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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

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やっと見つけた

レギオンでレギオンマスター、バルトと対面後。身を隠すために知人を訪ねるといったエーレ。

呪いの森と呼ばれる、ノロアスの森は向かう途中、ルシウスは加護枷の発動時期を知る。結局エーレの背負う代償は分からずじまいだった

 




 遠くに森の輪郭が見え始めたのが、3日後だった。



 僕の苛立ちは相変わらず続いていて、またうまく眠れなくなっていた。

 昨日は街道沿いにあった村の――屋根の下で眠ったにも関わらずだ。


 ここから森に着くまで、泊まれる場所はないらしい。

 夜も昼もずっと頭がぼんやりしていて、白昼夢の中にいるような感覚だった。


 霊奏や魔法の練習も少しはしたいと思っていたのに、集中できないし、気力も沸いてこない。

 3人が途切れ途切れ会話しているけれど、その内容は頭に入ってこない。

 知らない人の名前が出てきてるけど、耳に入っても頭がそれを取り入れる前に溶けて消えてしまう。


 ガタゴトと揺れる荷馬車の一定した振動が、心地よくなってきて、頭を支えきれずに、こくりこくりと揺れた。


 中途半端な時間だけど、気持ちよく寝れそうかも……


 そんな予感を抱いて、眠気に誘われるまま目を閉じた。








 途切れ途切れの意識の中で。僕は、‘’僕‘’を上から見ていた。

 まるで幽体離脱したみたいに、丁度、天幕スレスレのところくらいから。



「エーレ! 本当に大丈夫なんですよね?」



 青の頭がぐいっと幌の中心に寄せられた。‘’僕‘’が前にいるエーレに詰め寄っている。



「お前は姑か。何度聞けば、気がすむんだよ」



 エーレが眉を寄せながらも、困ったような声色で返していた。



「本当の本当のほんとーにですか!」



 腰ごと浮かせて更にぐいっと近寄った‘’僕‘’にエーレが身を引いて、縁に背中を押し付ける。

 そこに、


「はいはーい。そこまでそこまで。これ以上エーレさんに近寄るのは、禁止でーす」


 エーレの隣にいたシュトルツの長い腕が、二人の間に伸ばされた。


「ああ、取り乱しました。すみません」


 意外にもあっさり後ろに引き下がった‘’僕‘’は、それでもエーレをじっと見つめている。

 するとエーレが、前に伸ばされた腕を手で押しのけながら首を振った。



「心配してくれるのは有難いが、まだ大丈夫だ。

 何度も言うが、俺のことより自分のことを大切にしとけ」



 説得するような、宥めるような――僕が聞いたことのない、優しさを含んだ声色。



「僕は、自分のために言ってるんですよ。エーレが僕のこと忘れちゃったら、悲しいじゃないですか」



 子供が駄々を捏ねてすねるような、口調の‘’僕‘’

 そこにいるのは‘’僕‘’のはずなのに、全く別人のようだった。



「お前、俺がボケるみたいな言い方すんな、殺すぞ」


「ちょっとちょっと、エーレさんの1番は俺なんだからね?」



 呆れたようなエーレに、シュトルツがさっとアピールするように身を乗り出した。



「いや、1番とか2番とかの話をしてるんじゃ――」


「それでも1番は俺だから! 2番は譲ってあげるけど」



 どんどん身を乗り出しながら、‘’僕‘’を牽制しようとするシュトルツ。



「だから、そういう話じゃ――はぁ、もうそれでいいですよ」



 一度はシュトルツを睨んだが、うんざりしたように嘆息をこぼした‘’僕‘’に、リーベの小さな笑い声が1度滑り込む。

 3人の視線が一気にリーベに集まった。



「まるで意中の人を取り合ってるみたいだ。こういうものは、見ている分には楽しいものなんだな」



 彼の意外な言葉に、‘’僕‘’は咄嗟に顔を引きつらせて押し黙り、エーレも同じように心底嫌そうに顔を顰めた。



「リーベ。お前、この馬鹿が移ったんじゃないだろうな?」


 けれど、シュトルツだけは面々を見渡して


「え? 何々? 恋愛どろどろシーンみたいな?

