「空白の時間」~ここまでのあらすじ
アルフォンスに渡された紙の場所に向かったルシウス。
幼いころから側にいてくれた彼なら、冷静に話合えば何か妥協策が出る、そう信じていたが、「絶対に帰らない」と引かないルシウスにアルフォンスは強行突破に出る。
不意うちでイグリシウムの枷を付けられたルシウスは、途端体調を崩しながらも剣を抜いて抵抗する。
しかし、剣ではアルフォンスに勝てないことは目に見えている。
自分自身に剣を向け、脅す方法で、仲間が助けにくるのを待つ算段だったが、それを察したアルフォンスが言った。
「カロンは帝国の隠密部隊と対峙しているはずです。彼の処遇は貴方様にかかっています」
その言葉を聞いて、ルシウスは剣を下ろした。
アルフォンスに連れられて、ルシウスは城塞都市ガルダインに向かうことになった。
馬車での道中、ルシウスはエーレたちの身を案じながらも、短い冒険について振り返る。
それが自分にとって、どれほど大切なものだったのか、思い知ることになった。
ガルダイン手前の村で宿を借りた一行。
アルフォンスがルシウスの持っていた剣のことを尋ねた。
剣身に刻まれていた鷲の紋様。
あれは王国の剣で有名なグライフェン伯爵家の家紋である。
そして、そのグライフェン家に連なるものの流派は独特で、彼らだけにしか伝わっていない、と。
ルシウスはその剣をくれたシュトルツが「流派が独特で王国の人が見たらわかるから使わないようにしている」との言葉を思い出した。
けれど、もう彼にはそれを確かめる術はなかった。
そしてたどり着いた要塞都市。
ルシウスは帰城しなければならないということが現実味を帯びてきて、何もする気力がなかった。
明日、要塞都市に迎えがくるという段になって、バルコニーへいき外の風を浴びた帰り、彼はアルフォンスともう一人の護衛騎士ダリウスの会話を聞いてしまう。
エーレたちが要塞都市まで乗り込んできたということ。
そして、ルシウスが大人しく帰るなら、エーレたちからは手を引くと言った言葉が嘘であったこと。
要塞都市へ乗り込んできたエーレたちは背後から隠密部隊。そしてこの街で待ち構えている大勢の王国軍に囲まれる算段になっていた。
それを聞いたルシウスは絶望と失望と怒りに任せて、魔法を暴走させる。
一時的な感情の暴走によって本質以外の精霊と同調し、炎と雷を暴走させたルシウスを、ダリウスが滑り込んできて、イグリシウムの枷をつける。
その瞬間、ルシウスは意識を失った。
目が覚めると外は大雨だった。
窓からそれを見たルシウスは、枷をつけられたまま重い体を抱えて、アルフォンスに尋ねる。
「アルフォンスの主は皇帝なの?」と。
いくつかの会話を挟んだ末、ルシウスはアルフォンスが皇帝の支配魔法を受けていることに気づく。
その上、アルフォンスは家族を幽閉されていた。
それを聞いたルシウスは「僕が終わらせる」と覚悟を決めた。
同時に部屋の扉が蹴破られて、現れたのはエーレだった。
すぐに他の騎士6名に囲まれたエーレであったが、圧倒的な力の差で騎士たちを倒してしまう。
闇の魔法を見たアルフォンスは恐れ戦きながら、ルシウスの首に剣をつきつけて、エーレを威嚇する。
それを見たエーレはルシウスに問うた。
「今、俺の目の前にいるお前は、ユリウスか? ルシウスか?」
ルシウスはその言葉を待っていたように「僕はルシウスだ!」と大声で叫んだ。
途端、エーレは雷の魔法で移動。そしてアルフォンスを蹴飛ばして退ける。
エーレが抱えた静かな怒りのまま剣を下ろしかけるが、それをルシウスが止め、3人はそこから離脱することになった。
離脱した先、とある洞窟でまっていた仲間たち。
大きく動いたことで、制約が発動し、エーレに代償がやってくる。
エーレが休んでいる間、ルシウスはアルフォンスの支配魔法を解くために、ミレイユから水魔法の高等応用――中和を学ぶことになった。
中和の失敗の反動で苦しみながらも、どうにか及第点で成功させたルシウス。
彼が魔法を使いすぎ、生命力枯渇寸前で気を失ったところに、トラヴィスがやってくる。
事前にエーレがアルフォンスの身柄を引き受けることを依頼していたらしい。
そうして、ルシウス連れ戻しをどうにか食い止めた彼らであった。
ルシウスは夢を見る。皇帝に「自分の言う通りにしていれば苦しむこともない」そんな甘い言葉をささやかれる夢。
それが夢だと認識して、ルシウスは言い放った。
「自分のことは自分で決める」
その夢から覚めた時、ルシウスは「風」の後天本質を発現させていた。
自分の道を選び取り、進む覚悟をしたルシウスに風の精霊が同調した証拠だった。
しかし、後天本質発現で生命力が順応しきれず、ルシウスは高熱を出す。
そのままルシウスは眠ってしまい、一行は首都目前のとある村で一晩すごすことになった。
シュトルツたちは村に入って、宿をとる。
村に、そして明日から工事するという宿に入ったときから彼らは、拭いきれない違和感を感じていた。
その正体はわからず、首を傾げるシュトルツに、エーレはすれ違いざま呟く。
――備えろ――




