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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
1章

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13/204

たわわな‥‥‥

 




 テーブルの上の皿は、随分前に空になった。会話もほとんどない。

 なのに、席を立つ気配を見せない彼らは何かを待っているようだった。


 沈黙の間、彼らを眺めていたユリウスの頭に、あらゆる疑問が頭を過っていく。



「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?

 信じる信じないは、置いておくとしても」



 彼らのことについて、そろそろ少しくらい教えてくれてもいいものだ。



「んー、何が知りたいの?」



 いつの間にか、エールをおかわりしたらしいシュトルツが、ジョッキを呷りながら言った。



「三日後に街を出るって、どこに行くんですか?」


「王国に渡るよ」シュトルツが簡潔に答えた。


「なんで王国に?」


「秘密」


「僕を連れていく理由は?」


「秘密」


「貴方たちは、何がしたいんですか?」


「秘密」



 ユリウスはジトっと彼を睨んで、口端を引きつらせる。



「……もう少し、真面目に答えてくれませんか?

 これじゃ、ダリアさんが言っていたように拉致と変わりありませんよ」



 思わず、不満が声色に出てしまった。

 沈黙が漂う。



 エーレの長い溜息が、それを破った。こちらへ向けられたその表情は呆れを表していた。

 高圧的にも思えるその態度に、ユリウスは苛立ちを覚えて、再び口を開こうとした――


 その時、後ろから突然、柔らかく弾力のある衝撃が襲って来た。

 予想だにしなかった慣れない感触に、思わず素っ頓狂な声がユリウスの口から漏れ出る。



「かわいい~、ねえねえ坊や。私と遊ばない?」



 女性の声だ。

 エーレが後ろにいる女性を見て、すぐにこちらへと冷ややかな視線を向ける。



「こんなところで話せると思うか? 少しは考えろ」



 彼の言葉に対して、すぐに反論は思い浮かばなかった。

 確かにユリウスの素性を知っている彼らと、誰が聞いているかもわからないここでは話せることは少ない。



 彼の一言で、言いくるめられそうになっていた自分を叱咤した。

 しかしそれでも、話せることもあるはずだ。



「鴉ちゃん、相変わらずこわーい」



 後ろの女性が、エーレの言葉を非難するように騒く。


 女性が動いたことで頭に押し当てられた何かが、柔らかく揺れた。

 知らない感触――だけど、容易に想像できてしまったその正体に、頭が真っ白になる。



 その感触の正体が頭に浮かび、体の芯から体温が上がっていくような感覚を覚えて、慌てて彼女の腕から抜け出した。



「話の最中だ、邪魔すんな」エーレが一蹴した。


「そんな釣れないこと言わないの~。お姉さん悲しくなっちゃう」



 思考や理性とは関係なく、振り返りそうになる体をぐっと抑えた。


 振り返っちゃダメだ。絶対にダメだ――

 そうわかっているのに、どうにも体が言うことを聞かない。


 そこに確実にあるだろう――感触の正体を見たいという欲望が理性を圧倒し、体は意思に反して、気が付けば振り返っていた。



 たわわな果実のような丸みが二る。すぐ視界を埋めた。



 目が離せない。けれど、どうにか残ったなけなしの理性で、目を強く閉じて耐えた。


 数秒後、目を開けたときにはレギオンに似つかわしくない露出度の高い服を着た女性が、こちらへと妖艶に微笑んでいた。



「あら、やっぱり可愛い顔してる」



 まるでユリウスの心情を察して、からかうように微笑んでくる。


 どうしても彼女の胸に視線が言ってしまう自分の行動に羞恥と嫌悪を感じて、彼女自体を視界から追いやるべく、顔を背けようとしたが――

 彼女はすかさず、ユリウスの両頬を手で挟んでそれを許さなかった。



 よくよく見ると、綺麗で張りのある肌が、明るい室内で晒されている。

 華奢に見えるが、程よく引き締まっていて、透明感のある薄茶色の髪が、その肌の上で綺麗に揺れている。