 え? もうちょっと過激なのとかどう?」


 と嬉々とした声をあげる。



「いや、遠慮しときます。そういう意味じゃ、全くないので……」



 完全に引いた声を出した‘’僕‘’は、何を思ったのか――ふと抑えきれない感情を溢れさせるように破顔した。そしてシュトルツと同じように、3人を順に見渡す。



「僕、絶対に貴方たちを未来に連れて行きたいです。僕自身のために。

 だから、鬱陶しいくらい心配しても許してください」



 風が大きく幌の中に吹き込んできて、天幕を揺らした。



 今まで、彼らの音以外は感覚も匂いも感じなかった僕にまで、風が通り抜ける感覚があった。


 その風は幌の中を彷徨うように、ぐるりと回って、跳ねるように幌を何度も揺らす。

 甲高い音が聞こえて、僕はハッと頭に衝撃が走るような感覚があった。



 目の前に何かがくる。いやもう、いる――



 奇妙な違和感が感覚のない体を覆い隠していき、その間に視野がどんどんぼやけていく。

 その中で、形のない何かが口を開いた気がした。




 ――やっと見つけた――






「っ……!」



 自分の息を吸い込む音に、目が覚めた。

 同時に生暖かい空気が肺いっぱいに広がり、草の香りが頭を揺らす。

 暑い。体が熱を帯びていて、特にまた首回りが火照っている。


 もう一度、息を吸い込んで空を見上げると――明るい。空はまだ夕焼けにすらなっていなかった。



 ここは……?

 どうして僕は、こんな場所で寝てるんだろう?



 状況が理解できなくて、辺りを見渡した。

 僕は何故か、後ろの大きな岩に凭れていて、辺りは草原。

 春になって、大きく伸びた草たちが視界を遮っていて、遠くは見えなかった。

 



「え?」



 まさか彼らが、僕を置いていったわけではあるまい。


 そう思って、立ち上がると右手の方に火を囲んでいる3人とレギオンの御者がいた。

 立ち上がった僕へと一番に手を振ったのは、やはりシュトルツだった。

 リーベもちらり、とこちらを見る。しかし、こちらに背を向けていたエーレは振り向きすらしない。



 3人の様子に、先ほどの白昼夢が頭に想起された。


 そういえば……僕はまた変な夢を見ていた。

 夢、だったんだろうか?


 幌の中の4人。僕とは違う‘’僕‘’と楽しそうに話す3人。

 彼らの見たことのないような表情と声色。それを上から見ていた僕。


 夢にしてはあまりにも鮮明で、輪郭のはっきりした夢。

 いつも見る幻覚とは違う――その夢で僕は傍観者だった。



 それに最後のあれは……まさか。



「ルシウス? 平気?」



 気が付くと、シュトルツが目の前まで来ていた。

 びっくりして思わず、高い位置にある彼の顔を見上げる。



「え? はい。いや、なんで僕だけあんなところに放り出されてたんですか?」



 まさか嫌がらせでもあるまい。


「あ~」シュトルツは困ったように頭を掻いて、僕の後方へと視線を投げた。

 それを追って、首だけ振り返る。


 離れてみてみると、高く伸びた草たちが、先ほどいた岩の周りだけ切り裂かれたような形跡がある。


 もしかして……

 そう思って、もう一度シュトルツへと視線を戻すと、彼は苦笑した。



「今回は暴走とかじゃないから、安心して」


「また迷惑かけました? すみません」



 前に、後天本質を発現させたとき、荷馬車の一部を破損させたことが頭に過る。

 けれど、その時とは違う。

 生命力はもう安定したし、首都目前の村でのように、風魔法を暴走させたわけでもないらしい。



「でもどうして?」



 小さな困惑を覚えて、自然と訴えるようにシュトルツを強く見た。

 眠っているときに、風魔法を無意識で使ったということなのかもしれない。


 すると彼はまた「ん~」と渋って、半身を逸らした。

 そこには明るい中で、揺らめく小さな火と3人の姿。


 このシュトルツの行動。僕はもう、その意味を知っていた。



「エーレに口止めされてるんですか?」



 彼の目へと視線を戻すと、彼はそのままエーレなのだろう――そちらに視線を留めていた。



「いやぁ、口止めってほどではないんだけど。

 もう‘’彼女‘’が君を見つけちゃったから、教えておいた方がいいと……俺は思うんだけどねぇ」



 ――やっと見つけた――



 頭の中で先ほどの夢の言葉が思い出されて、小さく息を呑んだ。

 同時に、夢で最後に襲って来た恐怖が湧き出す。


 姿は見えなかったけれど、確実にそこにいて、僕を見ていた。



「夢を見てたんです。ただの夢かもだけど、やっと見つけたって……」



 おもむろにシュトルツがこちらへと視線を落とし、小さく瞑目した後、困ったように息を吐き出して、再びエーレの方を見る。



「君にまで話しかけてきたんなら、もう潮時だね」



 彼はそれだけ言って、踵を返した。






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