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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

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189/233

番外編「たまには一緒に遊びましょうよ!」

4章は3章終了後から1か月と少しのあとに始まります。

この話は、その間の期間。レギオン本部でのいつもより和やかで優しいお話です。

 




 騒動は過ぎ去り、レギオン本部には穏やかな時間が流れていた。



 ルシウスは本部に屯するブラッドバウンズのメンバーと毎日のように訓練を重ね、しばらくあてがわれた一室に引きこもっていたエーレも姿を見せていた。



 シュトルツは気の向くままにあちらこちらへ行きながらも、大体においてエールの入ったジョッキを持ち歩き、リーベはそんなシュトルツに付き合ったり、ルシウスの様子を見に行ったり、部屋で本を読んだりとゆったりと充実したような時間を過ごす。




 その中でとある夜、シュトルツが高そうな酒瓶を数本持ってルシウスの部屋にやってきた。



「大将が分けてくれたんだけど、どう?」



 今しがた湯を浴び、食事がまだだったルシウスは、意気揚々という風にやってきた男を見て怪訝そうに眉を寄せる。



「いや、いいですよ。見るだけで高そうなのわかりますし、お酒の味もわからない僕には勿体無くて飲めません」



 今日もレオン相手に散々剣を振ってきたあとで、胃の中に何も入ってない。

 そんな時にアルコールなんて飲むものではない。


 至って真面目なルシウスはそういう思考だった。



 彼の言葉を耳にしながらも、シュトルツは部屋のキャビネットから勝手にグラスを取り出してソファーにつき、前のローテーブルで酒瓶を開け始める。

 そして、グラス二つになみなみと注いだ。



「ちょっと、人の話聞いてましたか?」


「逆だよ逆。酒の味を知らないからこそ最初に高いもの飲んでおくんだって」



 テーブルの先に立つルシウスに、シュトルツはグラスを差し出しながら言った。


 血の色のような液体が室内灯に照らされて怪しく揺れている。



「ほーら、乾杯しようぜ〜」



 いくら飲んでも酔ったところを見たことがない彼の、まるで酔っているような陽気さにルシウスはため息をこぼした。


 仕方なく差し出されたそれを受け取り、向かい合って座ることにした。




 グラスが触れ合う小気味いい音が室内に緩やかに反響していく。


 ルシウスは数秒その中身と睨めっこしたあと、おそるおそる口へと含んだ。



「――あれ、苦くない」



 舐める程度に口に含んだそれは、彼の思っているよりも随分まろやかで果実味の強いものだった。



「でしょ? 俺は辛口の方が好きだけど、たまにはこういうのもいいよねぇ」



 シュトルツはグラスを揺らしながら嬉しそうに目を細める。



「エールみたいに、もっと苦いのかと思ってました」



 言いながらもルシウスは二口目に行こうとはしない。

 悩むようにグラスを見つめて眉を寄せる。


 その様子を見たシュトルツは眉を一度あげると、



「なんか軽いものもってきてあげるよ。ついでにリーベでも誘ってこようかな」



 立ち上がって早々扉へと向かっていき、そのままルシウスが何かいう前に出ていってしまった。












「で? これはどういうことだ?」


「あー! リーベ! リーベも一緒に飲みましょー!」



 シュトルツが食堂で軽食を注文し、リーベを誘い半刻と経たずに部屋に戻ってくると、そこにはすでに頬を真っ赤にして出来上がっているルシウスがいた。



「あ~」



 シュトルツは先ほどあけたばかりの酒瓶を手に取ってみる。半分以上なくなっていた。



「おこちゃまピッチはやいねぇ……」


「ぴっち? なんか飲みやすくて、美味しくて! もっと飲みたいです!」



 言うや否や、グラスの中身を飲み干したルシウスがシュトルツの手から酒瓶を取り、手の中のグラスに並々と注いでいく。


 その様子を見ていたリーベは逡巡するように二人を交互に見ると、嘆息と共にルシウスの隣へ座った。



「シュトルツ、私のグラスもとってくれ」


「部屋にはないから取ってくる。俺のそれでも使っておいて」



 シュトルツは先ほど自分が飲んでいたグラスを目で示すとすぐに部屋を出ていった。


 リーベはもう一度嘆息を吐き出し、グラスを取り上げると、手慣れた様子で浄化魔法をかけてたあとに酒を注いだ。



「ルシウス、一旦これを胃の中に入れておいた方がいい。空腹にアルコールは毒だ」



 彼は今しがた一階から持ってきたパンやチーズなどが盛り付けられた皿を滑らせて、ルシウスの前に差し出す。


 しかしルシウスはそれを見て、緩やかに首を傾げた。

 

