表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/233

守られてばかりじゃダメなんだ!ーーレギオンの矜持ーー

 



 小さな違和感。先ほどまでとは、まるで違う険しい表情に、外されたその視線をちらりと覗き見る。



「まぁ、名前が伏せられてるってことはだな。こっちの出方を窺ってやがるんだろうな」



 嘆息と共に、鋭い視線が以外の3人を順に回っていく。


 そして、「だがまぁ」と紡がれた言葉と同時で、あまりに唐突だった。途端、肌を刺すような緊張感が部屋に漂う。

 つま先から頭のてっぺんまで泡立つ感覚が通り抜けて、無意識に体が強張る。

 全身に走った戦慄。上がり切らない視線で、真っ白な髭に乗った口を知らずのうちに見つめていた。



「お前らがそこのお偉いさんを攫って来たってえなら……」



 一変、低く響き渡る声――

 数瞬遅れて理解したその言葉に、ハッとしてどうにか視線を引き上げると、とび色の鈍く光った視線がエーレを射るように捕らえていた。

 あまりの変わりように、息を呑むことも忘れて、開いたままの口を急いで動かした。



「ち、違います! 僕はエーレたちに助けられたし、自分の意思でエーレたちと一緒にいるんです……!」



 必死に動かした口から漏れた声は、小さく震えてしまっていた。


 あらぬ疑いだ。レギオンのマスターまで彼らの敵に回ってしまっては、もうどうしようもない。

 それを証明できるのは、僕しかいない。


 それ以外にも言葉が浮かんだけれど、焦りが更なる焦りを呼んで、頭の中であらゆる単語が飛び交う。

 けれどそれは形にならなくて、口を開きかけては閉じて、また開いてを繰り返した。


 結局、咄嗟に言葉にできたのはそれだけだった。否定を伝えるために、子供のように首を強く振ってみせる。

 その間も、殺気の籠った視線がエーレへと注がれ続けている。

 その視線を真っ向から受け止めているエーレは何故か、うんともすんとも言わない。



 それに更に焦った僕は動揺を隠すことも忘れて、バルトとエーレ両者に視線を交互させ、


「違うんです!」気づけば大きな声をあげていた。


 バルトの殺気はエーレに注がれているはずなのに、緊張と焦りで頬に一筋の汗が流れていく。

 先ほどの、柔和なそれとはまったく色を変えた真剣な表情で、とび色の瞳がこちらへと向けられた。

 僕は思わず息を呑む。

 その強い視線を受けて、咄嗟に目を逸らしそうになるのを耐えた。



 ――僕に出来ることはなんだ?

 守られてばかりじゃダメなんだ!



 ほんの数秒交わされた視線。息をすることも忘れて、ぐっと目に力をいれてそれを受けた。

 すると――ニカリと白い歯を見せて、バルトが大きく微笑んだ。



「及第点ってところだなぁ」そう言って大きな笑い声をあげ始める。


「え?」その言葉も笑いも、理解できなかった。


「大将、貴方のその癖は本当に直らないな。私たちならまだしも、ルシウスにそれをするのはやめてやってほしい」


「え?」



 後ろから落ちてきたリーベの心底呆れた声に、頭が真っ白になった。僕は詰まった呼吸を思い出して、首をくるくる回す羽目になった。



「なーに言ってんだ。レギオンに入ったならみんな平等だ! これでルシウスも俺の息子だな!」



 嬉しそうに笑うバルドを見て、僕はやっと今の状況を理解した。


 及第点――試されていたのだ。

 もし僕が、うまく言葉にできなくて、あの視線からも逃げていたら……


 そう思うと、また汗が頬を伝った。



「ルシウス」バルトの柔らかな声が僕を呼ぶ。


「お前さんがどこの誰であれ、カロンの一員になるなら、仲間を守らにゃならん場面も出てくる。その覚悟を試させてもらった。これくらいの殺気にビビってるようじゃあ、なぁ?」



 柔らかく微笑まれた口元とは反して、瞳は笑っていない。



「僕は……合格でいいんでしょうか?」



 底の見えない鈍く光る瞳に、小さな怖気を覚えた。



「ま、こいつらが連れてきたんだ。本当は俺の言えることなんてねぇんだが」



 けれど、バルトの声色は呆気からんとした風で、瞳の光はすぐに閉じられ、その大きな肩を少しだけ竦めさせる。

 それを見て、僕はふっと肩の力が抜けた。



「でも、この状況も僕が原因みたいなものです」


「それとこれとは別だ。それにお前が原因なわけじゃない」



 続けた僕の言葉を遮るように、隣のエーレのぶっきら棒な声がした。



「あ〜」バルトが大きな体を揺らして、ソファーに座り直す。


「そこを俺にわかるように、最初から説明してくれや。こっちもそれがわからんと出方に困るからなぁ」



 バルトのその言葉を聞いて、エーレが事の流れを説明し始めた。


 支配魔法から一時的に抜け出した皇太子を、‘’偶然‘’助け出し、逃げる手助けをしたのが始まり、というシナリオだった。

 そして僕と彼らの利害が一致したから、共に行動している。

 決して、拉致したわけでもなければ、帝国への反乱行為もその扇動もしていない――と。



 そう、今の時点ではまだ何もしていない。嘘は言っていなかった。

 説明の途中、要塞都市(ガルダイン)であったことも説明していた。



 全てを聞き終わったバルトは一度瞑目して、静かに、それでいて長い息を吐きだした。

 その瞼がピクピクと痙攣しているのが見て取れた。そして。



「あんの、クソガキ……こっちが大人しくしてりゃあ調子乗りやがって……

 拉致容疑だぁ? 王国軍と帝国の隠密部隊に囲まれただぁ? 暗殺ギルドだぁ?

