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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
1章

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貨物船〜1章完結までのあらすじ

 



 王国の向かう貨物船の船室で、ユリウスはシュトルツとリーベに説明を求める。


 湾港都市レネウスで起きた、群れの嵐(ホルデンシュトゥルム)――それを退けたのはエーレだった。

 それなのに、事態が収拾したあと、その功労者はギルド職員であるダリアになっていた。

 その場にいたものも多く、口裏を合わせている様子もない。

 それはまるで、事実が塗り替えられているようだった。


 修正力――それは3人の持つ、神の加護と権能に関わっていると2人は説明した


 3人の授かった権能の力が強大すぎると、反対の意を唱えた他の神から、加護枷(かごか)――制約が同時に与えられていると。

 その制約に反したとき、修正力が働き、同時に代償が発生する。


 混乱するユリウスは、その経緯を尋ねるが2人は沈黙。代わりに目的を漠然とだけ明かした。


 出自も本名も明かせない――しかし、現在帝国の傀儡となっている王国の主権を取り戻す。それが目的である、と。


 しかし、3人は制約の影響で、表立って動けない。

 歴史や記録に名が残るような大きな動きをすれば、制約が発動する。その線引きは曖昧で、把握しきれていない。

 だからこそ、ユリウスの協力が必要だ。彼らはそう言った。


 父である皇帝からは逃げたい。しかし、彼らがやろうとしていることは、ユリウスの発想の上をいくものだった。

 王国の主権を取り戻す――そこに帝国の皇太子であるユリウスを巻き込むということ。


 それはつまり7年前王国で起きた謀反。その再現を彼らはしようとしているのではないか……?


 受け入れられないユリウスに


「連れ戻されても仕方がないと、逃げ切れるところまで逃げ切るか。

 本当の意味の自由を手にいするために、立ち向かうか」



 その上、制約の代償はエーレ1人が背負っているという。


 レネウスで制約が発生し、エーレが倒れたことをユリウスは思い出した。

 代償が何なのか、加護や権能でどんな力を持つのか、彼らは明かさなかった。



 とりあえず船が王国に到着するまでの約10日の間に答えを出す。


 彼らと共に行くか、それとも王国に着いた先で一人で逃げるか――




 答えの出せないまま、ユリウスは船室と甲板を行き来して、過ごす

 一度は天候があれて、酷い船酔いに悩まされた。

 そのあとでエーレが船酔いが酷いということを聞き、どうにかできないだろうか?とリーベに問う。

 彼は水魔法の応用なら可能かもしれない、と答えた



 それを聞いて、ユリウスは水魔法の応用――感覚の共有をエーレに提案する。

 勿論、まだ魔法の制御が未熟なユリウスが、すぐに成功できる魔法ではなかった。


 数日かけてしつこく提案するユリウスに、水魔法を向けられることが嫌いなエーレは、最終的に折れて、使用を許可した。


 水魔法の本質である’’共感’’と’’支配’’


 感覚の共有は支配に近く、過去のトラウマをユリウスに想起させた。


「力に、良いも悪いもない」


 そういうエーレに、ユリウスは考えに固執することをやめて、どうにか魔法を習得することが出来た。



 途中、王国のセラノ港に3日間船は停泊した。

 その間、休息を挟むことにした一行ーーシュトルツはユリウスを伴って街に繰り出す。

 シュトルツがナンパに失敗している途中、ユリウスは乱暴な走りをしていた馬車を避けて、路地裏に放り出される。

 そのときぶつかったのは、逃げ出した奴隷の亜人だった。


 ユリウスは初めて見る亜人ーーそれも奴隷の亜人に衝撃を受けて、咄嗟にその手を掴もうとするが、その前にシュトルツに止められて、無理やり宿まで引っ張られた。



 自分も皇帝がら逃げている立場だというのに、逃げ出した亜人の手を取った未来なんて、想像しなくてもわかる。


 それでも目の前の理不尽に晒されている人を見て、何も出来ない、すべきではないという現実にユリウスは押し潰されそうになる。


 それを見かねたシュトルツとリーベは翌日、ユリウスを釣りに誘い、ユリウスはほんの少し気持ちが晴れるのであった。



 セラノを出航し、ヴァルティアへ。


 ユリウスは未だ、どうするか決めかねながら、とりあえずエーレの酔いを治すために、魔法の練習を兼ねて、感覚の共有を毎日行使する。


 何か一つでもできることが増えたという、小さな充足感を味わいながら、明日ヴェルティアへ到着するという昼のことだった。



 充足感の余韻でユリウスの体から溢れ出した生命力(リーファ)の影響で、船の全体像を把握してしまう。


 船の中央付近ーーその中に異常なまでの人の数が、1箇所に詰め込まれている。


 貨物船で奴隷を移動させることなんて、珍しい話ではない。


 そのことに気づいた瞬間ーーエーレが前に立ちはだかった。


「お前のすべきことはそれではない」



 そう言って、ヴェルティアに着いてからのことを提案する。

 望むなら、大陸の外に出る手段を用意してやるーーと。


 大陸の外まで逃げることが出来たのなら、皇帝から逃げ切れるかもしれない。


 そんな考えがユリウスの頭によぎったと同時にエーレは続ける。



「全て忘れて、逃げれるところまでそのまま逃げたらいい」


 その言葉にユリウスは咄嗟に反発を示した。




 しかし、恐怖から逃げ、目の前の答えを探すことからも逃げる現状のお前は何なんだ?と問われ、沈黙してしまう。


 その上で、ユリウスに残っていたわずかな皇太子のしての、一人の人間としてのプライドが彼に言葉を紡がせ、「逃げない」選択肢を選ぶこととなった。


 ユリウスの答えを聞いた、エーレは彼を貨物室へと連れていく。


 そこにいたのは、多くの奴隷ーーその中にはセラノで見かけた亜人の奴隷もいた。


 何も出来ない。それでもどうにかしたい。

 そのためには立ち向かうしかないーー


 魔法の行使が遮断された空間で、ユリウスは魔法が使えず奴隷の傷を癒すことも出来ないでいると、エーレが進みでた。


 彼の口から紡がれたのは、聞いたことのない言葉と旋律だった。



 それは今はもう失われたーー精霊と人間が意思疎通のできる最初で最後、唯一の言葉『古代言語』であった。



 奇跡のような光景を目の当たりにしたユリウスは、改めて彼らに着いていく意思を伝えたユリウス。


 そうして、翌日。王国の湾口都市ーーヴェルティアへと降り立った。




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