 横に倒した首を起こしながら――流れるようにそのまま隣のリーベを見た彼は、更に逆側に首を傾げる。




 瞳が完全に溶けたような色で、すでに正気でないことははっきりと見て取れる。


 その顔つきはいつもの数倍幼く、次第に寄せられていく眉がそれを更に顕著にさせた。



「僕のことはいいからリーベも飲みましょうよ~」



 子供が親に何かをねだるときのような間延びした甘ったるい声。


 リーベは皿からチーズを取るとルシウスの口に無理やり押し込んだ。



「それを食べるなら私も付き合おう」



 自分や他の二人は少しくらいまともに食べなくても体調を崩さないように出来ている。

 しかし前の少年に限っては話が違う。



 今すぐレギオン本部を出るだとか、大事な何かがある予定は今のところない。



 たとえ飲みすぎて吐いたところでアルコールを燃焼したり、治癒も即座に可能だ。

 しかし魔法で栄養を補給することは叶わない。




 そういう意味で体調を崩さないか心配した彼は、更にパンを差し出した。



 今まで見せたことのないほど不満そうな顔をしたルシウスは、それでも本来の素直な性格のせいか、その表情のままリスのようにパンをかじっていく。


 

 それを見てやっとグラスに口につけたリーベはなるほど、と口の中で呟いた。



 たしかにこれはかなり上等な酒だ。口当たりもいい。 

 酒を飲みなれない人からすると飲みやすいのかもしれない。




 テーブルの上には、すでに空になろうとしているものとは別にあと二本ある。

 このままだとルシウスは、まだまだ飲みたいと言うに違いなかった。



『チェイサーも持ってくるように』



 伝達で彼はシュトルツにそう告げる。


 しばらくしてシュトルツがグラスと瓶に入れた水を持って戻ってきた。



 すでにその時、一本目の酒瓶は空である。



「お子ちゃま、そのくらいにしといた方がいいんじゃない?」



 二人の正面に向かい合って腰をかけたシュトルツに、ルシウスはじとりと彼を睨んだ。



「いやですよ、飲めっていったのシュトルツですもん。ほら、もう一回乾杯!」



 彼が声をあげてグラスを掲げた瞬間――その体が大きく揺らいだ。



 当然のように中身は零れて、ソファーと彼の膝もと、そして隣にいたリーベの膝にまで飛んでいった。



 しかし当のルシウスは酩酊状態で、数秒後にぼんやりと自分の膝を見ただけだった。



 リーベが静かに、しかし瞳の奥に激しい光を宿してシュトルツを睨む。

 そもそもこの男がルシウスに酒を勧めなんてしなければ、こうはならなかっただろう。



「ごめんって! ここまで酔うとは思ってなかったんだって!」



 その視線を受けたシュトルツは即座に立ち上がって、酒のこぼれた場所を光の魔法で浄化し始めた。



「もうついでに、お子ちゃまの酔いもどうにかしとく?」



 彼の酔い自体を切り離すか。体内のアルコール自体を消滅させるか。


 その言葉にグラスを見つめてぼんやりとしていたルシウスは、二人が驚くほどの拒否反応を見せた。



「嫌ですよ!! せっかく楽しくなってきたんだから! そんなことしたら、絶交ですからね!」



 それどころか彼の要求は更に増えた。



「エーレも呼んできてくださいよ! あれからまともに話してないですし!」


「いやぁ……エーレさん酒の席嫌いじゃん?」



