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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
1章

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42/204

閑話休題―「宙にとける想い」

帝国から王国に渡る、船の中のそれぞれの話です。

ユリウス視点で進行してきたので、それ以外の3人の話。

 





 Side リーベ




「なんか、おもろいこと言って?」



 王国に向かう船の船室――1段目のベッドに座って、エーレから借りた本を読んでいた。


 当てがわれた部屋は隣のはずなのに、この馬鹿――シュトルツは私とユリウス(かれ)の相部屋の、2段目のベッドで寛ぎながら、そんなことを言ってきた。



 また子供みたいなことを……


 そう思って、無視を決め込むことにした。



「聞いてる?……ねえねえ、無視しないで?

 その本のネタバレするよ?」



 うるさい。

 この男の声はエーレとは、また違った意味でよく通る。

 聞きたくなくても、耳に入ってくる。



「暇つぶしに、なんかやろうぜ〜」



 この狭い船の中で、何をすると言うのか。



「子供じゃあるまいし、退屈くらい自分で凌いだらどうだ」


「俺、永遠の18歳だけど?」



 思わず、ため息が溢れた。



「言うなら、もう少し、面白い冗談を言うことだな」



「もうリーベさんったら、冷たいんだからぁ〜

 そんなんじゃ、彼女に愛想尽かされちゃうぞ?」



 声色を変えた、粘りのある語調が耳につく。



「お前こそ、いつまでもそんな風に振る舞って、そのうちエーレに愛想を尽かされても、私は知らないからな」


「え? 何言ってんの? そんなこと起こり得ないから。

 俺とエーレの絆を舐めてもらっちゃあ、困るねぇ」


「とりあえず、静かにしてくれ。今、良いところなんだ」



 手の中にある本は、クライマックスに差し掛かってる。

 普段、小説を自分から読むことはないけれど、読んでみるとそれはそれで面白い。



「リーベって、昔からさー。俺に当たり強くない?」


「お前が、そうさせてるんだろう?」



 ふと、遠い記憶が脳裏によぎった。


 昔か……あの頃から、そうだっただろうか?



 上で、くだらないことしか言わない男が、昔からこうだったことだけは覚えている。

 あの頃は今よりも、もう少し可愛げもあった気がするが。


 何故、シュトルツにだけに当たりが強いかなんて、わかりきってることだった。



 ――羨望と嫉妬。


 “大切”が傍にいるこの男を私は羨んで、嫉妬している。


 彼の飄々とした振る舞いが、そこに拍車をかける。



 どんなに自分を犠牲にしてでも、ただ一つ、大切なものを守り抜こうとしている。


 蛮勇に近い――その愚直さは見ていて、腹正しく思うことすらある。


 もし、私がシュトルツのように、生きることが出来ていたのなら……

 私が”彼女”を手放すことは、なかったのだろうか?



 そんな意味のない想像をして、後悔に押し潰されそうになる。



「ま、いいけど。

 とりあえず、チェスでもやろうぜ」



 全然、よくない。

 こちらは読書中だと、言っているのに……



 2段目のベッドから飛び降りたシュトルツが目の前に立った。


 あの頃と変わらない――真っ直ぐで燃えるような瞳が、楽しそうに細められた。



 私は諦めて、本を閉じ、ため息を吐き出す。



「お前は少し、他人に合わせることを覚えた方がいい」


「え? 俺、ちょー合わせてるじゃん?」



 幼くすら見える笑みを浮かべた彼に、思わず飛び出しそうになった、舌打ち堪えた。


 こうなったら、チェスで叩きのめすしかない。


 そう思って、私は重い腰を浮かせた。







 Side シュトルツ




 おこちゃまが、俺らについてくる。

 そう決めてくれたおかげで、ほんの少しだけ気持ちが楽になった。


 俺は、無理にでも引っ張っていくことを提案したけど、エーレがそれを許さなかった。


 気持ちはよくわかる。

 けれど、俺たちにはもう後がない。

 エーレがそれを一番、わかってるはずだった。



 手段は選んでられない。


 それでもエーレがそれを望むなら、俺はその意思に反することをするつもりは、これっぽっちもなかった。


 おこちゃまに何も話せない。

 曖昧に……漠然とした言葉を並べて――


 全て伝えられてしまえば、どんなに楽だろう?



