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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

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182/233

終わりの夜の祝祭 ―ハロウィン番外―




 




 オルヴァニア大陸より遠く海を隔てた東方の大陸に伝わる古き祭礼。



 かつてその地では、十月(ディオニカ)の終わりが年の終わりとされていた。


 その夜、闇の精霊たちは境界を越え、人の世に悪戯を仕掛けるといわれている。

 人々は己を守るため、精霊の姿を真似て仮装し、その目を欺いた。



 また、精霊の力は、死者が残した生命の残滓と共鳴しやすいとされる。

 それに引かれ、魂が冥に誘われぬよう、人々はカボチャをくり抜き火を灯し、家々の周囲に置いた。


 それは光の結界であり、闇を祓う印でもあった。



 こうして今に残るこの祭は、


 かつての「年の終わりの夜」──

 精霊と人の世が最も近づく時の名残である。







 ◇◇◇






「はぁ? なんで俺らまで仮装しなきゃならん。やりたいならお前らで勝手にやってろ」




 王国最東端の小さな港町。


 少し離れた大きな港町より入ってくる外国の文化が時代と共に形を変え、今も粛々と受け継がれていた。



 十月(ディオニカ)三十一の日。

 日没から祭りが始まる。



 たまたまその町へ立ち寄っていたルシウスたちが借りた宿の大部屋で、エーレの不機嫌そうな声が響いた。


 大部屋といっても安宿だ。そこには大の男が四人、女性がひとり、その女性と体躯がさほど変わらない少年――ルシウスがひとり。



 テーブルの上にずらりと仮装衣装を並べたのはそのなかの紅一点、ミレイユだった。


 聖女としてこの町に同行したはずの彼女は、すでに法衣を抜き捨て、聖女としての仮面を外した‘’ただのミレイユ‘’になっていた。



 それを見た瞬間、ルシウスは今日の展開をあまりにも容易く想像することが出来た。




 心底嫌そうな声をあげたエーレ。


 部屋の奥にあるベッドで寝転びながらもテーブルの方をちらりと見て楽しそうに口笛を吹いたシュトルツ。


 シュトルツの隣のベッドに座り、本を読んでいたリーベは無視を決め込んでいる。



 そんな彼らを尻目にルシウスは早々にテーブルに駆け寄って、輝いた瞳で衣装を見ていた。



 十六歳。祭りに参加したいに決まっている。

 この時ばかりは、前で自慢げに衣装をばら撒いたミレイユが女神に見えた。



 しかし――ルシウスはミレイユよりも数歩離れて、扉付近に立つ男へそろりと視線をやる。


 変わった外国風の鮮やかな長衣を羽織る異様な雰囲気の男。名前をゼレン。




 彼は同じ傭兵集団を統括するレギオンの所属であるが、そのトップクラン「アヴィリオン」を担うマスターである。



 どうしてこの男がここにいるんだろうか……


 ゼレンという男が苦手だったルシウスは、視界の端に映った彼をどうにか見ないようにして、今一度テーブルを見た。


 そこに細く綺麗な腕が伸びてきて、テーブルの上に並べた衣装を手に取って広げて掲げる。



「これがシュトルツで、こっちがリーベ、これがあんたのよエーレ。で、こっちがルシウス」



 ルシウスはミレイユに差し出された衣装を素直に受け取って眺める。



「かっこいい。こんな衣装どこで手に入れたんですか?」


「僕が調達してきたんだ」



 すぐに返答したのはゼレンだった。



「余計なことしやがって……」



 ルシウスの少し後方からエーレの舌打ち交じりの声が飛んだ。



「いつまでもうだうだ言ってないで、着替えなさいよ!

 日没はもうすぐなのよ! 乗り遅れたらどうしてくれるつもり!?」


「だからてめぇらで勝手にやってろっつってんだよ!」


「ほんとあんたはいつまでも学ばないわね! この衣装にいくらかかったとおもってんの!?」


ゼレン(そいつ)が買ったんだろうが」



 顔を合わせたらすぐに喧嘩になる二人の言い合いが、自分を挟んで始まったことに顔を引き攣らせたルシウスは気配を消して、そろりとその場から離れることにした。



 ほぼ反射的に動いた方向にはゼレンの近く。


 自分の方向へやってきた彼の肩を指先でトントンと触れたゼレンは前で喧嘩している二人を見て、何故か嬉しそうに目を細めていた。



「ミレイユさんが喜ぶらしいから手配したんだけど、あれはどうして喧嘩してるの?