 そもそも彼は酒自体が嫌いなのだ。そのうえルシウスがこれほど酔っているとわかれば尚更嫌がるだろう。



 その正面でリーベが新しいグラスに注いだ水をルシウスに差し出した。


 一瞥すらせずにふいっと顔を背けた彼が、頬を膨らませる。



「じゃあ僕がいくからいいですよ」



 そう言って立ち上がったルシウス。リーベが反射的な判断で即座にグラスを抜き取った。


 そのタイミングでルシウスはぐらり、と大きく足元をふらつかせる。



 かなり酔ってるな……シュトルツは目だけでルシウスとリーベを交互に見た。



 この状態のルシウスがエーレを呼びになんか言ったら、真っ先に自分が疑われるだろう。


 でも俺が原因であるのは本当のことだし……



 とまで考えた時、一つしかない扉の先からよく知る気配がした。



「あー」



 素晴らしいまでに最悪のタイミングである。


 おそらく乱れに乱れたルシウスの生命力を感知してやってきたのだろう。



「エーレさん来たみたいだからほら、お子ちゃまこける前に座って」



 シュトルツはそう言いながら立ち上がり、ルシウスを座らせたあと扉を開きに行く。



 そこにはやはり機嫌の悪そうな表情をしたエーレが立っていた。


 彼は部屋の状況を見て全てを理解したのだろう、一言も発することなく踵を返そうとした瞬間、



「エーレ!」



 彼を認めたルシウスが再び立ち上がって、覚束ない足取りで二人へと駆け寄ってきた。



 ルシウスはシュトルツの隣を通って半身を逸らした状態のエーレの腕へと手を伸ばす――ものの手前でそれを止めた。


 どうやら酔っていてもある程度の理性は残っているらしい。



 エーレは心底面倒くさそうにルシウスを見て、



「そこそこにしとけ。酒臭せぇ」と顔を顰めた。




 その態度に、ムッと眉を寄せたルシウスは、彼を見上げたまま何かを訴えるような眼差しを向ける。


 エーレはその視線を受けて、嘆息とともに首を振るとシュトルツを見た。



「お前、後処理しとけよ」



 この状況を見てどんな怒号が飛んでくるのかとひやひやしていたシュトルツは、肩透かしを食らった気分で素直に頷く。



「ちょ、エーレ!」



 去っていこうとするエーレの腕をルシウスが咄嗟に掴む。


 酔っ払いとは思えないほど強い力の制止に、エーレが何かを言うよりも早く、部屋に大きく声な声が響いた。



「たまには一緒に遊びましょうよ!」



 その口から出たまさかの言葉に、エーレは一度目を見開き、懇願するように目で訴えかけてくるルシウスをもう一度見やった。


 そして逡巡したのち、肩から力を抜くと、



「一つだけ条件がある」



 リーベが持つグラスを指さす。



「それだけ飲んだらもう終わりにしろ。それが出来るなら付き合ってやる」














 大の男三人と一体、何をして遊ぼうというのか?



 遊びたいと言いながらもその案がなかったルシウスに代わって、エーレが提案した。



 ブラッドバウンズなら子供がいるから、子供が遊べるような何かを持っているだろう、と。


 そしてシュトルツが借りてきたのは、カードゲームと盤上ゲームだった。




 まず取り出したカードゲーム。

 ルールは簡単だった。



 紋章や階級などで分かれている絵柄を揃えていくだけ。


 ただし盗賊が一枚だけあり、それを最後まで持っていた人の負け(いわゆるトランプのババ抜きである)