 あのガキ、しばきたおさねぇと気が済まん!」



 言い終える前に勢いよく立ち上がったバルトは、怒り心頭の様子だった。

 大きな体が、見上げると更に大きくて、その姿に圧倒された。

 背中がソファーの背もたれに当たる。知らないうちに身を引いてしまっていた。



「ちょっと大将。あんたが冷静じゃなかったら、俺らが困るって」



 宥めるシュトルツの声に、バルトはハッと我に返ったのか、勢いよくソファーへと座りなおす。

 その姿になぜかホッと胸を撫でおろした。



「悪い悪い。というかお前ら。どうして要塞都市の段階で俺に言わなかった!

 レギオン(こっち)を無視しての拘束なんざ、ルール違反だってわかってただろーが!」


「あれは俺たちで切り抜ける自信があったんだよ。わざわざあんたに動いてもらうまでもない」



 バルトの強い声にすぐさま、エーレが落ち着いた声で返す。しかし。



「なんのために俺がいると思ってんだよ!

 お前のそういうところは、前からちーっとも変わっちゃいねぇな!」



 短いやりとりの最後はエーレが押し黙って途切れた。あのエーレがバルトに押されている。

 僕は会話の内容も忘れて、珍しいものでも見た気分になっていた。その時。



「お前の親父は変わっちまったけどな」



 何かを思い出したよに、ぽつりと呟かれるように言われた言葉。

 ハッと顔を上げるとバルトは深い溜息をついて首を振ると、僕をちらりと見た。



「昔の父上をご存じなんですか?」



 クソガキ。やはり、皇帝のことだったらしい。

 彼は思い出すように、天井に一度視線を投げると、すぐに目を伏せた。



「まぁ、それなりに仲良くしてたんだがな。どれくらい前だったか、人が変わったみたいになっちまった。今じゃ、俺の言葉に耳を貸すこともねぇしな」


「そうだったんですか……」



 父上がレギオンマスターの話を出したことは、一度もない。

 政治に関わらせてもらえなかったから、当然といえば当然であったけれど。


 記憶の中の父上と目の前にいるマスター。

 2人が同時にそこにいることを一瞬想像した。けれど、うまく思い浮かべることは出来なかった。


 父の知り合いを目の前にして、聞きたいことが沢山湧いて出てきた。

 僕の知らない父上を知る機会だと思った。



「あのよかったら」その声と同時にバルトの後方――正面の扉からノックが転がり込んできた。


「もうちょい待ってくれー」すぐにバルトが首だけ振り向き、扉に向けて声をあげる。


「お前ら、俺が話をつけてくる間、ここに籠っとけ」



 その声と同時にエーレが素早く立ち上がる。彼のコートの裾が僕の膝を撫でていった。



「いや、俺たちがここにいたら迷惑がかかるだろ。他のクランのやつらも騒ぐ。

 遠くないところに、信用できる知り合いがいる」



 上から落ちてきたエーレの言葉を辿って、視線を上げるとすでにソファーの前から移動ようとしている彼の姿。


 信用できる知り合い?

 僕は首を傾げたくなる気持ちを押さえて、立ち上がる――同時にバルトがちらりとこちらへ視線を投げて、それに続いた。



「そうか。ならいいが」



 バルトはそう言いながら、大きな体を揺らして勢いよく進み出てきた。

 ソファーの外側まで出ていたエーレが咄嗟に1歩引いて、バルトを見上げる。



「今度もしなんかあったら、絶対に、ぜーったいに俺にいうんだぞ? わかったな?」



 言葉を重ねるごとにエーレに顔を近づけるバルト。

 エーレはその勢いに押されるように、数歩引いて、さっと顔を背けた。



「有難い申し出だし、今回のことは甘える結果になるが、これ以上のことは俺たち自身で片付ける。

 あんたに無駄な迷惑をかけるつもりはない」



 素っ気ない返答に、「くぅ~」とも「はぁ~」ともつかぬ、妙な声を上げたバルトが勢いよく僕を見た、



「お前さん、この石頭どうにかしてやってくれよ。いつもこうだ。こいつは人に甘えるってことを知らねぇ。

 俺が何のために、レギオンを立ち上げたと思ってんだ。

 お前らみたいな、はぐれ者を守るためだろうが!」



 広い部屋にバルトの声が響く。その余韻の中で気づけば、言葉を拾って繰り返していた。



「守るため」


 レギオンの成り立ちにそんな理由があったなんて……


「そうだ」バルトは胸を張って、僕たちをぐるりと見渡した。


「お前らが何を抱えてようと何をしようとしていても、そこにお前らなりの正義があるなら、俺は耳を貸すし、力にだってなる。守ってやる。

 だから、どうしても駄目なときは頼ってこい。わかったな?」



 後ろで嬉しそうなシュトルツの小さな笑いが聞こえてきた。隣からリーベが小さく動く気配も。


「覚えておくだけは、覚えておく」


 半歩後ろのエーレが踵を返したが見えて、続いて後ろの二人がそれに倣ったような足音。



 僕もそれに続こうと半身を逸らした時――「ルシウス」とバルトの優しい声がした。


「色々と大変だったみたいだな。でも、こうやって大きくなったお前を見れて安心だ。

 あいつらのこと頼んだぞ」



 同時に頭に大きい温もりがそっと落ちてきた。



「え」


 どこかで……

 僕はその手の感覚を知っているような気がした。



「ほら、行ってこい。達者でな」



 その手が背中を押して、僕は扉の方へと押し出される。



「ちょ、まって」



 すぐに振り向くと、もう逆側の扉のドアノブに手をかけているバルト。彼は左手を一度あげただけで、振り返ることはなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