 エーレくんはなんで怒ってるの? 僕はミレイユさんと似てるからエーレくんも喜ぶものとばかり思ってんたんだけれど」



 何をどうしてミレイユとエーレと同一視しているのかわからない男に、ルシウスはげんなりしそうだった。



「エーレは無駄なことをしたがらないんですよ。でもなんだかんだ参加すると思います」


「そう。ならよかったよ。衣装が無駄にならなくて」



 喧嘩をしている二人を避けるようにやってきたシュトルツが衣装を手に取る。

 その彼に手招きされたリーベは、深い溜息をつきながらも同じようにテーブルの前へとやってきた。


 ルシウスはため息と共に肩を落としながらも、これから始まるだろう非日常を想像して口元を緩ませた。









 仮装衣装の着方がわからず最後の最後でルシウスは宿から出てきた。


 日はすでに落ちていて、町にはいつもとは違う橙の光が至るところに置かれてあるのを彼は知っていた。

 部屋で四苦八苦着しながら替え、窓から見ていたからである。



「ちょっとルシウスおっそい!!!」



 宿を出た瞬間、目に飛び込んできたのは天使の羽を背に、輪っかを頭に普段はストレートの髪の毛先だけを少しだけ内に巻いたミレイユ。


 それだけならいい。しかし。


「ミ、ミ、ミレイユさん……! その恰好は聖――」



 聖女という肩書を持つ彼女がしてはいけないのではないか。


 そんなことを口走りそうになったルシウスは咄嗟に目を背けて自分の手で口を塞いだ。


 ルシウスの思う聖女と彼女の聖女は違っているのだ。そして今前にいるミレイユは聖女ではないミレイユ。



 それにしても……彼女の仮装は羽と輪っかがメインであって、他はただただ露出度の高いシンプルな服装だった。


 肩口が大きく開いたシャツに、ルシウスが見たこともないほど短いパンツ。



「ミレイユって見た目は本当にいいんだけどねぇ」



 トンっと背中に軽い衝撃と上から落ちてきた囁き声。


 ふと上げた視線の先でルシウスの視界にまず入ったのは黒い二本の角。


 後ろには蝙蝠なのか悪魔なのか、そんな羽が背中についていて、長身の彼が身にまとっているのはタキシード。

 髪も普段とは違って少しだけセットしてあるようだった。



 ルシウスはそんなシュトルツの立ち姿を見て、先ほどの言葉をそっくりそのまま彼に返したい衝動に駆られる。



 シュトルツも見た目だけはいい。普段は奥底に完璧に隠している気品らしきものが、タキシードのおかげか漏れ出しているようにも思えた。



「あれ? 他の三人は?」


「待つのは退屈だからって、ゼレンが先に連れて行っちゃったわよ」



 すでに踵を返していたミレイユが町へと進みだした。

 彼女を追って視線を上げたルシウス。かぼちゃの装飾と仮装した人たちでにぎわっている町の様子が目に飛び込んできた。






 エーレ、リーベ、ゼレンは少し進んだ先で待っていた。


 決して相性がいいとは言えない三人であったが、やはり少し離れた隙にエーレとリーベはゼレン相手に少し疲弊した顔つきになっている。




 普段真っ黒な装いをしている彼に対しての配慮なのか、それとも嫌味なのか。

 仮装すらも全身真っ黒のエーレは高い立ち襟のマントを羽織り、シルクハットをかぶっていた。


 一番目についたのは彼の瞳である。何故か真っ赤だった。



「何着ても似合うよねぇ、さすがエーレさん」と、何故か自慢げなシュトルツ。


「いや、何着てもって普段と変わらないでしょあれ。でもあの目の色って……」



 呟いたルシウスにこちらに背を見せていたミレイユが腰に両手をあてて自慢げに振り返る。



「いいでしょ。高いのよねぇこの点眼液」



 そういえば前にそんなものがあると言っていた気がする。

 秋に取れる薬草を調合した液体で一時的に瞳の色を変えられるらしい。


 しかし薬草自体も希少な上、調合も難しいらしく高価だと聞いていた。

 ミレイユはこの祭りの参加を前もって計画していたに違いない。ルシウスはそんな確信を抱く。



「似合っているじゃないか、ルシウス」



 そこに進み出てきたのは鎌――じゃない、鎌を持つリーベだった。


 さっき部屋ではこんなものなかったはずなのに……


 エーレとは似ていて違う全体的に黒の装束。普段目立つ装飾類をかけない彼が首に少し太めの鎖で出来たペンダントを下げている。


 中に着ているものも羽織っている衣装も、少しゼレンの羽織っている外国風のように見えた。



「ありがとうございます」



 ルシウスは自分の仮装を思い出して、頭にかぶる大きめの帽子を被りなおす。

 普段することのない黒の手袋に違和感を感じて手袋もしっかり引っ張りなおした。



 ルシウスの恰好は一言でいうと海賊風。


 全員が全員そうだが、仮装の衣装にするにはもったいないほどの良い生地で作られているため、被っているつばの広い三角帽さえ脱いでしまえば平民の中でも上流の服装といってもいいほどだった。


