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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
2章

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無言の領分

 






 




 目が覚めると、辺りは真っ暗だった。

 久しぶりに、よく寝た気がする。



 そういえば……昨日、彼らはどこに行っていたのだろうか。


 夜中のお茶会が衝撃的過ぎて、昨日聞くのを、すっかり忘れていた。



 そう思いながら、立ち上がった時、お腹が盛大に鳴った。

 よく眠ったおかげで、いつもより食欲が湧いている。僕の分の食事は、まだ残っているだろうか?




 幌の外に出ると、近くで火が揺らめいているのが見えた。

 目を凝らすと、その周りにはカロンの三人だけではなく、ミレイユをはじめとする彼女たちも、共に火を囲っているのがわかる。



 いつもは、寝食を別にしている二組が、何の風の吹き回しなんだろう。

 昨日のお茶会が思い出されて、僕が幌の外に出るのを躊躇った。



 お互いに嫌いだとはっきり言いながらも席を共にする、わけのわからない大人たちに囲まれて食べる食事なんて、食べた気にならないだろう。

 いっそのこと、もう一度眠ってしまった方がいいのかもしれない。



 そう思って、幌の中に戻ろうとした時、「おこちゃま起きたの?」と、シュトルツの声が背中に響いた。



 この男は……いつもいつも、あえて空気を読んでいないようなタイミングだ。



 僕は聞こえていないふりをして、そのまま幌の中へと足をかけると再び、



「おこちゃまの分の飯残ってるぞー。肉もパンも、今日はスープもある」



 と、追い打ちがかかった。


 僕に代わって、お腹の声がそれに答えた。

 何もない幌の天幕を見上げて、逡巡する。大きなため息と共に肩が沈んだ。








 火を囲む彼らの元へ行くと、シュトルツが待ち構えていたように食事を出してくれた。

 その周りには食後のお茶と言わんばかりに、いつものカップを手にして、優雅にお茶を飲んでいる面々がいた。



 見慣れた肉とパン。それとは別に緑一色ではあったが、芳しい香りのスープが、なみなみ注がれた木のお椀があった。



「レナータが山菜をとってきてくれてねぇ」



 僕の手に渡ったスープを見た後、シュトルツが嬉しそうにレナータに視線を移した。

 野営で簡単な料理をする時、その役割はいつもシュトルツ買って出ていて、大体は肉を焼くにとどまっていた。



「あ、ここらへんも貸してくれてね」と彼は続けて、火から下ろされ、隣に置かれた鍋や、既に洗われて、綺麗に重ねられた食器類を指した。



 いつの間に、打ち解けたのだろう。


 幌の中ではまともに会話もせず、他人のように振舞っているのに、お茶だけは全員で囲む。僕にはそれが、異様な光景に見えた。


 そうは言っても、やはり会話は少なそうだ。いつ険悪な雰囲気になるか、わかったものではない。




 さっさと食事を済ませて、寝てしまおう。


 そう決めて、僕は地面に置かれた食事を味わいながらも、出来るだけ早く咀嚼して、飲み込む努力をした。



 その間に交わされた会話と言えば、ほとんどがシュトルツで、レナータに山菜について教えてもらっていた。


 その隣では、お菓子をいくつか口に運ぶエーレがいただけで、あとは無言でお茶を飲んでいた。


 食事を終えたタイミングを見計らうように、レナータが僕にもお茶を出してくれる。

 彼女の厚意は有難かったが、内心はさっさとこの場を離れたかった。だから、そのお茶も出来るだけ早く、胃の中に収めてお礼と共にカップと食器を返した。




 レナータはそれを受け取ると同時に、魔法であっという間に、綺麗にしてしまった。

 魔法のこんな使い方があるなんて……



 彼女の手の中の綺麗になった食器に目を奪われていると、「これくらいなら練習すればすぐにできるようになりますよ」とレナータが言った。


 声につられて彼女を見ると、火に照らされたフードの奥で、青い瞳が光ったような気がした。




 一体、どうやってやったのか。どう練習すればできるようになるのか。

 その好奇心が僕をここに留まらせようとした。でも、それは今でなくてもいい。


 そう思って、立ち上がり、幌の中にある毛布を取りに行くことにした。




 ついでにカロンの三人の分も両手に抱えて、毛布で視界がほとんど塞がれながら帰ってくると、その時にはもうお茶会はお開きになるところだった。



 これで安心して眠れそうだ。

 三人分の毛布を一旦リーベに預け、さっさと眠ってしまおうと思った時、ふと思い出した。



「そういえば、昨日……どこ行っていたんですか?」



 重ねられた食器を、袋に仕舞っていくレナータが見えた。

 それをイレーネが手伝い、二人で幌の方へと向かっていく。



 それを、ぼんやり眺めていられるだけの沈黙が挟まった。



「お前が気にすることじゃな――」 「奴隷管理棟ですよ」



 エーレが言い終わる前に、ミレイユが言葉を重ねた。

 リーベから毛布を受け取ろうとしていた彼の手が止まる。



「お前……余計な口を挟むな」



 ため息に、僅かな苛立ちが含まれているのを感じた。



「余計なことではないので、申し上げたまでです」



 ミレイユはエーレの方を見ていた。

 フードで顔は隠されているが、僕にはその奥の眉が寄せられたような気がした。



「これはお前の領分じゃない」



 彼女に面と向き合って、エーレが低く言う。

 緊張感の漂う短い沈黙が流れる。


 僕はその二人を交互に見て、思わずシュトルツを視線を移すと、彼はほんの少しだけ首を傾けた。

 その口元は、小さく引きつっている。



「領分を持ち出すのでしたら、私には説明責任があります。昨日、その提案したのは私です」


「お前のお高い責任なんて、こっちは知ったこっちゃない。黙ってろ」



 再び、二人の間に静かで、ぴりぴりとした沈黙が漂う。

 先ほどまで、和やかだったのに、聞くタイミングを間違えた。


 僕はもう一度、シュトルツとリーベを見ようとした――その時。



「まぁまぁ、ミレイユ。エーレさんも」



 シュトルツは一歩進み出て、二人の間で手を小さく振る。


 ミレイユのフードが、小さく揺れた。

 次いで、エーレがため息を吐きだす。


 一触即発のような雰囲気に、僕は顔を引きつらせてしまっていた。



「――でしたら、彼の意見を聞きましょう」


「え、僕……?」



 突然、ミレイユに話を振られて、思わず体が強張る。



 確かに気になる。


 ――奴隷管理棟?

 そんなものがトルゲンにあることなんて、知らなかった。


 けれど、こんな険悪な雰囲気の中で、僕に振られても……



「貴方が知りたいというのなら、私は報告する義務があります」



 ミレイユが、こちらへと首を向けた。

 僕は思わず、ちらりとエーレを見る。


 彼も険しい表情でこちらを見ていたが、一度瞑目すると、諦めたように大きなため息を吐いた。



「好きにしろ」



 そう言って、リーベから毛布をひったくるように受け取ると、火の前に座り込んだ。





読んでいただき、ありがとうございました!

少しでも気になって頂ければ、お気軽にブクマ、感想ください!

次回は少し、重めの話になります。

今後も頑張っていきますので、よろしくお願いします!

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成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
― 新着の感想 ―
シュトルツもしかして家庭的!?素敵…! シュトルツが焼いた肉と山菜の香ばしいスープで晩餐をとりたい(*´∇`*)
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