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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

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132/233

レギオンを束ねし群主

 



 レギオン本部は聖国と王国、帝国――3か国の国境が交わる位置に存在していた。



 数日の荷馬車の旅で、フィアとは少し会話を出来るようにはなっていた。

 レオンは相変わらず、突っかかってきたものの、その度にガランからの叱咤が飛んできて、レギオン本部に着く頃には、少しだけ打ち解けることが出来た。


 レギオン本部に続くまでしっかり街道が設置されていた。西に進んだときからずっと右手にあった森がようやく途切れたあと、小さな丘陵を抜けた先――それは平地が広がるところに見えてきた。


 要塞都市。そう言っても過言ではない。

 レギオン本部は、立派な一つの街の中にあったのだ。



 シュトルツから話には聞いていた。

 レギオンはどの国にも従属しない。準自治権を持つ特例組織である、と。

 その言葉の意味は知っていても、こうして実際目の当たりにすると、僕は唖然としてしまった。


 一つの国のようだ。

 頑丈で高い城壁にぐるりと囲まれていた。首が痛くなるくらいまで、見上げないといけない大きな門を通った。

 街は首都にも負けないくらいに綺麗に整備されていて、あらゆる店や、そこに住まう人たちがいた。

 要塞都市ガルダインに似たような雰囲気でもあったが、ガルダインよりは街の中に自然が多く、無邪気に走り回る子供たちの姿も幌の中から見て取れた。



 荷馬車は街の大通りを突っ切り、内へ内へと入っていき、内門をくぐった。

 その先に、レギオン本部はあった。


 幌から出た僕は、呆気に取られてしまった。

 石壁に囲まれ、正面にある大きな鉄柵の門扉。警備する数人の門番。

 中に見えるのは、大きな庭と噴水。そして――


 立ち尽くしている僕の肩に軽い衝撃が走った。



「びっくりしすぎでしょ。ルシウスはこういうの慣れてるんじゃないの?」



 シュトルツが笑いながら、隣に進み出てくる。



「いや、これ。もう貴族の屋敷じゃないですか」


「本部は特に設備も施設も充実しているからな」



 逆隣を、リーベの無感動な声が通り過ぎていく。



「はー、だっせぇ。こんなのにびびってやかんのかよ~」



 数歩先を行っていたレオンは、振り向いて、挑発的な笑みを浮かべた。



「まぁ、体裁ってのがあるからな。さっさと行くぞ」



 珍しく最後尾にいたエーレが、苦笑と共にそう言って、僕の背中を押す。


 レギオンマスターって、一体……


 あらゆるクランの人たちの反応を思い出して、僕はどこかの王様に謁見するような緊張感が湧き上がってきた。









 ――マスターに会ったら、隠蔽を解け――



 親しみやすそうな顔つきの上に、僕たちを迎えた時のどこか幼くすら映る笑い方。

 体格はガランと並ぶくらいにすごかったけれど、あまりにも柔和な雰囲気に、近寄りがたさは一切なかった。

 レギオンのマスターというから、どんな恐ろしい人が出てくるんだろうと思って、身構えていたのに、肩透かしを食らった気分だった。



 その上、戦闘職をまとめる人とは思えない――きっちりとした正装をしている。

 歳は随分といっているようにも見えたし、トラヴィスと変わらないようにも見えた。

 けれど、髪と顎から伸びた髭は真っ白で、年齢を推測するのは難しかった。


 僕とエーレだけが、マスターに向かい合って座っていて。シュトルツとリーベは僕たちの後ろに立っている。

 トラヴィスの時もそうだったが、何故かこの指定位置になっているらしい。



「いやぁ、デカくなったな。お前ら」



 レギオンマスターが3人を順に見渡して、嬉しそうな笑みを浮かべる。



「デカくも何も、4年も経ってないだろう」


「何言ってんだ。お前らが本部(ここ)に突然やってきた時のことはよーく覚えてんだぜ」


「まぁ、その節は世話になった」



 僕の前でエーレとマスター短いやりとりを、目だけでそれぞれを追いながら聞いていた。

 少ししゃがれた声、その口調も、本当にそこらへんにいるような、気さくなおじさん、と言った雰囲気だ。

 マスターは満足げに微笑むと、僕を真っすぐ見てきた。



「その子が新しいメンバーか。悪い悪い。ついつい我が子との再会が嬉しくて、名乗り遅れちまった」


「我が子……?」



 僕はびっくりして、思わずエーレだけではなくて、後ろのシュトルツやリーベにまで首を回してしまう。



「大将、それはやめてくれって、いつもいってるでしょ」



 シュトルツが恥ずかしそうな声で言うが早いかマスターが笑い声をあげる。



「なーに言ってんだ。レギオンのやつらはみーんな俺の子供だ。そこは譲らんぞ」


「あ、そういう……」



 何故かホッと胸を撫でおろす。それにしても豪快な人だ。

 部屋に入ってからずっと嬉しそうな表情をしていて、こちらまで安心してくる。



「で、俺はバルト。よろしくな」



 レギオンマスター、改めバルトが大きな手を差し出してきた。

 僕はその手に応えて、右手を出して「ルシウスです。よろしくお願いします」と会釈をした。

 握られた手は暖かくて、ごつごつと硬いものだった。僕にはそれがすごく頼りがいのあるように感じた。



