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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
1章

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12/204

魔法と本質

ユリウスとエーレたち3人は湾港都市レネウスに到着した。

エーレたちはレギオンに所属しているようだった。

彼らのクランの名前は「カロン」

指定された時間にユリウスは彼らとテーブルを囲むのだった。

 





 四人で食べるのに十分の量であった料理は、あっという間になくなった。

 そのほとんどがシュトルツの胃に収まっていったのだ。


 エールを何杯もおかわりしながら、食べる勢いもすさまじい。

 早く食べないとなくなる――そう言ったエーレの言葉の意味を途中で理解した。



 一方、エーレはとシュトルツが取り分けた料理だけに手をつけて、それ以上は口にすることはなかった。

 そんなに小食で体は持つのか、と心配になるくらいだ。



 リーベはというと、シュトルツに遠慮しながらも、成人男性が普通に食べる量を綺麗な所作で口にしていた。

 まるで、どこかの貴族のようであったが、貴族がレギオンに所属しているはずがない。



 ユリウスはシュトルツの勢いに圧倒されて、なかなかフォークは進まず、物足りなさを感じた時にはもう、テーブルの料理は全て綺麗に食べつくされていた。



「明日以降のことを伝えておく」



 フォークを置いたシュトルツを見て、エーレが唐突に言った。



「念のため、今回は早めに街を出る。

 シュトルツは、三日後に出る船を四人分確保。

 レギオンから手配してもらってくれ。買い出しも任せる」



 シュトルツは「了解」と短く答えた。

 ちらりとエーレがこちらを見た。



「お前、魔法の訓練をするつもりはあるか?」


「え、教えてくれるんですか?」



 思いもよらない質問に、ユリウスは目を見開いた。



「三日間、時間が空く。やる気があるなら、リーベから教えてもらえ」



 エーレの視線を追って、リーベを見た。

 彼は目が合うと、僅かに眉を下げてエーレに視線を送った。



「私が教えるのか?」



 その声色は不服そうだ。

 ユリウスとしても、リーベに教えてもらうのには抵抗があった。



 数日間、行動を共にしてきたが、ほとんど話したことはない。

 だから、彼の人柄は全くと言っていいほど知らない。


 無口で、感情をほとんど表に出さない。

 正直、何を考えているのかわからなかった。


 リーベは、そのままシュトルツに視線を投げた。



「いや、俺はだめだって! エーレさんから頼まれた用事があるし。ね? エーレさん」



 両手を振って、必死に拒否するシュトルツ。



「知らん、どっちでもいい」



 助けを乞うようなシュトルツに、エーレは手を払った。



「嫌なら無理に教えてくれなくても……

 それに僕は先天本質である、調和の力(水の魔法)すら満足に使いこなせませんし。

 今までもいくら教えてもらったり、練習してもうまくならなくて……」





 ユリウスはふと、城にいた頃に皇族専属教師に教えられたことを思い出した。




 魔法の勉強は、歴史や簡単な理論の理解と、属性問わず行える基礎的な訓練が主だった。


 それ以降は、属性によって違ってくるし、魔法の扱い方は精霊への同調率で変わる。

 例えば同じ調和の力でも、どんな風に精霊と同調するかによって、大きく能力の使い方に差が生じる。



 基本的に魔法は、先天的本質と後天的本質という――その人の持つ気質や、それに伴う感情を精霊と同調することが鍵となる。


 精霊と同調して行使する魔法。それはその人の本質、あり方に左右される。



 先天本質は生まれ持ったものであるから、自分では選べない。

 しかし、後天本質はその人の生き方が、表に出るものだ。



 人には必ず、多面性がある――

 それは確固たる自分を作り上げる上で、必要なことだ。

 その中で生まれ持った本質の次に、その人を構成する大きな要素、核となるのが後天本質だった。




 その本質は大きく8種類――精霊の属性の数だけ、あると言われていた。




 ’’炎は情熱、風は移り気、水は調和、土は堅実、氷は冷徹、雷は衝動、光は慈愛、闇は孤独’’




