1091. 食べちゃったのか
「やたら豪勢な肉を振る舞ったんだって?」
ルシファー同様、何か感じたらしいベルゼビュートも口を付けなかった神龍肉は噂になった。なんでも魔力量が増えたとか。その噂を聞きつけたルキフェルが、現地調査という名目で合流する。
「ロキちゃん、あのお肉はアシュタが持ってきたの」
「……罪人、食べちゃったのか」
ぶつぶつと呟くルキフェルの文句の中に「実験に使いたかった」だの「僕がやりたかった」と物騒な文言が混じっているのを、ルシファーは無視した。そっとリリスの耳に両手を当て、結界で音を防ぐのも忘れない。あまり黒い面はリリスに近づけたくなかった。
「ルキフェル、調査対象はそれだけか?」
現在は魔の森を調べていて忙しいはずだろう。そう告げると、思い出したようにルキフェルが明るい声を上げた。
「そうそう! また親のいない鳳凰の雛が出たって聞いたんだよ。どこ?」
「火口で、アラエルやピヨが見てるぞ」
複雑な事情を察した様子で、ルキフェルは苦笑いした。屋敷をピヨに燃やされかけた話は、すでに魔王城に伝わったようだ。
観光中の魔王様御一行グループは、現在大公3人と大公女3人、護衛付きという大所帯だった。本屋の前で立ち止まり、老婆の書いた物語の続編を手に取っている。当然お買い上げ決定で、本屋はほくほく顔だった。
「雛の方は僕が調べる。あとは任せて」
管理も含めて対応するというので、魔王城の城門で預かる予定なのを説明して別れた。少し残念そうなリリスだが、ルシファーが何かを囁くと嬉しそうに笑う。幸せそのものの光景に、魔族は安堵を覚えた。魔王と魔王妃が仲良く過ごす間、少なくとも大きな災いが訪れることはない――そう感じるのだ。
「ルシファー、あのお店が見たいわ」
視察の時と同じように、地元にお金を落とす目的で観光を再開する。温泉街はさまざまな種族が集まる観光地のため、土産物を扱う店が多かった。小さなアクセサリーから温泉絡みの食べ物や小物、大きな湯船に至るまで。豊富な土産品が揃っている。
「簪か?」
「違うみたい」
美しい棒状の飾り物を見つけ、リリスに手を引かれたルシファーが駆け寄った。魔石を使い、棒は金属でできている。簪や髪飾りのように見えるそれを、リリスは褒めながら手を伸ばした。
店主は穏やかな笑みを浮かべ、何も言わずに見ている。リリスが手を触れた途端……それは破裂した。結界が作動したため、リリスには傷ひとつない。しかしルシファーは慌てて抱き寄せ、己の腕で婚約者を庇った。
厳しい顔をしたベルゼビュートが間に入り、アスタロトも周囲への警戒を露わにする。爆発音に驚いた周囲の通行人が、じりじりと距離を開けた。イポスが背後を守るために剣に手をかけ、大公女達もリリスを守ろうと動いた。
「店主は無事か?」
リリスの無事を確かめたあと、ルシファーが次に気にしたのはそれだった。攻撃が連続して来ないなら、偶発的な事故の可能性が高い。心配を口にしたルシファーの意思を受け、アスタロトが店主に近づいた。
俯いて動かない店主の肩に手を触れたアスタロトが、店先にあった飾り物に襲撃される。事故ではなかったらしい。そう判断しながら、ルシファーは店主周辺に結界を張った。周りをすべて守るより、外へ出さないよう露店ごと店主を覆った方が安全だ。アスタロトも一緒に閉じ込めてしまったが、まあ……問題ないだろう。
「ルシファー様、あとでお話があります」
「……いやだ」
思わず本音で答えてしまい、アスタロトの怒りをさらに焚き付ける魔王。青ざめた彼の様子に、話の内容が聞こえなかった民はざわついた。




