1068. 結婚式の準備に着手
休暇まで4日、この日は新しい法が施行される予定のため、ルシファーは御前会議に出席した。なお、リリスは体を冷やさないよう欠席だ。自主的に読書に勤しんだ。
次の日は簡単な視察があったが、これまたルシファーが単独で出かけた。大広間での会議より寒い屋外に出るため、リリスはこの日もお留守番である。休暇明けのイポスが、温かい薬草スープを持ち込んだ。イポスの一族に伝わる料理らしいが、ルーサルカやレライエにも好評だった。
そして今日……ルシファーは機嫌よく書類整理を始めた。出かける前に書類をすべて片付けるよう言われたのだが、今日は執務室での作業のためリリスと一緒にいられる。嫌いな書類も、彼女と一緒なら楽しいと鼻歌混じりだ。
巨大なフェンリルをソファ代わりに、リリスは読書を始める。その隣に置いた執務机で、ルシファーは結婚式用の予算案に唸った。ベルゼビュートの試算した金額が、思ったより高額だったのだ。
数年分の予算に匹敵する巨額に、どこか削れる経費はないか悩み始めた。だが、リリスや自分の衣装に妥協する気はない。最高の装いで、美しいリリスの隣に立つのは確定だった。ここに関しては、自費で捻出する手もある。
宝飾品は山ほどあるが、リリス用に幾つか仕立てる予定だった。これも手持ちの宝石を提供すれば安く済むだろう。その旨を書き加えた。
料理……ここはケチってはいけない。逆に金額を増やしてでも豪華にしなくては、あちこちの種族から不満が出る。8万年を独身で過ごした魔王が、ついに妃を娶るのだ。魔族総出で1ヵ月間の宴が予定されていた。
酒や料理が途切れないよう、完璧に手配する必要があった。栄養失調事件もあったため、食料の残量計算をもう一度行うよう指示した。振る舞い過ぎた場合、魔の森が復活する前に飢える種族が出たら困る。
祝い事は大切だが、それ以上に民の生活を守らなくてはならない。身に染み付いた考えをそのまま記し、アスタロトへ差し戻した。
飾り付け……これに関してはエルフやドワーフを始めとする魔族総動員で、持ち寄りとなっている。予算計上はなく、ベルゼビュート指揮で一週間掛かりの大仕事だった。飾り物自体は民の持ち込みで出費ゼロだが、作業中の飲食は魔王城負担である。ここは計算通りで問題なさそうか。
「ねえ、ルシファー」
「どうした?」
読書していたリリスの声に、慌てて顔を上げる。すたすたと近づいたリリスは、ルシファーの眉間に指を当てた。
「皺を寄せて悩むなら、誰かに相談したら?」
「あ、ああ。そう、だな」
なぜか一人で抱え込もうとしたが、大公も大公女達もいる。分担して最後に結論を突き合わせればいい。リリスの指摘がストンと胸に落ちた。
「それで、何を悩んでいたの?」
まずは自分が話を聞く。そんな口調でリリスが書類を覗き込んだ。書かれた内容に目を通し、大きな金の瞳を瞬かせた。
「結婚式の準備、もう始めるの?」
「規模と予算が大きいからな。婚約のように一部の貴族だけというわけにいかない。だが領地を空けられない者達もいるため、交代で来るのだ」
「私のドレス、こんなに必要なの?」
「毎日着替える予定だぞ」
「無駄よ。だって普段は着られないじゃない。そうね……7着に絞りましょう。それで順番に着るの。そうしたら一週間で全部の衣装が見られるわ」
リリスの意図に気づき、ルシファーが目を見開いた。一週間で一周するよう7着にすれば、交代で式に顔を見せる魔族もほとんどの服を目にすることができる。毎日違う服を披露したら、見られなかったと嘆く者も出るだろう。それに参加する民が同じ服をアレンジして纏うきっかけにもなる。
「確かに言う通りだ。オレより優秀だな、リリス」
うふふと笑ったリリスは、甘えるように膝に座った。それから書類を捲りながら、ひとつずつ懸案事項を話し合う。書類の進行具合は一人で悩むより早く、だが甘えた分だけ少し遅れた。




