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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
2章

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悲鳴を隠した雨音のあとで

珍しく、リーベ視点です。

 



 余計な一言だったかもしれない――



 リーベはほんの少し後悔を胸に、洞窟の奥へと進んだ。

 自分が釘を刺さなくても、アルフォンスはきっと誰よりも後悔し、深く反省しているに違いない。

 出過ぎた真似をした。

 エーレほどではないが、裏切りを目の当たりにするとどうしても冷静さを失ってしまう。

 何度繰り返しても、この感情だけはなかなか制御することが出来なかった。


 イレーネとレナータは毛布にくるまり、眠っていた。

 その更に奥で、エーレも壁に凭れて、眠っているようだった。



「エーレの様子は?」



 その隣で、エーレを見守っていたシュトルツに聞いた。



「まぁ、多分大丈夫。フードを被って戦ったし、エーレが出来る限り、記憶の隠蔽もしてきたみたいだからね」



 彼はそう言って、隣に置いていた両手剣の鞘を撫でた。

 剣袋から出されたその両手剣を見るのは、久しぶりだった。



「それでも、制約は発動するんだな」



 制約の発動条件の線引きが、未だに曖昧だ。

 歴史や記録に残り得ることをすれば、天秤の調整という制約が発動する。

 どこからが記録や歴史に残るなんて、その時次第でしかない。



「まぁ、ほら。相手がカロンだって認識してたからね。

 俺たちがいくら隠蔽で姿を変えてても、少しは歴史に影響を与えるのかもね。

 エーレさんが許可したとはいえ、俺も結構暴れちゃったしねぇ」


「王国軍の被害は?」



 リーベの質問に、シュトルツはちらりと眠っているエーレを見た。

 その顔は困ったように眉を下げながらも、その口元は微笑まれている。



「エーレさんが殺すなっていうからまぁ、頑張ったよね。

 ちなみに帝国の隠密部隊には容赦しなくていいっていうから、そっちはある程度片付けておいたけど」


「エーレらしいな」


「でしょ? 俺も相手が軍人でも、自国民に剣を向けるのは、いい気はしないからね」


 リーベは眠っているエーレを見て、自然とため息をついた。



「’’今回’’はおかしい。何か大きな力が介入している。そうは思わないか?」



 そういうと、シュトルツは壁に頭を預けて、暗い岩肌を仰いだ。



「まぁ……このまま想定外のことが続くと、制約に反して動かなきゃいけないことが増えるだろうし、そうなるとエーレさんが持たないよね。

 なんだろうねぇ。俺たちの動きの裏をかくことが出来る誰かがいる、みたいなそんな感じだよね」



 二人のため息が重なった。

 リーベがシュトルツの隣へ、歩み寄る。



「もうすぐ首都につく。わからないことはリクサに聞くしかないな」


「あの人が教えてくれるとは限らないけどねぇ」



 シュトルツの言葉を聞きながら、腰を下ろそうとした時だった。

 洞窟内に、悲鳴に似た絶叫が響き渡った。

 ルシウスの声だ――リーベは下ろしかけていた腰を浮かせて、入り口付近へ向かった。



「何があった?」



 そこには蹲って、震えているルシウスの姿があった。



「今すぐやめさせてください! ユリウス様が……」



 アルフォンスが動揺を抑えきれない様子で、リーベに助けを求めるように声を上げた。



「中和が失敗すれば、どうなるかはご存じでしょう?」



 一方で、ルシウスの前にいるミレイユは、冷静にその様子を見ていた。

 中和は対象者の体内で混ざり合っている2つの生命力に介入して、バランスを取ったり、効果を打ち消す水魔法の使い方だ。

 間違えば、その両者もしくは、より強い生命力(リーファ)に介入者が飲み込まれることになる。


 制御が未熟で、極端な使い方しかできないルシウスには、早かったに違いない。

 アルフォンスにかけられた皇帝の支配魔法――その生命力(リーファ)に込められた皇帝の思考や感情。

 それは、ルシウスのトラウマだ。


 リーベは、素早くルシウスに駆け寄り、彼の肩に手を乗せた。

 氷魔法の断絶で引き離す――そうしようとした時、ルシウスがその手を払った。



「大丈夫です。僕一人でやれます。だから、手を出さないでください」



 そう言って、こちらを見たルシウスの顔は真っ青だった。

 それでもその瞳は、まだ強い意思を宿しているのが見えた。



「わかった。せめて貴方の生命力(リーファ)を安定させるくらいはさせてくれ。

 そのままでは、長く持たないだろう」



 恐慌状態のルシウスの生命力(リーファ)は乱れすぎている。

 そのままでは、同調率も親和率も極端に下がる。


 消費した生命力(リーファ)を、他人が分け与えることは、どの属性魔法にもできない。

 けれど土魔法を使えば、相手の乱れた生命力(リーファ)を安定させることが出来る。


 何故なら、リーベたちが見い出した土魔法の本質は、’’安定と保守’’

 ルシウスはそれに対して、拒絶は見せなかった。

 生命力(リーファ)が安定した彼は再び、中和を試し始める。

 何度も失敗を繰り返すルシウスを見て、隣のアルフォンスは悲痛な表情をしていた。

 けれど、それを止めることは、彼には許されない。


 リーベはそのたびに、ルシウスに土魔法を使い、ひたすら見守った。

 エーレがアルフォンスへ行使した氷魔法(断絶)で、一時的に支配魔法は彼の意識から切り離されてはいる。

 そのため混ざり切った状態よりは、中和しやすいはずだ。



 どれくらい時間が経ったのかは、わからない。

 いつの間にか、外の雨は止んでいた。

 ルシウスが取り乱す回数が減ってきた頃には、夜が明けだした。



「ルシウス。そこまでです」



 それまで沈黙を守っていたミレイユが、唐突に制止を促した。

 同時にルシウスの体がぐらりと揺れ、それをアルフォンスが受け止めた。



「ユリウス様?」


「大丈夫です。枯渇寸前まで生命力(リーファ)を使って、眠ってるだけですから」



 ミレイユはそう言うと、アルフォンスの前へ手を翳した。



「成功とは言えませんが、この程度の混ざりなら問題ありません。

 あとは貴方次第です。貴方の心が揺れることがあれば……その時は保障できませんが」


「ありがとうございます。ユリウス様」



 アルフォンスはそう言って、壊れ物を扱うようにルシウスを抱き寄せた。

 リーベはホッと胸を撫でおろす。


 この先、ルシウスの中和は必要になってくる。

 多少無理をしてでも、使えるようになってもらわなければいけない。


 けれど……


 リーベは、アルフォンスの腕の中で眠るルシウスを見た。

 果たして彼は、私たちが背負う業を知って、押しつぶされないだろうか――


 ルシウスは、‘’彼‘’ではない。

 それはこの短い期間、共にして、はっきりとわかっていたことだ。

 それでも記憶の片隅にこびりついた、過去の惨状が消えることはない。


 洞窟の中の沈黙に、朝陽が僅かに差し込んできた時だった。

 外から、馬の蹄の音が聞こえてきた。

 その場にいた全員が、警戒を露わにする。



「皆様ごきげんよう。いい朝ね」



 しかし、そこに現れたのは、予想だにしていない人物だった。


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