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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

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サイドストーリー「それは嘘か、偽りか」

 




「ねぇ、リーベって俺のこと嫌いなの? 嫌いだよね? だってこれには悪意しかないよね?」



 境界都市ラースティアの検問を突破して、トラヴィスのいるバーへの道中だった。

 図体だけ大きい子供のような男が、こちらへ大きく首を傾けて駄々を捏ねるように言った。



「てめぇ、まだ言ってんのか」



 その隣にいるエーレが、うんざりしたように吐き出す。



 リーベから見えている二人は、本来の姿とは全く違うものだった。


 男性にしては背の低い肥満体型、髪は薄くなっている壮年男性の姿のシュトルツ。


 それよりも更に背の小さい、美しいアッシュグリーンの髪を靡かせている小柄な女性姿のエーレ。


 そしてリーベの姿は、いつもの一倍半はあるだろう体格、若干強面で精悍な顔つきの用心棒風に見えているだろう。



 これはリーベ自身が書いた絵の通りだった。

 よくあの短期間でルシウスは仕上げたものだ、と感心を覚えて彼はシュトルツを見た。



「随分、気に入ってくれたみたいだな。デブリオ」



 アルベリオという身分証明書を持ったシュトルツ。太っているのでそのままデブリオ。

 境界都市に着くまでの荷馬車の中で、エーレとともに散々口にした名前だった。



「エーレさん! リーベが虐める!」


「うるせぇな。見た目なんてどうでもいいだろうが」



 美しい女性の姿をしているのに、口から出るのはいつもの同じ口調のエーレ。

 丹精を込めて描いたのに、もったいない。



「エーレさんの姿もさぁ。もう悪意しかないよ。俺のこと嫌いなの?」



 同じ言葉を繰り返したシュトルツが、今度はしっかりこちらを見た。


 エーレの姿は、過去にたった一人だけシュトルツが愛した女性に姿を似せて描いたものだった。

 そこに悪意はない。どちらかといえば逆だ。


 咄嗟に浮かんだのがその女性であったというのもあるが、そろそろ恋しいのではないか、と思って深い意図もなく描いたのだから。



 そんなことを思いながら、リーベは「好かれていると思っていたことに驚きだな」と返す。

 勿論、そこにも深い意図はない。習慣のようなものだった。


 すると彼は眉を寄せて、ぐっと睨んできた。



「あの時のこと、リーベはよく知ってるくせに。

 エーレさんに彼女の姿を被せるなんて嫌がらせでしかないよ、もう」



 本当に落ち込んでいるような素振りの男を見て、リーベは呆れてため息を吐きだした。



「彼女そのものではないだろう。当の昔に吹っ切ったと思っていたんだがな」


「じゃあもし、エーレがアイリスの姿してたら、どうなわけ?」



 シュトルツの言葉に、前のアッシュグリーンの髪が薄金色に見えた気がした。


 まぁ、たしかに。もしエーレがアイリスの姿をしていたら、私も悪意を疑うだろう。

 リーベは今更そんな発想に至って、肩を竦める。



「今回は私が悪かった。だから機嫌を直してくれ」



 素直に謝ると、ふふんっと鼻を鳴らして勝ち誇ったような顔でこちらを見てきたシュトルツに、リーベは謝ったことを後悔した。



「てめぇら、俺の偽装で遊んでんじゃねぇぞ」


「え、外見なんてどうでもいいって言ったのは、エーレさんだし?」



 シュトルツが言い終えるが早いか、エーレの手がシュトルツの頭を打った。

 仲が良いことだ。

 前でじゃれる二人の先――目的の宿屋の看板を見て、リーベは息をこぼした。






