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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
2章

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誰かが痛む音

お茶に何かを盛られて絶体絶命になりながら、エーレたちは暗殺ギルドと対峙。

そこに熱にうなされたルシウスがやってきたことで状況は悪化。

エーレが重症を負い、それを見たルシウスが魔法を暴走させるもエーレによって鎮火。

ミレイユの霊奏によって危機を切り抜けた。そして生け捕りにした敵から情報を吐かせにかかる。



エーレ→ルシウス視点。ややこしくてすみません。

※ほんの少しだけ、残酷描写が入ります。ほとんどありませんが、苦手な方はお気をつけください。

 



 エーレは扉の奥で、行われているだろうことを考えて、気分を悪くした。

 暗殺ギルドの頭の現在の拠点――それがトラヴィスへの対価だった。

 情報屋でも、たどり着けない情報。

 暗殺ギルドに狙われることを想定した上の対価だった。


 今まで、暗殺ギルドを放置していたせいで、計画に支障が出たことが多い。

 ‘’今回‘’は、先に潰しておかないといけない。

 そのためにはトラヴィスへの対価として、暗殺ギルドの頭の拠点を渡すのが手っ取り早い。


 問題はどうやって、潰すかだったが……


 体に鈍痛が走る。

 体の傷を癒せても、乱れた生命力(リーファ)まで回復するわけではない。

 ルシウスの暴走した生命力(リーファ)を吸い上げたせいだった。


 長引くようなら、あとでリーベの土魔法に頼るしかないか……

 血が足りていないせいか、頭が鉛になったように重い。

 思わず、息を吐き出した。



「新しい隠蔽の魔鉱石を作っておいた方がいいな……」



 音を遮断するくらいの闇の魔鉱石なら、すでにある。

 けれど、気配や存在まで隠蔽出来るものを作っておいたほうが、今後の役に立つかもしれない。

 捕まえた男が情報を吐くのに、どれくらい時間がかかるだろうか。


 正直、ひと眠りしたいところだったが、首都に着くまで眠れるような状況ではなかった。

 シュトルツはおそらくキレているだろうし、勢いあまって捕まえた男を殺してしまわないか、心配でもある。

 けれど、中に入るのは躊躇われた。

 リーベがいるから大丈夫か。

 そう思うことにして、壁に背を預けたまま、目だけ閉じることにした。












 すっきりとした目覚めだった。

 全身に籠っていた熱が引いている。

 体は痛くないし、声も普通に出る。

 見慣れない天井、体を起こして見渡した時――先ほど起きたことを思い出した。

 咄嗟にベッドから出て、窓の外を見る。


 まだ暗い。

 あれから、さほど時間は経ってないようだった。

 まず、やるべきことと言えば……と思って、記憶を遡った。


 あれは、まだ熱にうなされていた時――夢を見ていた。

 そこにエーレの視野と思考、感情が流れ込んできて、飛び起きたのだ。

 流れ込んできたもので、状況はすぐに把握できてしまった。


 すぐ近くの部屋に、暗殺ギルドの襲撃が起きている。

 ミレイユの招集のため集まっていた全員が、毒を盛られてまともに動けない状況で戦っている。

 この部屋に漂う、微かに感じることの出来る――エーレの波動。


 闇の魔法で、部屋の存在を隠蔽しようとしただけであるはずなのに、制御が不安定で、彼の情報が共有されてしまったのだろう。

 彼にしては、珍しいミスだった。

 それだけ彼の生命力(リーファ)が不安定で、余裕がないという証拠でもあった。


 火照る体と朦朧の意識の中、ルシウスは近くにあった手半剣を持ち、部屋を出ることにした。

 そして、部屋に入ろうとしたと同時に後ろから襲われて、そこからは記憶が曖昧だった。

 ただでさえ、熱で朦朧としてたのに、エーレの怪我を見て、頭が真っ白になって……


 気付いた時には生命力(リーファ)を暴走させていた。

 エーレが止めてくれなかったら、危なかったかもしれない。

 今となっては、どうしてそんな行動をしたのかわからない。

 僕が行けば、足手まといになることなんて、冷静に考えればわかることだった。


 熱にうなされていたからなのか、ただ単にいつもの短慮な行動だったのか。

 けれど、悪戦苦闘する彼らに任せっきりにして、自分だけ隠れているなんて出来なかった。

 それでは、ユリウス()ユリウス()と同じだと思ったからだ。

 結果的に、もっとエーレたちを追い詰めることになってしまった。


 ルシウスはそれを思い出して、項垂れた。

 ――強くならなければいけない。


 ルシウスとして生きていくためには、力をつけなければいけない。

 彼らに遅れを取らないくらいに強く――


 まだ、彼らは起きているだろうか?

