指名手配ーー見えざる罪状
「おっさん!あっちいけよ!」
「だーれがおっさんだ、このガキ」
「どこからどう見てもおっさんだろ!俺に勝ったからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「勝つも何も勝負にすらなってなかったでしょ」
「はぁ?」
シュトルツが二人いるのかと思うくらい、幌の中はうるさかった。
いや、一人はシュトルツなんだけど。
僕たちカロンは今、荷馬車を乗り換えて、本来予定とは全く別の方向へ向かっていた。
元々このまま北上していくはずであった境界都市ではなく、一旦街道沿いに来た道を戻ったところにある分岐点を西へと進んでいる。北の遠目にある大きな森を迂回する街道だった。
昨日の夜のうちに、僕たちはゼレンやミレイユと別れて、レギオン本部に向かうことになったのだった。
それは……
ほんの少し首を回すだけで、視界に入ってくる大きな体躯――幌の外側の縁を、陣取っている獣人。
レギオンランク第3位、ブラッドバウンズのマスター。ガラン。
その体格はトラヴィスと並ぶかそれ以上。硬質な筋肉の鎧を纏っていて、それは茶黄色の体毛でところどころ覆われていた。
顔も体つきも人間そのものだが、耳が丸くて黄色い。トラの獣人だろうか?
ガランが僕の視線を感じたのか、目があって咄嗟に背けてしまう。
「リクサって、どうして肝心なこと言わないんですかね……」
入り口をガランが陣取っているから、僕たちは幌の中心より奥にいた。
場所はやっぱりいつもの並びではあったけれど。
隣のリーベが息を吐きだしたのが聞こえてきた。
「あの人が肝心なことを言わないのは、いつものことだ」
「だからって、カロンが指名手配されるってことを知ってるなら、言ってくれたらいいのに」
昨日の夜、ガランが告げた通り、僕たちカロンは指名手配されていた。
手の中に持つ用紙に、目を落とす。
枚数は3枚。何故か僕の手配書はない。
それぞれの似顔絵と、おおよその年齢、所属はレギオンであり、クラン名がカロンであること。
手配書は3人しか載っていないが、カロンはもう一人いる、とだけ記されてある。
けれど、不思議と3人の名前はなく、似顔絵と特徴だけだった。
罪状は、帝国への反乱行為、その扇動。
その他も色々書き連ねてあったが、全てがでたらめだった。
多額の報奨金がかけられてあって、発行元は勿論帝国。その法務部。
唯一の救いは隠蔽のお陰か、似顔絵が全く似ていなかったということだ。
深い溜息が漏れ出す。
リクサはこのことを予見していて、首都を離れた方がいいと言っていたのだろう。
すでに、大陸全土にこの手配書は回っているらしい。
レギオンマスターが事態をすぐに把握し、首都エルディナで受注したカロンの依頼内容を把握。
ガランはレギオンマスターからの要請を受けてカロンの同行を求めるために、境界都市に通じる街道で待っていたらしい。
聖国への国境付近に位置する境界都市は規模が大きく、昔は要塞都市としても使われていた。
勿論、警備を厳重で、そこに僕たちが足を踏み入れる前に確保しておきたかったそうだ。
皇帝は本気で、僕たちを追い詰めにかかってきたのだろう。
3人は、これからどうするつもりなのだろうか?
「なーに、落ち込んでんの? おこちゃま」
幌の奥で少年と言い合いをしていたシュトルツが顔を後ろに大きく倒して聞いてきた。
「いや、逆にどうしてそんな悠長に構えてるんですか」
こんな一大事なのに、幌の中では僕以外の全員が、何事もなかったような雰囲気で過ごしていた。
するとシュトルツがそろりと近寄ってきて、小さな声で言う。
「前回もあったんだよね」
「え?」
「まぁ、今回は思った以上にというか、かなり早い段階で、俺たちもびっくりはしてる」
「おそらく、ミゲルが手を回したんだろうな」
シュトルツの言葉を継ぐように、前からエーレの声がした。
相変わらずエーレは、耳がいい。
「前回はどうしたんですか?」
いくら隠蔽がかかってるとはいえ、彼らの顔を知っている人もいるはずだ。
顔を知らなくても隠蔽が効かない例外もいる。
「どうもなにも、その前に色々あったから?」
シュトルツは言葉を濁すと、幌の端側――ガランの方へ向かっていった。
あ、そうか。前回はきっと、指名手配をどうにかする前に3度目のルシウスが……
そんな思考も、赤く揺れるローポニーテールを追っているうちに、何故かミレイユが頭に過った。
「ミレイユさんをゼレンさんに預けてきてよかったんですか?」
ミレイユの護衛はカロンの任務だったはず。
状況が状況で仕方ないとはいえ、ミレイユもエーレたちもあっさりと護衛を中断していた。
「知るか。リクサが何も言わないのか悪い。
とりあえず本部につくまでジッとしてろ。この件に関しては、マスターが動いてくれるはずだ」
エーレが静かに言うと、ちらりと幌の奥を見た。
僕もその視線を自然と追うと、そこには……
そうだ、彼らがいたんだった。
こちらを睨みつけている少年と、怯えたように少年の側にいる獣人の少女。
昨日は荷馬車の幌の中に乗り込んで、彼らがすぐに眠ってしまったから、一言もしゃべっていない。
ブラッドバウンズのメンバーらしいが、僕と変わらない年齢の子供だった。
少女は僕より年下に見えるし、何故か終始怯えていた。
「なんだよ!」
目が合うと少年が少女を守るように、さっと身を乗り出して、威嚇するようにさらに強く睨みつけてくる。
「あ、いや……」
その勢いに僕はたじろいで、視線を外した。そこに――
「おぅら、レオン~、お前は鼻っから喧嘩腰になる癖、やめろって父ちゃんいっただろぉ?」
右側から低すぎない厚みのある声が即座に挟まる。ガランだった。
「だってよー、親父! こいつがフィーのこと見てたから!」
「え、いや。見てないです」
フィー。少女のことなんだろう。たしかにちらりとは見たけど。
「悪いなぁ、坊主。うちのガキどもは同年代の友達がいたことがなくてな!
よかったら仲良くしてやってくれやぁ」
いつの間にか隣にきていたガランが、僕の肩を何度も叩いた。
大きな手が下ろされるたび、お尻まで振動が伝わってきて、その痛さに顔を顰めながらも「はい、こちらこそ」と愛想笑いを浮かべるしかなかった。
ジュティケイターとブラッドバウンズ両方レギオンランク2位になってました。申し訳ありません。
ブラッドバウンズが3位です!修正しました!
読んでいただきありがとうございます!