 リーベたちを見たトラヴィスは咄嗟に手を口元に持って行って、「あらあらあらぁ」と大層嬉しそうに頬を緩めた。


 相変わらず筋肉の鎧に、ぴたりと張り付けたような服装、上ずった声色。

 そのまま部屋の入り口まで楽しそうな足取りでやってきた彼は、一番前にいるエーレを覗き見る。



「やだぁ~」



 そのままエーレの全体を見て、シュトルツに移った。



「これはシュトちゃんかしら? その姿も素敵ね」と、ウインク。


「リーベちゃん。素敵だわ。特にこの胸筋!」と、胸を触れてこようとするものだから、リーベは咄嗟に身を躱す。



 ふとその時、リーベの視界にトラヴィスの耳が映った。

 また制御具(イグリシウム)が増えたらしい。



 再びエーレの前に戻った彼は、「どこかで見たことがある顔ね? 気のせいかしら?」と首を傾げ、エーレの左手を掴んでは、目の前まで持ち上げた。



 さすがトラヴィスというところだろうか。偽装の発信源をすぐに見抜いた。

 そして不思議と、エーレはトラヴィスに触れられても拒否反応を起こさない。

 何故かはわからないが、おそらく彼の奇特さのおかげなのではないだろうか、とリーベは勝手に解釈していた。



「僕ちゃん、頑張ったのねぇ」



 魔鉱石から僅かに漂うルシウスの生命力。

 リーベは首を振って肩を竦める。嫌になるほど敏い。



「いいからさっさと話に移るぞ」



 エーレは握られた手をサッと払うと、トラヴィスの隣を通って、ソファーに腰を下ろす。

 リーベとシュトルツはその背面。いつもの位置だ。



「あら、残念。せっかく可愛らしい姿なんだから、もう少しお茶目にしたらいいんじゃないの?」



 向かい合って座ったトラヴィスに、気づかれない程度に頷いたリーベ。



「必要になったらしてやるよ」



 エーレの意外な回答に、隣のシュトルツがこちらを見た気配があった。

 リーベは前のエーレに視点を落とし、合理的なこの男ならなんの恥じらいもなくやりそうだ、と口の中で呟いていた。


 後ろ二人の心境を知ってか知らずか、エーレとトラヴィスは本題に入る。



「で、前もって送っておいた情報は揃ったか?」


「勿論よ」



 先ほど座ったばかりのソファーに、今一度座りなおしたトラヴィスが続けた。



「その前に、伝言を預かってるわ。

 あんたの言っていた通り、新啓派管理の地下室に拷問室を発見した。そこで()()は使えなかった。

 その原因を今、’’彼女’’の協力のもと、調査中よ。続報を待って。

 聖女様からよ」



 ミレイユを聖国まで護衛、その道中でエーレが彼女に頼んでいたことだった。

 三回目の回帰で、エーレとシュトルツはレヒト教会の罠にかかり、一度危険な思いをしている。



 "アレ"。そう、そこでは霊奏が使えず、イグリシウムで魔法も制御され、脱出が困難になっていたのだ。

 教皇、並びに皇帝は霊奏の遮断方法を見い出している。

 霊奏を常用するエルフを捕獲し、禁術の使用を悲願としているからだろう。


 敵が先にその方法にたどり着いているのは、リーベたちからしたら悪い話でしかなかった。



「機会があれば、了解したと伝えてくれ」



 声色も語調も変わらない。けれど、どこか雰囲気に苛立ちを感じさせるエーレ。



「他に気になることはあるかしら?」


「前置きは良い。頼んでいたこと、知っていること、全て話せ。対価は用意する」


「ああ、そのことなんだけど」



 トラヴィスは口元に人差し指を当てて、ウインクを一度挟む。



「対価はいらないわ。エーレちゃんはこの前言っていた二重スパイ見つけたのよ。だから今回の対価は必要ないわ。モランの懐の件もそうだったけれど、その処理もあって聖国に行ってきてたのよ」