 とりあえず謝罪をしなければ……お礼も言いたい。

 そう思って、ルシウスは部屋を出ることにした。








 一番奥の部屋――その扉の隣の壁にエーレはいた。目を閉じたまま、両腕を組んで、背を預けて立っている。



「何してるんですか?」



 エーレしかいない。

 彼が片目だけで、ちらりと見てきた。



「体調はもういいのか?」


「はい、おかげさまで」



 ということは、シュトルツとリーベはこの扉の先なのだろう。

 とりあえず3人揃って、状況を聞きたいし、礼を言いたい。

 そう思って、安易に扉に手をかけた。



「おい、やめとけ」



 扉を開けたのと、エーレの声が同時だった。

 突如、前から聞こえてきた苦悶の声。目に飛び込んできたのは、シュトルツの手に握られたペンチ。

 その先に、こびりついた血。

 僕はそれを見て、無言で再び扉を閉めた。

 すると、扉の先の音は完全に消え去る――隠蔽だ。



「あ、あ、あれなんですか!」



 僕は勢いよく、右にいるエーレを見る。



「見ればわかるだろ。だから、やめとけっつったのに」


「もっと、早く言ってくださいよ!」


「お前が、人の話を聞く前に開けたんだろ」



 それはそうだ。

 それにしても、どうしてエーレは部屋の前にいるんだろうか。

 捕まって、悲惨な目にあっているあの男から引き出そうとしているのは、きっと前失敗した暗殺ギルドの頭の情報なのだろう。



「必要なのはわかりますけど、ちょっと人道に外れてるというか……」


「なに今更なこと言ってんだ」



 僕は「確かに」と頷いてしまう。



「シュトルツに、任せておいて大丈夫なんですか?」


「リーベもいただろ」



 シュトルツとその手に持っていたペンチが衝撃的すぎて、リーベの姿が目に入っていなかった。

 リーベがいるなら、安心かもしれない。彼なら、シュトルツのストッパーになってくれるだろう。



「でも、なんていうか……方法が原始的すぎませんか?」


「なんだかんだ原始的な方法が、一番効果あんだよ。それに、闇の魔鉱石に反応されたら終わりだ」



 暗殺ギルドの人たちのうなじ付近には、闇の魔鉱石が埋め込まれてある。

 魔法を使って、彼らから情報を引き出そうとすれば、魔鉱石が発動して、彼らから記憶と奪い――最悪の場合は自我さえも破壊してしまう。

 エーレの再び、両腕を組んで目を閉じた。



「何しにきた。力を暴走させたんだ、もう少し安静にしとけ」



 扉の先のことが衝撃的すぎて、すっかりここにきた理由を忘れていた。



「謝罪とお礼を言おうと思って……」


「そんなもん必要ない。お前を守るって約束しただろ。

 結果的に無事だったから、それでいい」


 ――もしお前がルシウスとして俺たちと行くことを選ぶなら、俺は全力でお前を守ってやる――



 城塞都市(ガルダイン)での約束を、エーレはしっかりと覚えていて守ってくれたのだ。



「それでも、僕のせいで状況が悪化しました。それに、エーレも……」



 思わず、エーレの腕やお腹あたりを見た。

 意識を手放す前に聞こえてきた、ミレイユの霊奏が頭に過った。


 エーレたちにしか使えないと思っていた霊奏――古代言語を使った精霊との会話を、何故彼女が出来るのかはわからない。

 けれど、その力で彼らの傷は回復したのだろう。

 それでも、受けた痛みがなくなるわけではない。





文字数加減で、中途半端な区切りで申し訳ないです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

お気軽に感想やブクマ、リアクションなど頂けたら嬉しいです!

今後もよろしくお願いします。

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