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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
2章

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星の軌跡が手繰り寄せる始まり








 小さな森を抜けた先――振り向いた少年が全身を使って手を振った。



「おーい、シオン! アルベルト! 早く!」



 暗い森の中で、彼の赤い髪だけが月明かりに照らされ、揺れるのが見えた。



「ヴィンス。そんなに急がなくても、流星群は逃げないよ」



 森の狭い通り道を歩いている、闇に溶けるような漆黒――そんな出で立ちの少年が、呆れた声を上げる。



「春の流星群は、1刻に10個しか流れないんだぜ! 

 十回しか願い事できないんだから、一つたりとも逃せないだろ!」



 ヴィンスと呼ばれた赤髪の少年の声が、森の中に響いて溶けた。



「流れ星に願い事なんて、子供みたいに……」


「何言ってんだよ、子供だろ! 特にシオンはまだまだ子供だ!

 いいから早く! アルベルトも早くシオンを連れてきてくれよ!」



 漆黒の少年――シオンの言葉に耳を貸さないヴィンスが、シオンの隣を歩く少年へと声をかける。

 森の中で僅かに差し込む月明かりが、その少年の髪を煌めかせた。



「ヴィンス。好きにしていいとは言ったけど、ヴェルマン卿にまでそれを許可した覚えはないよ」


「なーに、かたっ苦しいこと言ってんだよ! そんなこと言ってたらアイリスに、‘’お兄様こわーい‘’って言われんぞ!」



 シオンの刺すような――諫止(かんし)にも、全く動じることなく、声色まで変えて笑ったヴィンスに、



「どうしてそこでアイリスが出てくるかな」



 シオンは可愛らしい妹の姿を頭に浮かべて、首をゆるく振った。

 その間にも、彼らの前でヴィンスは「早く早く」と、声を上げている。



「全く……僕の従者は、本当に落ち着きがないうえに、口が減らない。

 悪いね、ヴェルマン卿」


「いいえ。私は気にしておりません、殿下。

 私たち四人の小さな世界に爵位での隔たりなど、あってないようなものです」



 月の明かりを宿した銀髪が、暗闇を照らした。



「それもそうだね。なら、君も僕に対してヴィンスのように接してくれて構わないよ。

 いつまでもそれだと、君も疲れるだろう?」


「それは……」



 シオンの言葉に、銀髪の少年は明らかに動揺を示した。

 二人の前方から、赤髪の急かす声が途切れることなく聞こえてくる。



「ヴィンスがうるさいから、さっさと行こう。ほら、アルベルト」



 アルベルトと呼ばれた少年は、困ったように眉を下げて、小さく首を振った。



「はい」



 二人の少年が森を抜けた時、夜空に一筋、星が流れた。







 ◇◇◇







 こぼれた大きなため息が、夜風にさらわれていく。



 王国首都――エルディナにある宿。

 そのバルコニーの柵に凭れて、僕は夜空を見上げていた。



 もうどれくらい、そうしているのかわからない。

 ここのところ、色んな事が一度に起きて、頭がパンクしそうだった。



 湖上都市では、僕の護衛騎士の隊長であったアルフォンスに出くわし、要塞都市まで連れ去られ、帝国に無理やり連れ帰されると思っていたところを、エーレたちに助け出された。

 

 その後、アルフォンスがどこに行ったのか……そういえば、聞けていない。




 僕がルシウスとして、生きることに覚悟を決めた影響か――後天本質が発現して、しばらく熱にうなされた。

 その間に首都近郊の村で、レナータの裏切りで罠に嵌められ、暗殺ギルドに襲われて……


 結果的に、どうにか凌げたからよかったものの――




 その気持ちの整理がつかないうちに、首都間近まで来て、謎の少年が僕たちに‘’挨拶‘’をしに来た。


 僕より背丈の小さい――法衣を着た、異様な雰囲気の少年。

 僕たち以外の全ての時間が止まったようなあの景色は、あの少年の作り出した現象だったんだろうか?



 ――その力……どこの神の権能だ――



 エーレはそう言っていた。

 神の権能を持つ彼がそう言うのだから、あの奇怪な少年も強大な力を持っているのかもしれない。


 何せ僕は、あの少年を前にして、体の底から恐怖を感じていたのだから。




 エーレたちを目の前にした時とは違う得体の知れない恐怖。


 どんなに足掻いても、絶対に敵うことのない捕食者を前にしているような感覚だった。

 

 少年は、僕の知らないエーレたちを知っているような口ぶりだった。

 会ったことがあるとも言っていたはずだ。



 ――面白い組み合わせだよね。皇太子ユリウスは君の仇敵でしょ?――



 何よりも少年のこの言葉が、頭から離れなかった。


 エーレが王国の前王室――その第一王子で、更にその王室を滅ぼしたのが、僕の父、皇帝で……

 エーレにとって、僕は憎むべき仇敵で……





 まるで夢を見ているように、全てが信じられなかった。

 何かの間違いだ。

 

 エーレが王国の元第一王子? あのエーレが?

 そもそも王国に、闇の本質を持った王族の話なんて聞いたことがなかった。




 それに……王国の内乱を引き起こしたのは、皇帝であることも……

 そんなはずがない、あってはならない。


 けれど、皇帝は大陸を手中に収めるためなら、どんな手でも使うに違いない。




 皇帝が王国の王弟を唆して、支配魔法で洗脳し、当時の王室を滅ぼした結果、王弟が玉座を得た。


 馬鹿げたシナリオのようだったけど、この帝国が王国を操縦政治しているのは、すでに確かめる必要のない事実だった。

 それに僕は実際に、皇帝の支配魔法の中で生活していたんだ。




 あの少年が語ったことが、全て嘘であると思いたいのに、全てが真実であってもおかしくないことを僕は知っていた。


 彼らが――エーレたちが僕にたくさんの隠し事をしていることなんて、わかりきっていたはずだった。

 けれど、これはあまりにも予想外すぎて、頭がついていかない。



「僕は、本当に何も知らなかったんだな……」




 ――あの皇帝の子供とは思えないくらい、君は無知なんだね――




 知る機会もなく、知る術もなかった。

 王国の内乱の事情も、前王室の人たちが、どうなったのかも僕は知らない。

 歴史の授業で、ほんの少し耳にかじっただけだった。



 エーレは僕と共に行動する間、何を思っていたんだろう。

 どうして、僕を一緒に連れて行こうと思ったんだろう。



「ルシウス」



 あの夜、エーレが教えてくれた、その名の意味を思い浮かべた。



「どうして、僕がルシウスなんだろう」



 夜空は満天の星空で、あらゆる星座が、運命の軌跡を描いている。

 けれど、今の僕はそれを見ても、綺麗だとは思えなかった。


 前にも、こんなことがあったような気がする。

 いつだっただろうか……



 ああ、そうだ。

 帝国の辺境の地。まだあの時、僕は一人で逃げていた。


 追手に追われて、逃げた先の森で、岩肌に背を預けて、空を仰いだ時だった――




 今思えば、あれが全ての始まりだった。


 僕を守るように魔物の前に立ちはだかった、エーレの姿が思い出された。

 あの時からずっと、エーレは僕を守ってきてくれた。

 もうその時には、彼は僕が帝国の皇太子であることを知っていたはずなのに。



 あの少年は、エーレのことをなんて呼んでいたんだっけ?



 そんなことを思って、また大きなため息を吐きだした時だった――







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成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
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