「動け――声なき命令」~ここまでのあらすじ
ルシウスは熱を抱えて、眠ったままの様子を確認したシュトルツたち。
ミレイユに呼び出されて、部屋に全員が揃った。
いつものように、光の魔鉱石が練りこまれたカップに、ミレイユの付き人レナータがお茶をいれてくれる。
ミレイユは彼らに、リクサから封書を預かったと言った。それを預かってきたレナータは部屋に忘れたと取りに戻った。
こんなタイミングで封書? リクサは何を考えてるんだ。とカロンの意見。
どうせ、首都についたら会いにこいということだろう。
その通り、ミレイユはルシウスを伴って、彼らをリクサの元へ連れて行くことを命じられていた。
レナータがなかなか戻ってこない。その時、シュトルツが何か違和感を感じた――と時にはすでに遅かった。
光の魔鉱石のカップと油断していた彼ら。その中に盛られた何かで全員が身動きがとれなくなる。
筋肉弛緩、神経麻痺。その中でエーレだけがどうにか立ち上がった。
「うごけ」
声なき命令――彼の口の動きを見て、シュトルツは咄嗟にやるべきこを思い出し、割ったティーカップで自らを指して、どうにか一時的に体を動かせるようにする。リーベもまたそうだった。
そこに、なだれ込んできたのは暗殺ギルド員。
筋肉弛緩で体はまともに動かせない。声も出ない。神経麻痺で精霊と同調するほどの集中力を保てない。
絶体絶命のまま。彼らは、ミレイユの回復待ち。魔法が使用できるまでの耐久戦に持ち込むしかなかった。
ルシウスはそんな中で、目が覚める。
エーレが彼の部屋に張りなおした隠蔽の魔法によって、ルシウスの頭にエーレたちの状況が流れ込んできたためだった。
いつもならあり得ない、制御が不安定なそれも含めて、ルシウスは彼らの状況を把握し、熱にうなされたままそちらへ向かってしまう。
乱戦の中、ルシウスが部屋にやってきたことを知ったエーレ。
それで状況は一気に悪化してしまう。
標的をルシウスに定めた敵に、エーレは咄嗟にルシウスを庇い重症を負う。
ルシウスはあらゆることが瞬時に理解できず、エーレの怪我を見て、パニックに。
魔法を暴走させてしまった。
その中で回復したミレイユの光魔法が発動し始める。
しかし、後天本質も不完全なまま、生命力だけ暴走させたルシウスのそれを収めないと、彼の命に係わる。
重症のエーレは、自らの命を削る覚悟で、闇の魔法を使い、ルシウスの生命力を吸い取った。
ルシウスの風魔法によって飛ばされた敵は次々と起き上がってくる。
こちらの仲間は満身創痍。
通常の魔法ではもう対処できない。そう判断したエーレはミレイユに「諷え」と命じた。
ミレイユの霊奏によって、持ち直した面々は無事、暗殺ギルドを掃討した。
エーレの傷も治り、どうにか生け捕りにできた暗殺ギルド員から情報を吐かせることに。
そういった場を避けるエーレに代わって、シュトルツとリーベが敵への尋問を開始した。
その部屋の前で待つエーレの元に、目が覚めたルシウスがやってくる。
お礼と謝罪のためにやってきた彼は、不用意に扉をあけてしまい、中で行われていることを見てしまう。
それも含めて、エーレへと色々質問を繰り出すルシウスのところへ、部屋の中からシュトルツとリーベが出てきた。
なかなか情報を吐かない。その相談であった。
これからどうするか、というシュトルツに、ルシウスは「やりすぎではないのか?」と問う。
その時、シュトルツはいつもとは違う一面を見せた。
「俺は必要ならいくらだって、残酷になれる」
それは冷酷さと怒りを交えた発言のように見て取れた。
そしてエーレも入室。残酷な3つの選択肢を敵に与える。
3つ目は「情報を吐いて、ここから逃げる」というものだった。
15分後、再び部屋に入った彼ら。敵は腕を切り落とされる寸前で情報を吐いた。
暗殺ギルドのマスターの現在の拠点は、聖国と帝国の国境にある、モラン山脈。
その「モランの懐」という聞いたことのない、隠語だった。
ルシウスはホッと胸を撫でおろしたのも束の間、シュトルツが目の前で敵の首を落としたところを見てしまう。
彼は激昂した。
約束が違う。情報を吐いたら、逃がすと言った、と。
シュトルツはただただ冷静に「逃げるという選択肢は与えたけれど、逃がすとはいっていない」と詭弁を返した。
敵を逃がすメリットがない。そうルシウスに諭したリーベ。
受け入れられない現実にルシウスは混乱した。
そんな彼へと「話を聞いてやる」とエーレが部屋に誘う。
そこでエーレはルシウスの言葉を我慢強く聞いた。
全てを聞いた後、彼は言う。
全てを理解する必要はないし、無理に追い付こうとしなくていい。
俺たちについてくると決めただけで、今は十分である。
急いでもいいが、焦るな。と。
ルシウスは整理できない想いを抱えたまま、仲間とともに首都へ向かうのであった。




