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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
4章

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232/233

信頼は沈黙を選ばない

 



 扉が閉まる音でエーレは目を覚ました。


 前には、「少し散歩してくる」との、シュトルツの筆跡のメモ。

 今しがたの音は、そのシュトルツだろう。



 机に向かったまま、知らずの内に眠っていたことを知ったエーレは、舌打ちを飛ばした。


 前までは、あれほど眠れなくて困っていたのに、最後の制約発動から、知らないうちに眠ってしまっていることが増えた。


 ルシウスとリーベが戻ってきていないということは、眠っていたのは短時間なのだろう。

 それを知ったエーレは、頭を叩き起こすべく、シュトルツの後を追うことにした。




 シュトルツの後を追うのは簡単だった。

 彼が、生命力を軌跡として残していたからだ。


 起きた時に、いつでも追って来れるようにだろう。



 ただでさえ、あらゆる気配が多いこの空間は、地上に比べて生命力の感知がしづらい。

 今のエーレには、地上では把握できるはずのルシウスやリーベの生命力が、どこにあるかすら曖昧だった。


 心配性、いや過保護というべきか。仲間の行動を忌々しく思ったエーレは再び舌打ちをこぼす。


 理由はそれだけではない。ルシウスに時間を与えたのは、彼のためだけではなかった。


 この空間を体に馴染ませる必要があったのは、むしろエーレのほうだったからだ。



 普通の人間とは違う造りの体であるにも関わらず、不安定な精神のせいで、生命力がうまく扱えない。


 色濃く影響している精霊たちが、エーレのあらゆる感情に共鳴し、否応なく生命力を放出させていく。


 彼はルシウスに与えた時間で、部屋に籠って出来る限り生命力を整え、練り上げるつもりでいた。




 歩きながらも試してみるがどうもうまくいかない。そうしながらも、前来た時とは造りが違うエルフの里を歩き、小川に至ったところで仲間の姿を見つけた――


 同時にそれは聞こえてきた。



「代償だよ。あと二度もあれば、エーレは自分を保てなくなるだろうね」



 耳の良い彼には、十分すぎるほどに届いた声。考えるよりも早く、木の後ろに身を寄せ、そのまま背を預けた。


 そこから語られたシュトルツの言葉。それでエーレは知ることになった。



「あいっつら……」



 知らずのうちに、ルシウスに代償の詳細が共有されている。

 出来る限り伏せて起きなかった真実。不思議と怒りは湧いてこなかった。


 代わりに悲しみと僅かな安堵が、胸に浮上した感覚があった。



 その間にも、シュトルツの声で語られ始めたのは、本来の自分の輪郭。

 そうであったことも思い出せないほど、遠い場所に置いてきた()()()()()()()


 エーレは脱力しそうになった体を、どうにか踏ん張って留める。



 ゼレンだけではなく、傍にいた仲間は、ずっと前から自分の変化に気づいていたのだろう。

 確実に崩れてきている。シュトルツの声が、脳裏で反響していた。


 動揺するルシウスと、端的に強く告げたリーベの声。


 近頃、リーベが自分に対する態度を変えていたことは当に気づいていた。



 生命力が漏れ出している自分の気配を、あの二人はすでに気づいているだろう。

 その上で、彼らは代償のことを話している。



 シュトルツが軌跡を残したのは、これを聞かせるためだったのかもしれない。

 リーベのよりも、エーレはシュトルツからの強い意志を突きつけられていた。



 ‘’俺はあんたのためになる一番の道を選ぶ。だから、この選択は後悔していない。

 いつまでも意地張ってないで、あんたの背負う荷を俺たちに分けろよ‘’



 そんな声がはっきり聞こえてきたからだ。


 言葉にせずとも自分をしっかり見ていた仲間たち。気づいてほしくないところまでしっかりと。

 これを人は信頼と呼ぶのかもしれない。しかし今のエーレにはそれが苦しく、鬱陶しかった。



 先ほどよりも大きな声で、シュトルツが自分に対する愛と言って、意気揚々と語り始めたのが、更に鬱陶しく思えた。


 普段、道化のように振舞っているくせに、こういうところだけは抜かりない。

 それも全て、自分のためであることを嫌というほど知っていた。



 掠れた舌打ちが、口から抜けていく。

 これ以上は、ルシウスに勘づかれる。仲間は勘づかれてもいいと思っているのかもしれないが――エーレは踵を返し、隠蔽で自らを包んだ。



「人の気も知らねぇで……」



 もう、今までのやり方では通用しない。

 そんなこと誰に言われずとも一番に理解しているのは、エーレだった。


 すでに方向転換を決めた仲間の背を、後ろから見ている気分だった。

 こんな感覚になったのは、随分と久しぶりだ。


 盛大に舌打ちを飛ばした後、これ以上ないほど大きなため息を吐きだしてみる。


 明日のため、ルシウスの前ではいつも通りの自分でいるため、彼は生命力安定に努めることにした。



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成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
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