 彼は、運命のイタズラね、とさらにウインクした。


 今回たまたまトラヴィスがこの近辺にいるというから、境界都市(ラースティア)で落ち合うことにしたが、そういうことだったらしい。

 エーレは息を吐きだすと、ソファーに背を預ける。



「珍しいこともあるんだな。正直、お前が動くことを期待してなかった」



 レヒト教会にいる二重スパイ。

 そのせいで三度目の回帰の時、エーレとシュトルツは危機に陥っている。

 回帰を含めた事情をトラヴィスに話す余地はなく、言葉だけで証拠も何もない。


 エーレの言葉には同感だった。

 トラヴィスは外見に似合わず慎重な男だ。証拠のない情報に対して無暗に動かない。



「あら、そう? 心外ね。私が貴方たちのことを、こんなに信頼してるというのに」



 大げさに肩を竦めてみせたトラヴィス。



「冗談も休み休み言え。まぁ、二重スパイ処理はこちらとしても助かることだ。

 しっかり対価は支払う」


「本当に人に甘えるのが下手ね~、エーレちゃんは」




 そうしてトラヴィスは、情報を話しだした。


 先に伝えておいた指名手配に関する情報に対しては、手配されたからまだ日は浅く、ほとんど動きがないということだった。

 帝国が何を思ってこの段階で指名手配に乗り切ったのか、トラヴィス自身も未だ掴めていないと言う。


 レギオンとの関係性を崩すリスクを承知で、少なすぎる情報の手配書をばら撒いたのはやはり、牽制とレギオンの出方を見ているのではないか、という推測も口にした。



 代わりに、他に目ぼしい情報があった。


 帝国と聖国が、軍を率いて南下している。その規模は小さな戦争でも出来るほどではないかと。

 秘密裏に動こうとはしているようだが、数が数だけに隠しきれていないらしい。


 聖国からの軍隊のほとんどが新啓派。

 帝国に関しては湾港都市(レネウス)の海軍と、更に西にある都市の陸軍から出されるのか、そちらの動きが慌ただしいという情報が入ったらしい。



「南? 何かあったか?」



 怪訝そうなエーレの声色。



「それがねぇ。私たちにも何の目的で軍を動かしているのか、どうにもわからないの」



 トラヴィス返答を受け取って、エーレは後ろに視線を投げてきた。

 リーベもシュトルツも首を振る。


 前回までの回帰で、この時期に南で何かあったことはない。すると……



「ミゲルか」



 エーレの呟きを、その場の全員は聞き逃さなかった。



 カイロスの権能者。彼の仕業にしか思えなかった。

 彼が何の目的をもって、教皇と皇帝を動かしたのかはわからない。


 そもそもミゲルの立ち位置が、リーベたちにはわからなかった。



「教皇の側に、真っ白な髪のオッドアイの子供がいるか知らないか?」



 エーレの問いにトラヴィスは一度動きを止めたあと、考えるような間を置いて首を振る。



「教皇が側に数人の子供たちを囲っている話は有名だわ。

 けれど、その子たちは表に一切出てこない。

 協会内に潜入させている部下も、滅多に姿を見ることはないと言ってたわ」



 それっきり、その場はしばらく沈黙に包まれた。







「この前受けた依頼は進行中よ。もうしばらく待ってね」



 そんなトラヴィスの言葉を最後に、リーベたちはその場を離れた。

 聖国に近接するこの街には、情報が集まってくる。


 今日を含めて四日間。それぞれ情報収集をする予定だった。



「おい、お前ら。前までの記憶でミゲルのこと覚えてるか?」



 先を行くエーレが、少しだけ振り向いて尋ねてきた。



「んー、それがわかんないんだよねぇ。あんな目立つ見た目してたら覚えてそうなのに」



 頭の後ろで両手を組みながら、怠そうにシュトルツが首を振る。



「シュトルツと同じ意見だ。だがあの少年は私たちを見て、久しぶりと言っていた。

 どこかで接触したことはあるのだろう」


