表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/204

まだ、知らない

 




 街の中心部は展望台から見た以上に、賑わいを見せていた。


 景観の問題上か、レネウスのように屋台はなかったため、僕たちは一件のレストランに入って食事を済ませた。

 店を出た先で、シュトルツと鉢合わせた。



「二人で観光とか、ずるくない?」



 僕たちを見た第一声がそれだ。勝手にいなくなったのは、シュトルツだというのに。



「何か買い出しですか?」



 彼の両手には、紙袋が下げられてあった。



「そろそろ暑くなるじゃん? だから新しい服と、他に必要なものを色々と、エーレさんのお遣いと……」



 彼は、紙袋の中身を開けて見せてきた。

 そこには、夏物の服とこれからの道中に必要な必需品、そしてエーレに頼まれたのだろう、本が数冊入っていた。



「書店か、私も寄ってみるか」


「リーベが好きそうなのは、あんまりなかったけどなぁ」



 リーベの呟きに、シュトルツが首を振った。



「リーベって、どんな本読むんですか?」



 彼らはよく、エーレの本を借りているところを見かける。

 読んでいるのは常に小説だから、どんなジャンルの小説なのか。そういう意図の質問だった。



「そうだな、精霊同調論は網羅したから、精霊力学論、生命力転移過程や属性間相互干渉についての論文。あとは共鳴周波数と磁場の相関性も読みたいと思っている」



 理解しようとすら思わない単語の羅列に思考が停止した。

 すぐに反応しようと思って開けた口のまま、呆気にとられてしまう。


「それに」と、まだ続けようとするリーベに、僕は思わずシュトルツを見た。

 

 正直、何を言っているのかわからない。



「こいつ、理論書や論文オタクでね。俺はさっぱりわかんないんだけど。そもそも俺、本嫌いだし。

 リーベ。とりあえず、そういう専門書はなかったって」



 シュトルツがそう言って、ようやくリーベはハッと我にかえった様子だった。



「そもそも、理論書とか俺たちにいらなくね?」



 僕はシュトルツの言葉に頷いてしまう。彼らは理論書なんて読まなくても、十分に強いのだ。



「実際に魔法を使うのと、理論で知るとでは全く別問題なんだ」



 反駁したリーベ。どうやら、彼はよほど理論が好きらしい。



「本なんて読まなくても、そこらへんエーレさんが知ってるじゃん」


「え? でもエーレって、小説しか読んでないですよね?」



 当たり前のように言ったシュトルツに、僕は首を傾げる。

 エーレが難しい学問書を開いているところなんて、見たことがない。



「え? エーレさんって、天才なのよ?

 あの人、もう読むものがないから小説読んでるだけなのよ」



 天才? たしかに、エーレは何かも知っているように見える時がある。


 僕の知らないことは、なんでも知っているし、シュトルツとリーベが彼の選択を尊重し従うのだから、それ相応の知識と判断力があるとは思ってはいた。



 だが、まさか大陸に数多ある学問書を網羅したとでもいうのか……?


 それでもう、取り入れる知識がないから、仕方なく小説を読んでいると……?



 僕は疑いの目で、シュトルツを見た。



「嘘と思うなら、今度試しに聞いてみたらいいよ。リーベもついでに、教えてもらえばいいじゃん」


「エーレがわざわざ既知の知識(もの)を、私に一から教えてくれると思うか?」



 リーベの声は、いつも以上に低く響いた。


 僕もシュトルツも、彼の言葉にフォローの一つも言えずに、沈黙するしかなかった。

 エーレなら絶対にこう言う。


「面倒だから、自分で本を読め」と。










 その後、結局リーベは書店に向かい、僕とシュトルツは宿に戻ることにした。



「あ、それ。リーベからもらったのね」



 道中、僕の首から下がっている魔鉱石に目を留めたシュトルツが言った。



「迷子防止札あるなら、おこちゃまも一人歩きしてもいいんじゃない? 観光したりないでしょ?」


「迷子防止札って……」



 リーベからこれを受け取った時の、僕の複雑な心境をまさに表現した言葉に、呆れと恥ずかしさ、そして少しの情けなさを感じた。



「僕もう、十六なんですけど……」


「それくらいの年頃って、自分はもう大人だ! って思うよねぇ。俺もそうだったなぁ」



 懐かしそうに空を仰ぐ彼を見て、なんとなく苛立ちを覚えた。

 大人が子供を見て、よく言うようなそんなセリフ。馬鹿にされているような、軽んじられているような。



「そういうシュトルツは、何歳なんですか。それほど年上でもないでしょう?」


「え? 俺? 何歳に見える?」



 好奇心に満ちた表情で訪ねてきた彼。正直、僕は外見で人の年齢を把握するのが苦手だった。


 城から出なかったのもあって、外見から年齢を予測してその答え合わせをするなんて、機会がほとんどなかったせいかもしれない。



「確実に五つは上なのは、わかります」


「そう? 俺って、そんな若く見える?」



 何故か喜びを見せたシュトルツに、僕の苛立ちは更に増した。



「で、何歳なんですか?」


「えーと多分―、今年で百十七くらいかな?」



 飄々とした、ふざけた声色。そして、ふざけた回答。



「知ってましたか? 今、この大陸の最長記録って、その百十七なんですよ?

 もう記録ものですよね、それ」



 馬鹿らしくなって、突き放すように言い捨てると、僕は彼をおいて速足で歩いた。


 しかし、僕より明らかに足の長い彼は、あっという間に追い付いてきた。



「じゃあ百五十は目指さないとなぁ。

 あ、でも人間って健康な精神で生きられるのって、百五十から二百が限界らしいよ?」


「それはもう――人間じゃないですよ、きっと」



 今後、たとえ大陸の平均寿命が延びたとしても、百五十歳を超える人は現れることはないだろう。


 もしそんな人がいるのなら、それは人間を超えた上位の何かか、もしくは化け物か……



 僕は振り返らずに、見えてきた宿屋に向かって、足を緩めず歩いた。









ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

お気軽に感想やブクマいただけたら嬉しいです!

ここから2章終盤にかけて、やっと秘密が明らかになります!

お付き合いいただけたら、励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