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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

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砕ける砂時計

 




 その日コンラートは、僕に剣に魔法を乗せる方法を教えてくれた。



 イグリシウムでも用いられているように、鉄は生命力と相性が良い。



 大体においては特性ではなく、具現化した魔法を剣に纏わせて使うらしいけれど。

 剣術もまだ体に染み込んでない僕が、具現化を留めたまま剣を振るうのは至難の業だった。


 けれど、もしこれが出来たのなら、水を纏わせた剣で炎の魔法を切り払うことだってできるだろう。

 それにしても……



「覚えることが多すぎるなぁ」



 一日を終えて、生命力が尽きかけた体は悲鳴を上げている。

 手には剣だこが出来て、もう痛いを通り越しているし、生命力が回復するまで倦怠感は酷い。

 これ以上生命力を使うと、吐き気や眩暈までしてくるのだ。


 エーレたちが帰ってきたら、あっと言わせられるように、もっともっと頑張らないと。

 それにしても、バルトからは未だに連絡がこない。

 そろそろ二週間経とうとしている。いつまでこの屋敷に留まるのだろうか?


 不満はないし、今の間に出来るだけ力をつけておきたい。

 明日に備えて早く寝よう。


 倦怠感に身を委ねるように意識を底に落としたのが、おそらくハデス第一刻(二十一時)を過ぎたあたりだった。








 巨大な砂時計がバラバラに割れる夢の最後――どこかで大きな衝撃音がして、目が覚めた。


 それが夢なのか現実なのかの区別がつかなくて、暗闇に慣れない目で数瞬、天井を見つめた。

 屋敷には夜のとばりが深く降りていて、静まり返っている。



 その中で、ぶわりと全身の生命力が揺らいで泡立つ感覚。

 咄嗟に跳び起きて、近くの手半剣を持った。


 耳が痛いほどの静寂の中にある、確かな違和感。細かい揺らぎのようなものが、肌を撫でていく感覚。

 全身の鳥肌は収まらず、今まで感じたことのない、その原因を探るために意識を集中させた。



 それは徐々にイメージを頭の中に浮かび上がらせる。遠くないところにその揺らぎの根源。それも複数。

 これは……


 正体を探っていた時、部屋の扉が激しく開けられて、思わず身構えた。しかしそこには――



「コンラートさん?」 手に剣を持った老爺がいた。


「結界が破られました。何者かが侵入してきたようです。迎え撃つご準備を」



 暗くて表情は見えない。けれど声はいつもより低く、緊張が滲み出ていた。


 僕は手の中の手半剣と首元のペンダントを確認した後、ぐっと剣を握りなおして、無言で一つ頷きを返す。

 そのまま老爺に導かれるまま廊下に出た。



 月明かりだけが差しこむ薄暗い廊下に出た時、それまでの肌を撫でる波が大きくなって、ぶるりと体が震えた。


 右側に二つ? 左側に二……いや三つ。庭先にばらけて四つ、それぞれ違う波動。これは……



「近くには九人のようです。おそらく他にも隠れているかと」



 コンラートが剣を抜いて構えた。

 僕も同じようにして、コンラートに背を預ける形で反対方面の廊下の先を見る。

 まだ生命力が回復しきっていない。この不安定な状態だと霊奏は厳しい。


 緊張に体が硬直しているのを自覚して、お腹から息を吐きだし肩の力を抜いた。







 暗闇の先から黒い影。見覚えのある装束――暗殺ギルドだった。


 二つの影を目で捉えた瞬間、すぐ後ろから剣戟が耳を貫いて、呑んだ息が喉の奥に引っかかる。

 思わず振り返ろうとした時――正面からの波動が強くなって、咄嗟に剣を正面に持ち上げた。



 刹那。耳の痛い金属音と共に全身に衝撃が走った。

 受けた剣圧に体の軸を失いかけて、すぐに後方へステップを踏んだ。

 たった数メートル先にいる黒装束がやたらと不気味に映った。



 ――落ち着け、落ち着け。訓練した通りにするんだ。



 荒く吐き出す息が、耳に張り付く。剣と握る手に、汗が滲みだす。


 月明かりがその影を照らし出した時、敵の刃が鈍く光ったのが合図だった。








 手が痺れて汗が落ちる。弾かれた剣ごと体を持っていかれて、重心を戻せずに立ち止まった。



「足を止めるな。力が入りすぎだ。重心を剣圧の方向へ乗せろ」



 シュトルツとの打ち合いを、近くで見ていたエーレの淡々とした口調。


 すぐに打ち合いは再開させた僕は、シュトルツの速度についていけず、どうにか受け止めるはするものの、相手の軌道に乗せられない。

 振り下ろされた剣を受け止めはじくので精一杯だった。

 目の前のシュトルツは舞うように、軽くはじかれた剣を更に次の軌道に乗せる。



「真正面から受け止めるな。滑らせて流せ。全身と剣を繋げろ」



 近くから聞こえてくるエーレの指導。頭ではわかっていても体がついていかない。

 視界の端に赤髪が揺れたのを知って、喉の奥がひゅっとなった。



「空気の流れと衝撃に意識を傾けて。君は水だ。そう思い込め」



 背後を取られたときのシュトルツの言葉――









 視界もままならない薄暗闇の中で、一週間前の記憶が頭を掠めた。


 空気の震え、流れ、相手の微細な波動。

 その中で、腕の先からやってくる衝撃に、何度も重心を持っていかれていた時だった。



 ――受け止めるな。流せ。相手の剣に沿って――



 どこかでエーレの声が聞こえた気がした。

 それはあまりにも当然のように、僕の頭から心に馴染むように溶け込んでいく。


 数瞬の合間に、何故か頭の芯がスッと冷えていく感覚がした。



 ――水、僕は水だ。流れを読め。流れに乗れ。



 迫ってくる剣の短双剣の軌道。


 目で追うことをやめたその先に、ぼんやりと何かが映った。




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成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
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