆に笑い過ぎて、動けなくなったのはベルゼビュートだった。
「お義父様、ケガはありませんか」
駆け寄ってくれたルーサルカに微笑んで頷き、店主を結界から出した。転がるように地面に手をついた店主は、まだ呆然としている。
「ケガはないか?」
ルシファーが尋ねると、目を見開いたまま頷いた。ぎこちない様子から、まだ混乱しているのが窺える。攻撃ではなかったらしい。
「あの簪に似た商品は、なんだったのだ?」
「あ……えっと、すみません。あれは魔法を販売しようとして……うちの子のアイディアなんですが」
事情をよく聞くため、ルシファーは店主の獣人男性を伴い、近くの店を借りた。飲食店なので、ついでに食事を済ませる算段でもある。
「ルシファー、プリン!」
真っ先に果物が乗ったプリンを注文するリリスに、アスタロトがストップをかけた。
「リリス姫、お食事をした後のデザートにしましょう」
「何を言ってるの? プリンを食べて、ケーキを食べて、最後にデザートの果物を食べるのよ」
「何ですか、そのメニューは」
いけませんと叱るアスタロトに頬を膨らませ、リリスは内緒の話を口にした。
「だって、こないだアシュタがいない時に、屋敷で食べ……もごっ」
「な、何でもないぞ」
慌てたルシファーが口を塞ぐ。だがほぼバレた状態で、これは悪手だった。にっこり笑うアスタロトは再び「後でお話があります」を発動する。項垂れたルシファーをよそに、大公女達は各々食べたい物を注文し始めた。リリスも魚料理とスープ、パンを注文する。
ルシファーの分だと言って、肉と温野菜の蒸し物も追加したリリスは、何も注文しないイポスを手招きした。
「ご用ですか」
「ええ。イポス、30分ほど休憩して。その後デザートに付き合って欲しいの」
休憩時間に食事をして、デザートに付き合うのは仕事として提案する。素直に食事しなさいと命じてもいいけれど、それは何か違う気がした。でも休憩時間が長すぎると、彼女は遠慮する。隣に座るようお願いし、リリスは仕事モードに入った2人から少し離れた。
「わかりました。ありがとうございます」
以前は頑なに断ったイポスも、だいぶ慣れてきた。この主人は何を言っても、最後は自分の思うように叶えてしまう。それが無理矢理ではなく、叶えられる範囲の我が侭だから困るのだ。突っぱねられる内容なら、イポスも折れることはなかった。
ベルゼビュートがさり気なくフォローに入り、結界を張りながら食事を始める。安心したルシファーは店主と向き合った。