 リーベがそれぞれにカードを配り終えるまで、ルシウスは言いつけを破って、更に酒を飲み進めていた。



 その顔は心底嬉しそうで「えへへ」と、可愛いとは言い難い奇妙な笑いまで漏れ出している。


 エーレはそれを見ながら口端を引きつらせ、シュトルツは失笑し、リーベはやれやれと言わんばかりに首を振った。



 それぞれにカードが行き渡り、始めたのはいいものの……



 一度目はエーレが勝ち、二度目はリーベ。


 それが気に食わなかったルシウスは「もう一度!」と言い出した三回目。



『ねぇねぇ、頼むから二人とも負けてくれない?』


『私もそのつもりだ』



 シュトルツとリーベが伝達で会話をしながらエーレを見た。



『わかってるに決まってんだろ、これじゃいつまでも経っても終わらねぇだろうが』



 エーレがその二人に目配せする。



『てか、エーレさんよく付き合ってあげたね。てっきり俺は怒鳴られるのかと思ってたよ』


『あ? しゃあねぇだろ。色々あったし、たまにはこれくらいの息抜きがあっても悪くない』



 自分の手にあるカードのどれを引くかを真剣に選んでいるルシウスを見て、エーレは思わず口元を緩める。



 たった四か月。それでも初めて外の世界に出たルシウスには大変なことは多かっただろう。


 大の男でも逃げ出しても仕方ないと思うことも沢山あった。



 酒を知らなかったからもあるが、それでも酔いなどに逃げようともせずに真正面から向き合い、幼い少年が必死に乗り越えてきたのだ。



 この程度の遊びに付き合ってやるくらい大したことない。



「おい、早く引け。あとそろそろ酒飲むのやめろ」



 しかし彼の口から出るのは真逆の言葉。

 エーレの手札に盗賊はないのだからどれを引いても問題なかった。



「じゃあこれ!」



 普段は仲間の空気感を読み、自己主張も控えめな彼が、大きな声を張り上げてカードを引く。


 どうやら揃ったようで、それだけで嬉しそうに更に声をあげた。




 視界の隅にある二本目の瓶がそろそろ空になりそうだった。その大体がシュトルツの口に入っていたのは幸いだったが。



 盗賊のカードは伝達を駆使して三人で回しながら、ルシウスが一番であがり、最後はエーレが負けることにした。




 他にも盤上ゲームがある。これで終わるはずがなかった。



「エーレってなんれ、おさけきらいなんでしゅか?」



 すでに呂律がまわってないルシウスが無邪気に尋ねた。



「元から酔いが嫌いだったんだよ。酔うとなんも出来ねぇだろ。必要性を感じない」


「たまいあいいじゃないですか~」



 そう言いながらルシウスは自分の飲みさしのグラスをエーレに突き出す。


 その隣で盤上のゲームを用意していたシュトルツとリーベが目を合わせた。



 ここまでエーレが譲歩すること自体が珍しい。しかしさすがに嫌いな酒を飲むことは――



 とまで考えた二人の予想を反して、グラスを乱暴に受け取ったエーレは、半分ほど残っていた酒を一気に呷った。



「え、まじ?」



 呆気にとられたシュトルツの隣でエーレは盛大に顔を顰めている。

 彼は酔い以前に酒の味が大嫌いなのだ。



「これで満足か?」



 嫌そうに口元を拭ったエーレにルシウスは二本目の酒瓶の最後のいっぱいをグラスに注ぐと、再びエーレに突き出す。


 エーレは沈黙して二人を見た。



「……殴っていいか?」


「まーまーまー、ほら。お子ちゃま。これは――」



 ルシウスのグラスをシュトルツは取り上げて、テーブルの上へと移動させると、



「ここに置いといて……こっちやろう! エーレさんが飲むよりこっちの方が断然面白いだろうから」



 ね? とリーベへと助けを求めるように視線を投げる。


 リーベは「そうだな」と苦笑交じりに答えて、サイコロと駒を用意した。





 大きな盤上の上をサイコロが出た数だけ駒を進めていき、そのマスのイベントにある選択肢を答えて職業が決まったり階級が決まったりするゲームだった(いわゆる人生ゲームのような)




