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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
1章

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27/204

彼らの目的

 




「私たちの目的は、王国の主権を回復させることだ。

 貴方も知っているだろうが、王国は今、帝国の傀儡(かいらい)と化している」



 リーベの言うことを、ユリウスは知っていた。



 この大陸には、西半分の領土をラクセンベルク帝国、東半分の領土をエーベルシュタイン王国――

 両国の境の一部と、その北の領土を、ルミナーク聖国が統治している。


 元々は、王国は三国の中で一番に栄え、三か国間は良好な関係を築き上げていたという。

 しかし七年前、王国で内乱が起きたことにより、一変した。


 隙をつくようにして、大陸の帝国が主権を握るようになり、現在王国は、帝国の属国といってもいい状況であった。

 その事実の全てを、国民たちは知っているわけではない。

 情報操作によって、帝国も王国も対等な関係で、うまく回っていると思わされている。


 実際、帝国主権によって、一部王国市民の生活が向上した面もあるにはあるようだった。


 王国が帝国の操縦政治にあることを知るのは、国政に携わる一部の人間だけだった。

 表向きは、世界は平和に回っている。



 彼らが王国を立て直そうとしている理由が、王国民だから――

 それだけでは、動機が曖昧すぎた。



「どうして王国を立て直そうとしてるんですか?」



 リーベは、目を伏せた。



「私たちはどうしても、王国を帝国の従属から、脱却させなければいけないんだ。

 そうしなければ、救えない人がいる」


「救えない人……」



 彼らの救い出したい人――

 意外な動機ではあったけど、それでも全てが曖昧で、詳しい背景が見えてこない。



「まぁ、主権を取り戻したくらいじゃ……無理かもしれないけどねぇ。

 だから俺たちは、君を連れまわしたわけ」



 シュトルツがため息交じりに繋いだ。



「だからって――」


「言ったでしょ? 俺たちは君のことを、よーく知っているって。

 君の出自も本名も、今の状況も知ってる

 まさかあんな時間に、あんな森の中で、君を偶然見つけたなんて思ってないでしょ?」



 ユリウスは目を見開いて、正面のシュトルツを見つめた。

 彼の炎のような瞳は細められて、その揺らめきを隠している。


 ユリウスの出自。現在の状況。

 帝国の皇太子が、城を抜け出して、皇帝から逃げている――


 それを知っていて、彼らは故意に接触してきたのだ。

 彼らが、ユリウスに望むこと……



「ああ、勘違いしないで。俺たちは、君を人質に取ろうとなんてこと、するつもりはない。

 したところで、皇帝が動くとも限らないし。

 君の意思に反して、何かをするつもりはない。

 エーレが、それを望んでいない」


「エーレさんが?」


「そう、エーレが」



 なら、前の二人はどうだというのだろう?

 彼らにとって、エーレが最優先される人物であることは、共に行動する中でわかっていたことだった。



「じゃあどうして、僕をここまで連れてきたんですか?」


「貴方が、本当に自分の望みを叶える気があるのなら、私たちの利害は一致する」



 平坦で無感情――そんなリーベの声が低く、響いた。


 ――僕の望み?


 皇帝の支配という恐怖から、勢いで逃げ出した。

 僕の望みは逃げ切ることだ。先のことなんて考えていない。



「本当にって、どうい――」


「逃げ切れると思っているのか?」



 リーベの刺すような声。

 逃避は許さない、とでもいうような強いそれが、ユリウスの言葉を遮った。


 逃げ切れる可能性なんてゼロに近い。

 何せ、皇帝は帝国だけではなく、王国にも聖国にも手を伸ばすことが出来る。

 狙ったものはネズミ一匹逃すことはない。



 連れ戻された先には、再び皇帝の傀儡になる未来か、もしくは死か。



 ユリウスは押し黙った。

 利害の一致。彼はそう言った。



 彼らの目的は、王国を立て直すだけに留まらないということになるのではないか?


 帝国の皇太子である、ユリウスを巻き込むことで双方の利になること。

 つまりそれは……


 七年前に、王国で起きた内乱の再現をしようとしている?


 王国の王弟が、兄である国王に謀反を起こし、その玉座を奪い取ったように――




 ユリウスはそんな思考を巡らせて、咄嗟に首を振った。


 ――無理だ、あり得ない。


 僕には、そんな大それたこと出来ない。出来るはずがない。

 皇太子なんて名ばかりの……先天本質の魔法さえ、まともに使えない僕が……



 思考の渦に溺れかけた時、シュトルツが「まぁ、そうだよねぇ」と呟いたのが聞こえた。

 ユリウスは一瞬、それが何に対しての応答なのかわからず、数瞬後、先ほどのリーベの言葉を思い出した。

 逃げ切れると思っているのか? に対して、首を振ったのが否定だと解釈されたのだろう。



「本当って……」



 ユリウスは、迷わせた言葉を一度飲み込んで、息を吐きだした後に、もう一度言葉を紡ぎなおした。



「僕が本当の意味で、逃げたいと思うならというのはつまり、謀反を起こせってことですか?

 そのために、僕をここまで連れてきたんですか?」



 それでも自然と、責めるような声色が出た。

 突き付けられた現実と、目の前に差し出された選択肢。

 それに、ユリウスは混乱と恐怖を抑えきれないでいた。



「まぁまぁ、落ち着けって。

 さっきも言ったように、俺たちは君の意思を無視するつもりはない。

 君が望むなら、手を取り合おうって言ってるだけだよ。


 逃げ切れるところまで逃げ切ってみるのもよし。

 その結果がどうなるかなんてわからないけど、連れ戻されても仕方ないと、覚悟したうえでどこまでも逃げてみてもいい。


 それとも、本当の意味での自由を手にするために、立ち向かうか――

 それは君次第だ。俺たちが決めることじゃない」




 宥めるようにはっきり、ゆっくりとシュトルツの言葉が重ねられていく度に、少しずつ頭が冷えていく感じがした。


 確かに彼の言う通りかもしれない。いや、そうだ。

 僕の目の前にある選択肢は、その二つしかない。



 ずっと大陸を転々としながら逃げ続ける。皇帝が諦めてくれるまでだ。

 いつ諦めてくれるのかわからない。

 もし僕ではない誰かが、皇太子として立てられたとしても、今度は命を狙われる可能性だってある。

 皇帝の依存心と執念深さを、僕はよく知っている。



 それとも、彼らのいう本当の自由を勝ち取るために――どう転がるともわからない、逃げるよりも危険な道に、自ら足を踏み入れるか。







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成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
― 新着の感想 ―
7年前の王国反乱にもエーレ達は関わっているのかな…関係ないのかな…分かりませんが、国を相手にするなら一筋縄では行かなそう。ユリウスがどんな活躍をするのか楽しみ…!!
感想一覧
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