 今一度ルシウスは仲間を見渡した。



 イメージとしてのコンセプトはリーベはルシウスの思った通り死神、シュトルツは見た通りの悪魔、ミレイユは天使、エーレは外国に伝わる人の血を吸う生き物らしい。



「あれ? ゼレンさんは?」



 着いたときにやたらと変な恰好をしていた彼がいない。



「――呼んだ?」



 探していたはずの声がすぐ後方からして、ルシウスの背中に怖気に似た鳥肌が駆け巡る。

 勢いよく振り返ると、普段からおかしい男が六人の中で一番おかしな恰好をしていた。



「ピエロですか……? それ」


「そう、何か足りないなと思ってこれを調達してきたんだ。どうかな?」



 普段の外国風の恰好とは一変。


 フリルの長い襟が広がっている白いシャツ、襟元に青の蝶ネクタイ、カラフルな青いジャケットの袖からもさらにフリルが見えていて頭には王冠を乗せていた。


 そんな彼が懐から取り出したのは赤い玉のようなものだった。

 それを鼻に被せると……どこからどうみても道化である。



「に、にあってますよ」



 ルシウスはどうにか声を絞りながら、乾いた笑いをあげてすぐに踵を返した。







 いつのまにか全ての家の明かりは消えていて、町にはかぼちゃのランタンやカブなどの他の野菜をくり抜いたランタンを手に持つ人たちの揺れる火だけが明かりになっていた。



 一行はそれまでの間に町の至るところにある屋台で飲み食いを重ねていた。


 ミレイユの大好きな屋台のゲーム類はなかったものの、わいわいと(勿論至るところでミレイユとエーレは喧嘩を繰り広げていたが)過ごしていた。



 町の灯りが消えたとほぼ同じくして、屋台が全て空になり、人々は仮装衣装のまま町の高台に向けて移動し始めた。どうやら高台で精霊に手向ける火を送るらしい。



「俺たちはどうする?」



 未だに両手に食べ物を持つシュトルツが誰ともなく尋ねる。

 先に人々が向かう先とは真逆へ踵を返したのはエーレだった。



 それにシュトルツが倣ったのを見たルシウスが再びここで言い合いになるのではないかと危惧した予想とは反して、ミレイユや他の全員もそちらに向かっていく。



「私たちは私たちのやり方で精霊に火を手向けましょうか」



 やはり誰ともなく呟いたミレイユの言葉に、ルシウスは一歩前を歩くリーベの背を見た。

 その視線を感じ取ったらしい彼が、歩を進める速度を落として隣に並んでくれて、



「何するつもりですか……」



 そもそもこの祭りに関して詳しくないルシウスは、嫌な予感を感じてリーベに耳打ちした。



「どうだろうな。まぁミレイユに任せておけば問題ないだろう」



 おそらくは、と自信なさげに付け足した彼の言葉に、ルシウスはいつのまにか先頭を歩くミレイユを見た。

 嫌になるほど羽と頭の輪っかが似合っている。







 辿り着いたのは町から少し離れたところにある丘だった。

 そこへ至るとミレイユは軽やかに踵を返して町を見下ろし、一行がそれに倣う。