 先天本質と後天本質の組み合わせを聞くと、大体その人の性格がわかるという話もある。



 後天本質が発現する予兆さえないユリウスは、これから生きるために必要な確固たる、自分の形成がまだできていない――


 自我同一性(アイデンティティ)が、不明確なのだ。




 専属教師に習ったことを思い出して、ユリウスは思わずため息をついた。






「俺が話してる最中にため息なんて、いい度胸だな」


「え?」



 どうやらエーレが何か、話しかけていたらしい。



「とりあえずリーベから教えてもらっとけ。一人で出歩かれても困るからな」


「あ、はい」



 話は聞いていなかったが、どうやらリーベが教えてくれることで決定したらしい。



「お前が魔法を扱えない理由はわかってる。

 水との同調率が高すぎるんだ。高ければいいってもんじゃない。

 たしかに高いほど扱える幅は広がるが、制御できなきゃ意味がないし、無理に使うと力が暴走しやすい。

 とりあえずリーベに教えてもらって、親和率をあげてこい」



 エーレが、まくしたてるように言った。



 わかるような、わからないような……


 何はともあれ、リーベからの教授に期待するしかないようだ。



「よろしくお願いします、リーベさん」



 教えてもらうなら、それなりの敬意を払わなければならない。

 そう思って、頭を下げた。



「ああ……」



 リーベはどこか歯切れ悪く答える。


 シュトルツが言うように、彼らを見て信じられるか判断するためには、少し億劫でも関わってみないとわからない。

 そう思うことにして、ユリウスはそれ以上考えないようにした。



 誰が教えてくれても、大して変わらないだろう。

 ――誰が教えてくれても?



「皆さん、本質が調和なんですか?」



 基本的に、本質以外の魔法は使えないはずだ。


 この3人が、僕と同じ調和の本質? 全くそうは見えない。



「好んで使わないだけで、使えないことはない。俺は得意じゃないからな」



 エーレがそう言って、顔を顰めた。



「三人とも、ある程度までは使えるよ。

 勘違いしてるみたいだけど、俺らの調和の力(それ)は本質じゃあないよ」


「本質ではない?」



 シュトルツの説明に気づけば、おうむ返ししていた。



「稀に聞くだろう? 第三、第四と精霊と同調できる人のことを」



 リーベが言葉を繋いだことに驚いて、彼の言葉を飲み込むのに時間がかかった。



 本質ではないけれど、他の魔法を使える人――


 先天的でも後天的でもなく、あらゆる経験を経て、内省を繰り返し、第三、第四と力を発現させる。そんな成熟した者がいるということは知っていた。



 精霊の力を借りるには、あらゆる領域においての、一定以上の感情の同調が条件とされる。


 本質的と言えるほどまでの同調率まであげるということは、それほど成熟しているか――

 もしくは人格を分けた、精神異常者かのどちらかだと言われていた。



「二次性質と呼ばれている。

 お前らが精霊の本質を理解してないだけだ。難しい話じゃない」



 二次性質? 聞いたことがなかった。

 エーレの言う「本質を理解していない」とは、一体どういうことなのか。



「詳しいことは、私が教えよう」



 口を開きかけた時、リーベが言った。


 三日間、時間はある。彼から詳しく教えてもらうのが、一番なのかもしれない。

 ユリウスは浮かんだ質問を一旦、飲み込むことにした。



「ちなみにエーレさんは、この三日間、何か用事でも……?」



 その代わりというように、気になって問いかけてみたものの、彼と目が合うや語尾が自然と萎んだ。



「なんでもいいだろ、野暮用だ」


「ですよね……」



 もうエーレに、無暗に聞くのはやめよう。そう思った。







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成長/革命/復讐/残酷/皇族/王族/主従/加護/権能/回帰/ダーク/異世界ファンタジー
― 新着の感想 ―
先天本質と後天本質…その人の内面的なものが絡んできたり、その人の人生が顕著に現れてくるという、『魔法』という一つの設定にもとことん凝っている感じがして感動した…!
どもどもです。俐月さん。 色んな事を考えながら読み進めていますが、なかなか、その全容を見せてくれないお話ですね。いや、悪い意味ではなく、良い意味で謎多きお話かなと思うわけです。もちろんキャラクターに関…
いや〜、面白いっ! 設定開示の仕方が妙です、グイグイ引き込まれます! 読んでいて頭に染み入るかの様な地の文、これぞまさに重厚ファンタジーっ...!
2025/06/21 15:00 退会済み
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