 中盤、それぞれの職業はこう別れた。



 シュトルツが農夫、リーベが占星術師、エーレが僧侶、ルシウスが領主。



「リーベが占星術師とか絶対詐欺で稼いでるって」



 シュトルツが先に笑いを上げた。



「お前は今からでも本当に農夫になってくればいい」


「農夫舐めないでくれる? どこから野菜が来てると思ってんの?」


「お前こそ星読みの技術を舐めないことだな。今の暦がどう決まったと思ってるんだ」



 酔っていないはずの二人は何故かいつもより多弁になっていて、それはルシウスの笑いを誘った。



「エーレが僧侶とか似合わなさ過ぎて……」



 尽きない笑いの中、ルシウスが腹を抱えて更に笑い出す。



「お前も領主なんて似合わねぇだろうが」


「そんなことないですもん! 僕はちゃんとやりますよ~」



 エーレはふと言葉を止めて、ルシウスを見る。

 しかし次に吐き出したのは嘆息だけだった。



「なんですか!? 何か言いたいなら言ってくださいよ!」


「なんでもねぇよ。ほら、サイコロお前の番なんだよ」


「む~……ま、いいですけど~」



 ルシウスは渋々サイコロを転がした。出た目は一。



 ふと何かを思い出したように彼は今しがた転がしたそれを拾い、ぼんやり眺める。



 数瞬そうしていた口から「なんか、でも……」という嘆息交じりの声と共に口元を緩ませた。



 しかしその言葉は続かず、代わりというように途端眠たくなってきたらしい目をこすり始めた。



 そんな様子を見ていたシュトルツは二人を目だけで見る。

 リーベはどうしたものか、と小さく首を傾げた。

 エーレは一瞬逡巡したようにしたあと、シュトルツに顎で示す。




 それとほぼ同時に、カランと小気味良い音が床からした。

 ルシウスの手から落ちたサイコロが奏でた音だった。



 シュトルツはルシウスの代わりにマスを進めて、そのマスに書かれた文字を読み上げた。



「領民を三人まで増やせます。他の参加者を領民に迎えることも可能ですが、参加者の承諾も必要になります。参加者全員を領民に迎えることが出来た場合、あなたは最終マスに移動できます」


「なんだ、そのふざけたルールは。これを承諾するやつがいるのか?」



 エーレがすぐに苦笑した。

 しかし前ではすでにルシウスが船をこぎ出している。



「ここでお開きのようだな。私は領民に加わることにしておこう」



 リーベが自分の駒をルシウスの隣に持っていく。



「じゃあ、俺も」 次いでシュトルツが。


「しゃあねぇな」 最後にエーレが。


「ほら、おこちゃまの一番乗りだよ」



 シュトルツが呼びかけてルシウスはうっすらと目を開けると嬉しそうに小さく笑った。



「夢みたいだなぁ……あれ、夢かな……?」


「はいはい」



 シュトルツはそっとルシウスの頭に手を翳すと、

「おやすみ、良い夢を」と一言。


 

 楽しい夢を途切れさせないよう、そっと彼の意識を落とした。



 そのまま幾分小さな体を持ち上げ、ベッドへと運んでいく。

 それを見届けたリーベとエーレは小さく息を吐きだした。



「まるでどこかのわがままな子供を相手にしてるようだったな」


「アイリスのこと?」



 呟いたリーベの背にシュトルツが投げかける。しかしリーベは答えなかった。



「シュトルツ、そいつのアルコールも抜いとけよ。あのままだと二日酔いだ」


「勿論そうするつもり」



 エーレの言葉にシュトルツは頷いてルシウスの体内からアルコールを消滅させると、最後の一本を開けてから自分とリーベのグラスに注ぎ始めた。



「悪いねぇ、俺が飲ませたせいで付き合わせちゃって」



 シュトルツとリーベが自然とグラスを合わせる。小気味いい音が部屋へ溶け込んでいった。



「たまにはいいんじゃないか? こういった意味のない時間も必要かもしれない」


「あいつは普段抑えてる分、酔うとタガが外れるんだろ」



 グラスに口をつけたリーベをちらりと見たエーレは嘆息を吐き出しながら立ち上がった。



「あれ、エーレさん。もう行っちゃうの?」


「用は済んだだろ」



 そのエーレの言いぐさにシュトルツは肩を竦めながらもそれ以上何も言わずに見送ることにした。



 エーレはすぐには動くことはせず、テーブルの上にあるものや、床に置いているゲーム類、最後にベッドで眠るルシウスを一つ一つ目に留めた後に。踵を返す。



 扉の閉まる余韻が消えるまで沈黙していた二人は、エーレの一挙一動を見て、やはり沈黙したままグラスを数度呷った。



「……また今度、落ち着いた時があればおこちゃまと遊んであげようか?」



 ソファーに深く凭れたシュトルツが、ふと思い出したように天井を仰いで呟く。


 リーベはその視線を追うことはやめて、床に置いたままのゲームへをちらりと見ると、



「そうだな、それも悪くない」



 と僅かに口元を緩めるだけだった。





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