「にしても、お前らが新しいメンバーを入れたと聞いた時は、びっくりしたもんだ」


「マスター。あんたの話は長いんだ」



 隣のエーレが呆れたような声を出す。けれど、そこにいつもの刺すような雰囲気はなかった。

 ああ、この人を信頼しているんだな。

 直感的にそう思った。



「諦めろ諦めろ、これは昔からだ。それにお前らがなかなか顔を出さないのが悪いんだぜ。なぁ?」



 それこそ子供に呆れられた親のように、嬉しそうに笑い、何故か僕に賛同を求めてきたバルトに「は、はあ」とぎこちなく返すしかなかった。



「マスター」



 エーレの強く宥めるような声が広い部屋に響いた。

 それもそれで、子供が手の付けられない親を宥めるような声色のように聞こえて、僕はなんだか不思議な気分になった。


 するとバルトは、これ見よがしに大きくため息をつきながら、首を振って肩を落とす。

 そのままテーブルの下から紙を取り出した。手配書だった。

 彼は重ねた用紙を順に捲っていきながら、僕以外のそれぞれとその紙を見比べると、困ったように首を振って、手配書をテーブルの上に置いた。



「カロンが指名手配されてるって聞いた時は、度肝が抜かされたぜ。

 で、実際手配書を見てみたら、似ても似つかねぇ似顔絵の上に、どーもおかしい。

 罪状も漠然としすぎてる。最近入ったからってルシウスが手配書漏れしてるのも否めねぇ。

 帝国がそんなチョンボするはずがねぇ。これは意図的だ。

 俺はそう思ったな。で? 真相は?」



 口調は変わらず、気さくなままだった。けれど、とび色の瞳は僅かにだけ細められていて、どんな嘘も見抜くような鋭さが宿っていた。



 エーレが、僕をちらりと見た。

 そのまま彼は自身の左手首につけてあった、隠蔽の魔鉱石のブレスレットをスッと外す。

 後ろの二人が僅かに動いた気配があり、部屋に入る前のエーレの言葉を思い出して慌てて、手首のブレスレットを外した。



「はーん、こりゃあ……」



 僕たちの姿はきっと、元来のままに曝け出されただろう。

 しかしバルドの反応は、呆気に取られるわけでもなく、驚くというよりかは感嘆のそれに近かった。

 そして、笑いを一度飲み込むように漏らした。しかし抑えきれないと言う風に、突然大きな声で笑いを響かせ始める。



「こりゃ、傑作だ。よくまぁ、あの帝国を出し抜いたもんだな。さすが俺の息子たちだ!」



 偽っていたことを責めるでもない、問いただすでもない。まさかの賞賛に呆気に取られたのは僕の方だった。



「大将ならまぁ、そういうよねぇ」シュトルツの嬉しそうな声。


「ある程度、予想はしていた」僅かに呆れの滲んだリーベの声。



 ひとしきり笑ったバルトは、ソファーに座りなおし、ほんの少し前屈みになると「そういうことか」と僕とジッと見つめてきた。

 確実に正体がバレている。考えなくてもわかった。



「えらく面白いことをしようとしてるみたいだな」



 その口から出た言葉は、また予想外のものだった。



「トラヴィスは、えらく面倒なことだと言ってたけどな」


「あーいつは保守的なやつだから、俺とはちげぇんだよ。俺は常に改革を求めてるんだぜ」



 再び交わされ始めた会話に自然と目が瞬いた。


「え、トラヴィスさんとお知り合いなんですか?」と、言葉が口をついて出てしまった。


「知り合いも何も、あのオネエ野郎をこいつらに紹介したのは俺だからなぁ」



 バルトの言いぐさに、後ろでシュトルツが噴き出す声がした。

 いや、僕も思っていたけれど、口にしなかったのに。



「あれが確か2年と少し前だったか? それっきりこいつら顔を見せにこねぇ。紹介するんじゃなかったぜ。トラヴィス越しにちっとは近況は聞いてたが」


「トラヴィスの話はいいんだよ」



 まだ話が逸れかけたバルトに、エーレの苛立ちの声が重なる。



「ああ、で。こんないきなり指名手配ってのは、どうもおかしいと思ってな。

 こりゃあ、マスターとして事情聴取をせねばならん!と思ったんだが。

 そもそもレギオン所属クランへの裁定権はこっちにある。

 俺を介さずに勝手に指名手配なんてされちゃあ、溜まったもんじゃねぇ。ルール違反だ」



 そういえばシュトルツは、レギオンの説明の時にこうも言っていた。


 レギオンの保護下にある人達の裁定権は、まず第一に、レギオンのマスターにあるということ。

 もしレギオン所属のクランが何か問題を起こしても、他国はその裁定に関して、レギオンマスターの意見を仰がないといけない。


 その上で、どちらがその人を裁くか、罪状はどうするかなどを決める。

 3国に対等に渡り合えるほど、レギオンマスターはやり手である、と。



 このどこにでもいそうなおじさんが、レギオンのマスターなんだなと改めて見ていた時、バルトがこちらを見て、眉を潜めた。





※補足として。

「チョンボ」ですが、麻雀用語です。

麻雀ではルール違反という意味で使われますが、日常会話で使う場合、「ミス、ヘマ、しくじる」のような意味でよく使われます。

この話では「ヘマ」という意味で使用しております。

言葉の重みのニュアンスとキャラの性格で、チョンボを採用させていただきました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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