「教会のやつらなら顔を隠してることも多いからな。教皇の囲いならなおさらだ。

 ミゲル(あいつ)がどんな手を使って、教皇らを動かしたのかは知らんが。

 とりあえず、ここからは今まで以上に慎重に動いたほうがいいだろうな」



 シュトルツに賛同を示したリーベに、エーレは重い息を吐きだしながら、角を曲がった――先にはもうエーレはいなかった。


 半歩前のシュトルツが、大きく肩を竦めた。



「エーレさん、ご機嫌斜めだねぇ」


「想定外のことが続きすぎているからな。不機嫌にもなる」



 早い段階で何か大きなことを起きようとしている。

 それは制約に反するリスクが伴う。

 普段平静を装っているエーレだが、不安もあるのだろう。


 一瞬、思考を迷わせたリーベにシュトルツが半身を逸らして振り向いてきた。

 それを認めたリーベは、


「とりあえず当初の予定通りでいいな。三日後の夜に指定の宿で集合だ」


 と短く告げる


「了解」



 そうして二人もまた分かれた。








 荷馬車で寝転がりながら、眠そうに欠伸を繰り返しているシュトルツへとリーベは視線を落とした。

 もうすぐ森の近くに着くという頃だった。


 得られた情報は、これといって目立ったものはない。



 レヒト教会の派閥争いが徐々に激化しているだとか、その影響で聖国への越境の際の検問が厳しくなっているだとか。

 もうしばらくすると枢機卿の会合が開かれる、今回は各国の要人を招くかもしれないと言った噂だとか。


 聖国と帝国が慌ただしいという情報も少し小耳に挟んだが、大きな情報はなかった。



「ミレイユ、会合でどうするのかねぇ」



 欠伸交じりのシュトルツが、誰ともなく言う。


 教皇と聖女であるミレイユを入れて、十人からなる聖国枢機卿議会。

 聖律派と新啓派は半々に分かれている。


 今のところミレイユの牽制があるから、教皇もそれ以上強くは出ることなく、力のバランスはとれているようなものだった。



「あのことでキレなきゃいいがな」



 他人事のように言ったエーレにシュトルツが笑う。



「前回ミレイユ、あの拷問室部屋見てガチギレしてたもんねぇ。

 神聖な教会でこのような残虐な行為、許されると思っているのですか! って」


「お前、よく覚えてんな」



 声を変えて楽しそうに言ったシュトルツに、エーレが呆れた声を出す。



「そらそうでしょ、あの時ほど、ミレイユに感謝したことないよ」



 その場にリーベはいなかった。ルシウスも。

 彼らとミレイユの間にどんなやりとりがあったのか、リーベは知らない。

 けれど、なんとなく想像をつく。


 その時、荷馬車が止まった。



「さって、帰って爺やの美味しいご飯でもお呼ばれしたいねぇ」



 怠そうに起き上がったシュトルツに続いて、彼らは荷馬車を下りた。






 ◇◇◇






 深夜の森は一段と鬱蒼としていて、ほとんど光は差さない。

 先日彼らが魔物を根こそぎ浄化したため、特に静かだった。

 その中でシュトルツが顕現させた光を頼りに歩き、もうしばらくで着くというときだった。


 前をいくエーレが、ぴたりと足を止めた。



「おい」



 彼は首だけ振り返って、自らの耳――感応の魔鉱石のイヤーカフを指す。

 それを見たシュトルツが同じように、ピアスに手をあてて、耳を澄ませるように目を細めた。



「エーレさん、なんか聞こえてんの?」



 シュトルツが尋ねたように、リーベの方にも何も伝わってきていない。

 二人の様子を見て、エーレが怪訝そうに屋敷の方へと視線を投げた。その時だった――



「っ……!」



 リーベの視界が、ぐらりと大きく揺れ、大きな波動が彼の全身を通り抜けた。

 自らの生命力がどこかで跳ねて、帰ってくる感覚。



 ――結界が発動した。



「ルシウスが危ない」