 暗くてそれぞれの表情は見えない。ルシウスは町とは逆側にいるリーベの隣に歩みよると、彼がこちらを一瞥した気配があった。



 僅かな沈黙を挟んだ後、冷たい風に乗せて彼女の口から流れたのは――ルシウスの予想通りというべきか。

 古代言語により精霊との会話、霊奏だった。



 この場にはそれを知らないゼレンがいる。

 咄嗟にルシウスはその場の全員を見渡すが何故か誰一人止めようとはしない。


 寒い風が舞い上がる月も姿を消した星空のもと、それに相反して温かみのあるミレイユの穏やかな声が辺り一帯に響く。



「Seral aer solina line,kaela ves koro Elne-Lnua」


 ――大いなる天空の守護の下、

   この場に顕現せしは我につきし光の精霊――



 いつもよりも幾段も重厚に聞こえた彼女の霊奏。

 長くない歌を紡いだ彼女は、半歩後ろにいるエーレを見た。


 エーレはその視線を受けて、一瞬だけゼレンを見る。

 だが何も言わずにため息だけを吐き出した彼は小さく息を吸い込んだ。



「Terra durene solina Nocten, Rlne-Noir.

 Kaela ves, lignan ai Elne-Lune」


 ――地よりも深い深淵を守護する闇の精霊。

   この場に顕現せし、光に次の陽を託せ――



 そっと声を落として呟くように風に流れたエーレの霊奏。



「光と闇はそれほど相性がよくない。俺は知らんからな」



 それだけ言ってエーレは数歩下がる。



「問題ないわよ。なんていったって私を守護する光の精霊よ?

 あんたについてる闇の精霊くらい手懐けられないわけがないでしょ?」



 ミレイユの言葉が合図だった。



 霊奏より随分遅れて、先に舞い上がったのは何故かこの季節には似つかわしくない温かな風だった。



 その風に乗るようにどこからともなく――ルシウスの視界のありとあらゆるところから柔らかくて今にも消えてしまいそうな光の粒たちが浮遊し始める。


 かと思えばいつの間にかその光たちを囲むように、真っ黒な靄が辺りに漂い始めていた。



 しかしルシウスはその闇の精霊を恐ろしいとは思わなかった。



 まるで――今にも消えゆきそうな光を闇が守っているように見える。



「何がどうなっているのか僕にはわからないけれど」



 ふと後ろから高めのハスキーな声がした。



「闇が一番深いと言われる今日の夜に、こうして光の精霊を見られるのはあまりにも貴重なものなんだろうね」



 ルシウスは目の前で当たり前のように繰り広げられている奇跡から目が離せずにいた。



「光と闇の饗宴はあまり見ることがないから、よく見ておくといいかもねぇ」


「そうだな。ミレイユだからこそ出来るものだ」



 右隣と更にその隣にいる仲間――シュトルツとリーベのいつもより数段穏やかな声に誘われてそちらを見ると、二人はただただ前を向いて光と闇を見守っていた。



「Melas-Elne-Luna,Elne-Noir.

