1084. ドM竜の一石二鳥
デカラビア子爵家へは、帰城時に雛を預かる予定だと伝えてもらった。すごい長文の感謝の手紙と共に、あの柑橘ジャムが添えられている。
「……どれだけ迷惑をかけているんだ?」
「うっかり預けるのも考えものですね」
ひとまずこの屋敷に引き取るべきか。だがボヤならぬ半焼を引き起こしたばかりだ。唸る2人にリリスが意外な解決方法を示した。
「アラエルも来てるんだし、ピヨと一緒に火口にいてもらえばいいじゃない」
「「その手があった」」
火口なら炎を噴こうが飛び込もうが、影響はない。成獣になった鳳凰の喧嘩ならまだしも、あの雛サイズなら大きな騒動は考えにくかった。長文の手紙に返事を出すついでに、それを伝えればいいだろう。
軽く考えて手紙を読み始めた。分厚い手紙はロール状態で巻いてあった。読んだ部分を隣のアスタロトが読み、ルーサルカが丁寧に巻き直していく。リリスやシトリーが覗き込み、レライエは婚約者の鱗剥ぎに忙しかった。
なんでも定期的に剥がないと、新しい鱗が出づらいとか。悲鳴をあげながらも剥いでもらうアムドゥスキアスは幸せそうだ。1枚剥ぐたびに、痛かった場所を撫でてもらう顔は、デレデレと崩れていた。
そんな習慣あったでしょうか。アスタロトの疑問に、ルシファーも首を傾げる。ルキフェルも瑠璃竜王で定期的に美しい鱗が生え変わるのだが、剥ぐ姿を見た記憶はなかった。そこへ書類片手にルキフェルが現れる。ついでに温泉を楽しもうと、入浴用セット持参だった。
「何やって……翡翠竜、そんな趣味があったんだ?」
同じ竜種で生え変わりがあるルキフェルがドン引きしている。どうやら翡翠竜の説明は自己流だったらしく、レライエの説明を聞くなり青ざめた。
「げっ、そんな痛いことしなくても数十年ごとに勝手に取れるじゃん」
「え?」
レライエが手を止める。半分ほど剥げた鱗を摘んだまま、動きがストップした。
「あ、途中でやめないで」
怒りのままにべりっと剥ぐ。
「お前、私に嘘を教えたのか?」
睨む婚約者の前で、緑の竜はモジモジと短い両手を動かした。それからぼそぼそと理由を説明し始める。
先日の財産確認の際、思ったより使っていたことに気づいたらしい。レライエへのプレゼントが主な使い道なのだが、その穴埋めに自分の鱗を売ろうと考えた。だが自分で剥ぐのは怖いので、レライエに頼んだ。膝の上に抱っこしてもらえて、痛い場所も撫でてもらえる。一石二鳥と考えたのが始まりだった。
「次はちゃんと話せ。嘘をついたら婚約を解消するぞ」
目を見開いたアムドゥスキアスの頬を、ぽろぽろと涙が落ちる。竜珠と呼ばれる宝石に代わった涙が輝くが、踏み付けたアムドゥスキアスがしがみついた。
「やだ、番になって! 嘘つかない、嫌いにならないで」
必死な姿に苦笑いし、レライエはしっかり約束を取り付けた。リリスが得意だった指切りまでして脅す。
「……羨ましくないけど、吐きそう」
ルキフェルが顔を顰めて足元の竜珠を拾う。取り出した箱にすべてしまうが、アムドゥスキアスはまだ泣いていた。
「ねえ、アドキス。これで不足分は補えると思うよ」
振り返った翡翠竜は思わぬ副産物に目を輝かせる。すぐに箱を覗き、数えてから婚約者への結納目録に書き足した。すべてプレゼントするらしい。
「ルキフェル、その書類は処理しておくから風呂入ってこい」
直したばかりで快適だ。渡された書類を確認して署名しながら、ルシファーが手を振る。まだ入浴していなかったアスタロトが同行する旨を伝えると、すぐにベールが飛んできた。過保護っぷりは変わらない。
城が留守じゃないかと苦笑いし、入浴したら帰るだろうと放置した。