 リーベの声に応えることなく、瞬時に二人は駆け出した。

 雷の魔法で駆けた彼らに追い付いた先で、エーレが風に包まれて消えた。

 同時にピアスを通して、伝わってきたのは――



「ルシウス……!」



 ルシウスの縋るような声。

 リーベは止めかけた足を衝動のままに動かし、庭で戦っているシュトルツの隣を通り抜けて、屋敷へ入る。駆け上がった階段の先には、数人の影。



 嫌な感覚が、全身を通り抜けていく。

 リーベは一度、肺から酸素を全て吐き出すと頭を冷やした。



 すでにエーレが向かった。何の問題もない。

 そう自分に言い聞かせて、剣を抜いた。



 暗い廊下。前方の敵。それが彼に過去を想起させる。

 大切な人を残して、敵を薙ぎ払い、廊下を駆けたあの記憶が――



 呼応するように、先ほどのルシウスの感情が胸の奥を泡立たせる。

 切迫した恐怖と孤独感。置いていかれた子供が、親に庇護を求めるものと似ている、胸の焼ける悲痛な想い。



 アイリスは……当時のアイリスは、今のルシウスと同じ年齢だった。


 気高く、聡明で、強く振舞っていた彼女も、同じ十六歳だったんだ。

 心の奥に仕舞いこんだ不安の中で、彼女もきっと同じ想いを抱いていたはずだ。だというのに。

 だというのに、私は……




 湧き上がってきた感情と思考の先で、数人の敵の刃が月明かりに怪しく光る。

 深い海のような紺碧の――長い髪が見えたような気がした。


 リーベは唇をぐっと噛み、胸から頭へ、頭から全身へと駆け抜けた憎悪を、静かに吸い込んだ息で沈めていく。

 そのまま無理矢理閉じて、襲い掛かってくる敵を適確に切り伏せることだけに集中した。



 剣を振るうのは好きではない。出来るだけ血を見たくない。

 肉を断つ感覚も、苦痛に歪む表情も、悲鳴も。

 だから切り伏せたあとに倒れた敵を見る必要がないよう、確実に急所を狙う。



 そうして気づけば襲って来た三人を後ろに置き、たどり着いた先で、仲間の姿を確認した。



 ルシウスとコンラートは無事だ。

 その事実にホッ胸を撫でおろして、まずルシウスに治癒をかけた。

 シュトルツが駆けたのを見たリーベは、すぐに残った敵へと剣を向けることにした。



 二度と大切なものを失わないように。それでも剣を振るうしかない。


 尽きることを知らない憎しみ、怒り、後悔を抱く自分。

 その全てを否定するために、戦いを望むもう一人の自分。



 そのためなら残虐に悦びを見い出せる自らを制するため、極限まで頭を冷やしながら――




 全てを切り伏せやってきた一瞬の静寂の中。ルシウスへと集まる仲間に倣って、そちらへ向かった。

 つい、落とした視界の端に、事切れた敵が映り、顔を顰めた。

 リーベはそれを誤魔化すように、二人が無事であったことへの安堵を口にした。



 前で震えて泣いているルシウスを見て、複雑な気持ちが湧き上がってくる。

 彼が、遠い彼女と重なって見えた。

 同時にルシウスの持つ剣に、黒ずんだ戦いの痕跡を見つけてしまう。



 人を斬ったのかもしれない。

 ルシウスが私たちに追い付こうと必死なのは、この場の全員が良く知っていた。



 だが――それでいいのだろうか?



 リーベの心にそんな疑問がぽつり、と浮かび上がった。


 幼い彼が、本当に私たちの隣に立ってもいいのだろうか?

 時折、彼女を想起させるようなこんな幼い少年が。



「まぁ」 リーベは強張りかけた体から力を抜こうと、意識的に息を吐きだした。



 私が判断することではないか。口の中でそう呟いて、自分を納得させた。

 ルシウスの件に関しては、自分が何を言わずともエーレが対処するだろう。

 あいつはそういう男だ。



 そうしてやっと、彼は剣を鞘に納めた。




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