 目が離せない。心臓が早鐘を打って、顔が茹でられているのかというほど熱い。

 緊張と羞恥を通り越して、パニックに陥りそうだった。



「お子ちゃまじゃなくて、俺なんてどう? メリア嬢」



 シュトルツが割り込んできて、彼女の肩を抱いた。

 それのおかげで、頬を挟んでいた手が自然と離れて行った。

 ユリウスは深く息を吐きだして、どうにか混乱を収めることに成功する。



 その時だけは、シュトルツが救世主に見えた。

 シュトルツに肩を抱かれた女性――メリアは鬱陶しそうに、その手を払いのけている。


 再び、彼女を凝視してしまいそうな予感を感じたので顔を背けて、テーブルの上のグラスを呷った。

 けれど、中身はほとんど残っていなかった。



「軽い男は趣味じゃないのよ」



 背後でダリアの刺々しい声が聞こえた。



「それは残念」



 答えるシュトルツの声は、どこか楽しそうにも聞こえる。

 少し平常心を取り戻したところに、聞き覚えのある声がした。



「もう、姉さん」



 咄嗟に声の主がわからなかった。

 振り向きたいけど、そこにはメリアがいる。そう思うと振り向けなかった。



「ごめんなさいね。姉さんは人をからかうのが好きだから」



 声が近くなって、料理をテーブルに置かれた。それはダリアだった。


 ――姉さん?


 メリアの服装があまりに過激すぎたのもある。雰囲気も違って見えた。

 しかし横に並ぶ二人は髪の色こそ違ったが、同じ太陽のような金の瞳で、顔の造りも似ていた。



 服装でこんなに違って見えるなんて……



「姉さん。サボってないで、残りも持ってきてください」



 そう言って、ダリアはメリアの背を押した。

 メリアは不服そうにしながらも、仕方なく背を向ける。

 露出の高い後ろ姿が遠くなっていくのを見て、安堵と何故か少しの物足りなさを感じた。


 正面を向いて、ホッと胸を撫でおろすと、目の前には料理が並べられていた。



「食事は終わったはずなんじゃ……」



 誰にで言うでもなく、口からこぼれ落ちた言葉。



「え? あんなので、足りるわけないじゃん」



 隣でシュトルツが、すでに料理に手を伸ばし始めていた。



「あ、そういえば忘れてたけどさ。ダリア嬢。

 俺たちのなんか用があったの?」



 口に運ぶ手を止めることなく、シュトルツが尋ねた。

 彼の行儀の悪さに、ユリウスは開いた口が塞がらなかった。



「大したことじゃないんですけど、近くの村で魔物の姿を見たという報告が上がってきたんです。

 その村に私が出向いて、調査をすることになったんですが。

 調査次第では、掃討作戦に移行する予定でして――」


「参加しない」



 ダリアが言い切る前に、エーレが端的に告げた。



「今、海軍は人事異動や新兵の訓練で、人が足りていない状態なんです。

 レギオンのランカーも首都で活動している人が多くて、掃討となると戦力が少し心許ないのが現状で」


「カロンは規模に関わらず、レギオンのクラン合同作戦には参加しないと言ったはずだ。

 それに3日後には街を出る。その作戦が決行されるまで待てない」



 エーレの断固として譲らない姿勢を見て、ダリアがため息をついた。



「レギオンの参加は任意ですからね、これ以上は言えませんね」


「ごめんねぇ。ちょっと急いでるからさ、俺たち」



 シュトルツが、フォークを振りながら言った。

 本当に行儀が悪い。城でこんなことをしたら、懲罰行きだ。



 そこにメリアが両手に皿を持って、料理を運んできた。

 あっという間に、テーブルが料理で埋め尽くされる。



 さっきまでは食べ足りないと思っていたユリウスだったが、それを見て、胸焼けを感じた。


 当然、フォークを伸ばすことは出来なかった。






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成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
― 新着の感想 ―
どもどもです。俐月さん。 ゆっくりとゆっくりと丁寧に織り込まれて行く物語。 この先も期待しています。
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