 そんなことを思った時、嫌な記憶が蘇った。


 もう2度と、同じ轍は踏まない。


 ユリウス(かれ)を軽んじているわけではない。

 取り返しのつかない過去の経験が、伝えてはならないと呼びかけてくる。



「はー、面倒くさいなぁ」



 俺は駆け引きや、曖昧なやりとりが苦手だ。

 ありのままを全て、表に出すことの方が簡単なのに。


 エーレは一人で抱え込もうとするし、リーベは慎重すぎて、色んなことを表に出さない。



 おこちゃまはまだ全然、お子ちゃまだし。


 エーレやリーベに比べれば、幾分おこちゃまはわかりやすくて助かるけど。



 これからもっと、色んなことがややこしくなってくる。


 はー、やだねぇ。



「まぁ、エーレが望むなら、何だってするけれど」



 彼が望むなら、俺は何者にだってなれる。


 そのために、俺はここにいるわけだし?



「それにしても、退屈だ。

 リーベでも、からかいにいくかなぁ」



 俺まで、思考の渦に埋もれたら、ダメでしょ。


 さって、切り替えて、リーベに鬱陶しがられにでも、行くかな。





 Side エーレ




 鼻腔の奥に張り付く、イグリシウムの匂い。

 鼓膜に反響する、鎖の擦れる音――



 貨物室で、前にしたものを思い出して、胸に嫌悪感が燻っていた。



 奴隷なんて、さして珍しくもない。


 それなのに、嫌な記憶が頭の中を何度も駆け巡る感覚に、吐き気がした。



 今頃、シュトルツとリーベが、ユリウス(あいつ)と話しているだろう。

 貨物室で見せた光景――古代言語で、精霊と会話する方法。


 “霊奏”を使ったのは、久しぶりだった。



 精霊を呼び起こし、その場の彼らの主導権を掌握する。


 強大な力だが、制約の影響で、俺たちが使える場面は限られていた。



 ベッドに横になっていると言うのに、頭も体も全く休まらない。


 あの時――光の精霊の感情が、流れ込んできた。


 精霊たちは、人間の求めに応じて、力を貸す。

 けれど、自発的にこちらに干渉することは、ほとんどない。

 したくても、出来ない。


 俺が久しぶりに話しかけたのが、そんなに嬉しかったのか?


 思わず、腹の底からため息が出た。



 最後に、余計なことを言いやがって……

 まぁ、ユリウス(あいつ)は理解できていないだろうし、出来きない方が助かる。


 光の精霊がユリウス(あいつ)に、言いたかったであろう、単語が自然と口から溢れた。


 たった2文字――理解できなくて、当然だ。


 このニュアンスは、この世界には存在しない。

 既存の、どこ言葉にも当てはまらない。



 俺のことを心から心配するような、精霊の声……


 やるせなくて、舌打ちが飛び出た。



 彼らがどんなに想いを傾けてくれようと、俺がそれに応えることはない。


 何を犠牲にしてでも、やり遂げないといけない。

 それは、たとえ俺が俺でなくなったとしても――だ。


 もう何を犠牲にして、失ってきたのかなんて、いちいち数えていられなかった。



 ふと、シュトルツとリーベ、いつかの”彼”の顔が浮かんだ。



 くだらない願いだ。

 いつか――”彼女”もそこにいて、5人で笑い合える一瞬だけのために、あらゆるものを犠牲にしているなんて。



「本当にくだらない」



 かつての誇りも地に落ち、這いずってでも取り戻したいのが、そんな小さな世界だなんて。



「まぁ……いいか」



 どうでもいい。


 理解なんて、最初(ハナ)から求めていない。

 赦しもいらない。


 どんなに憎まれても、恨まれても構わない。


 そんな些細なことで、感じる痛みなんて、もうとっくに擦り切れてしまっている。


 そう思えば、あの地獄も今になっては、役に立っているのかもしれないな。


 まぁ、今はユリウス(あいつ)がついてくると、決めただけで十分だ。


 煽った甲斐が、あったというもんだ。



 甲板の上でのユリウス(あいつ)とのやりとりを思い出して、思わず笑いが溢れた。








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