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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

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【番外編】切先が笑う距離

神視点です。

 



 弓の弦が軋む音と、生命力の波動が空気中に漂う。

 距離にして十メートル、敵は八人。


 エーレはその中心に、あえて姿を晒していた。

 剣鍔に手は当てられているが、抜く様子はない。



 その姿は敵の前にいるとは思えないほど、泰然としたものだった。



 敵の意識が、一点に集まる。


 エーレが瞬きした一瞬――



 その隣をすり抜けるように、シュトルツが走った。

 両手の短剣を構え、獣のように疾駆する。その突進に、敵の視線が分散する。

 照準を定め直そうとした弓兵と魔法師が動いた瞬間――矢と魔法が飛ぶ。



 その間隙を縫い、シュトルツは最前列に肉薄。短剣が火花を散らす。


 甲高い剣戟が、空に舞い上がった。

 敵の前衛2人と対峙した彼の口元は楽しそうに弧を描き、軽やかに敵の刃を受け止め、弾く。

 その中で、槍兵の鋭い突きが、彼の死角から迫っていた。



 ──突きが届く、その瞬間。


 気配も足音もなく、エーレが滑り込んだ。

 地を這うような低い姿勢から、鋭く剣が閃く。




 斬られたのは敵の槍──だけではない。

 刃が風を裂き、シュトルツの首元を紙一重で掠めて通る。

 数本、赤い髪が宙に舞い、髪を束ねていた紐が切れて、はらりと落ちた。



「……」



 シュトルツは驚かない。ただ、僅かに眉を寄せる。

 その不満げな横顔をよそに、すぐ隣を通り過ぎたエーレが、わずかに口角を吊り上げた。



 刹那、エーレは姿を翻し、後衛へと駆ける。

 だが、その時。


 茂みに潜んでいたもう一人の弓兵が、シュトルツに矢を放った。



 ──それに、彼は気づいていた。



 なのに避けない。ただ、静かに短剣を握り直し、前の敵を切り伏せる。



 空中で弾ける矢と矢。

 シュトルツに届く直前に、リーベの一射が、敵の矢を正確に撃ち落とした。


 同時に、エーレが一直線にその弓兵に肉薄する。死角から現れた黒の剣が、一閃。


 刃が止まることはない。敵は叫ぶ間もなく沈んだ。





 全ての敵を薙ぎ払い、切り捨て、シュトルツは短剣を手にしたまま、腕を回した。


 風が彼の髪を攫い、その視界を覆った。



「ちょっと、エーレさん。

 完全にわざとでしょ?」



 剣を鞘に収め、彼の元へやってきたエーレに、シュトルツは顔を顰めながら振り返った。



「ついでに、その鬱陶しい髪を切ってやろうとしただけだろ」



 そこにキラリと森の奥から、鈍い鉄が光る。

 それはエーレの背を貫こうと、風を切った。


 しかしそれは、別の方向から放たれた矢により、再び撃ち落とされ、その影に潜んでいた2本目の矢が森へと駆け抜ける。


 遠くから小さな衝撃音が彼らの耳に届き、同時にリーベが姿を見せた。



「まったく」


「ちょっとリーベ聞いてよ。エーレさん、俺に嫌がらせしてきたんだけど!」



 シュトルツが髪を指さしながら訴える。



「切ってしまえばよかったのに」


「酷くない!?

 これ、俺のチャームポイントだから!

 結んで、ひらひらさせてたら、尻尾みたいでしょ!?」



 ぼそりと呟いたリーベに、シュトルツが食ってかかる。

 その隣で、エーレは踵を返す。



「さっさと帰るぞ」



 その時、彼は何かをシュトルツに投げた。

 それと手に取ったシュトルツは、目をパチクリさせて、前を行くエーレの背を見る。



「え、なになに。これくれるためだったの?」


「首輪の代わりだ」



 シュトルツの手の中のものを、リーベは覗き込んだ。


 そこには、細く滑らかな黒い革紐があった。


 隣でシュトルツはご機嫌に髪を結びなおして、エーレに駆けていく。

 その二人の背を見て、リーベは僅かに目を細めた。




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成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
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