 Aer-Terra.,Ves-ta,Seral.Solina」


 ――さぁ、光と闇の精霊。天と地に。

   全てのものに。新しい祝福を――




 その中で続けて口ずさまれたその旋律。

 まず動いたのは闇の精霊だった。



 辺り一面に浮遊している光を少しずつ少しずつ優しく包んでいく。覆うではなく、靄が光を溶かすようにしていつしか辺り一面から光が消えた。


 一寸先も見えない深い闇が辺りに広がる。

 これから起こるだろう何かを予感してルシウスは目の前の闇へと目を凝らしていた。



 先に訪れたのは――音だった。


 光を連想させる音ではない。よく精霊たちが奏でるピアノのような音でもない。


 それは小さな火が灯るような、ほんの少し掠れていて何かが息を吹き返すような生命の灯に似たものだった。



 音と共に、ルシウスの視界のある一点に小さな光が姿を見せた。


 町で見かけた橙色ではない。あまりにも純白で闇の中では目が痛くなるような芯のある輝きを持つ光。


 それは止まっているようにしか見えない速度でゆっくりゆっくり何かを確かめるように広がっていく。



 光がルシウスの手のひらほどの大きさに到達するまでの長い長い時間。



 誰一人として口を開かなかった。吹き抜けていた風は息を殺し、そこにはただ闇に生まれる光があるだけだった。



 ようやくその大きさに光が到達したとき、大気が揺れた。


 大気? いや、震えたのは闇の精霊だ。

 ルシウスはそれを感じ取る。



 黒い靄が何かを伝えるように震えだし、それと呼応するように光が今までよりも数倍の速度で広がっていく。

 それは広がりながら彼らが見上げなければいけないほど天高くに浮き上がると――



「うわぁ……」



 最初に顕現したときとは比べ物にならないほどの力強く眩い粒子を地に降らせた。


 空一面を覆う星が砕けて舞い落ちるような、幻想を超えた激しい輝きだった。

 比例するように、星の欠片を受けた闇が徐々に薄まっていく。


 薄まった闇は小さく収縮していき、気が付いた時には片手ほどの黒い塊としてエーレの前に漂っていた。



「悪いな、苦労をかけて。まぁ、お互い様だろうけどな」



 エーレはやってきた闇の精霊を手に乗せて、苦笑する。



「Therna. Lir ves-ta,seral」


 ――いつもありがとう。

   これからも私たちを見守っていて――



 最後にミレイユが感謝を空に(うた)った。






 その日の祭りは翌朝に陽が昇るまで続けられた。


 勿論、ミレイユの先導で一行も広くない町を何週もし、シュトルツに至っては何度同じ屋台の食べ物を食べたかわからないほどだった。


 仮装姿の仲間と共に、非日常の賑やかさと温かさに包まれた夜。

 ルシウスはこの夜を忘れないように、笑い合い、ふざけ合い、喧嘩し合う仲間の様子を目に留めた。






 ◇◇◇






 それから随分日は経つ。


 王国首都エルディナ――レギオン支部の一室には珍しい組み合わせの二人がいた。



「はい、頼まれていたもの」



 ゼレンの借りていた一室。そこに訪れたミレイユに、ゼレンが彼の手ほどの大きさの厚めの紙を差し出す。


 そこには――



 かぼちゃを抱えたルシウスが楽しそうに笑い、その右隣にはふくれっ面のエーレ、更に一歩後ろの左隣にピースサインをしているシュトルツ。ルシウスの右隣には相変わらずの無表情で鎌を持つリーベが映っていた。



「いい出来じゃない」



 この世界に写真というものはない。ミレイユが試行錯誤して作り出した魔鉱石によるその瞬間の投影を紙に映したものだった。


 渡された紙を満足気にまじまじと見ている彼女。

 そんな彼女を観察していたゼレンがふと小さく首を傾げ、数度目を瞬かせた。そのまま彼は、更に首を横に倒して何かを考えるようにすると、



「もしかして――」



 その口からぽつり、と息と共に吐き出される。



「ミレイユさんにとって彼らは‘’家族‘’なのかな?」


「は?」



 先ほどの表情とは一変、驚くほどの勢いでゼレンを睨んだミレイユ。



「そんなわけないでしょ。あんたのその気色悪い価値観と一緒にしないでくれる?」



 捲し立てるような反駁と共に、視線を受けたゼレンが目をパチクリとさせる。

 その一瞬の隙にミレイユはさっと踵を返すと、



「ああ、そう。あの場で見たことは他言無用だからね」



 それだけの残した彼女はゼレンの返答を待たずにさっさと部屋を出ていき、完全に閉まってしまった。

 もう彼女のいない扉の先を見たゼレンはぼんやりとした笑みを口に浮かべた。



「勿論。あそこにいたのは精霊に仮装をした何者でもない人々だからね」



 誰も聞く人のいない部屋に僅かに低い声色の返答が漂う。


 同時に彼の心には一つ確信的なことが芽生えていた。



 自分にとっての‘’家族‘’とは違うかもしれない。

 けれど彼女にとって彼らはやはり大切な人たちなのだ。


 自分が思うように彼女も彼らを大切に思っている。その形は違えど、‘’大切‘’を共有するとう小さな温かさ。

 彼が三十と数年生きてきた三度目に感じる温かさでもあった。



「いつか僕も、ミレイユさんやエーレくんの気持ちをわかるようになれればいいんだけれどね」



 その小さな願いがすでに新たな陽に照らされていることを、その時の彼はまだ知らない――






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成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
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