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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
3章

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聖女、レギオンに殴り込み

 




「あ、エーレくん。久しぶりだね」



 2階に続く階段の方から、そんな声がかかった。

 視線をあげると、そこには透き通るような白水の髪を揺らす、爽やかな男性がこちらに手を振っていた。



「ゼレンさん!」



 先ほどとは一変、明るい声をあげたのはカイ・オルドレンだった。

 彼は姿勢を正して、小さく頭を垂れる。

 それを見るに、あの爽やかな男はジュティケイターよりも上位ランクの人なのだろう。


 そんな男がエーレがと知り合い?

 食器のぶつかる小さな音、そして心底うんざりしたようなため息が、前から聞こえてきた。



「馴れ馴れしく呼ばれる仲になった覚えはない」



 エーレは、そちらを見ることすらせず言った。



「貴様! ゼレンさんになんて物言いを!」



 刺すようなカイ・オルドレンの声に

 貴族社会でもこんなことあった気がするなぁ。


 そんなことを思いながら、諦観を抱き始めていた。



「カイくん。エーレくんは、僕の友人なんだ。

 あまり責めないでやってくれないかな?」


「いいえ、規律は絶対です! 遵守すべきものです!

 例えレギオンランク1位、アヴィリオンのマスターの言葉でも、それだけは譲ることは出来ません!」



 白水の男――ゼレンと呼ばれた彼は、どうやら最上位クランのマスターらしい。

 だめだ、ややこしくなる未来しか見えない。

 もう僕だけ、他の宿に泊まりに行こうかな。



 ゼレンはそのままエーレの隣までやってきた。

 ふと彼の服装が目についた。


 見かけない民族衣装のようなものを身に纏っている。

 コートとは違う――長く引きずる外衣を羽織っている。

 あまり見ない柄だ。



「まぁ、君たちのそういうところ僕は好きだけどね」


「光栄です!」



 ゼレンとカイ・オルドレンの会話を聞きながら、僕はこっそり立ちあがろうとした。



「うるさくて、ゆっくり食事も出来ん」



 同時にエーレも腰を浮かせようした。

 その時だった。




 レギオン支部の一つしかない正面の扉が、激しい音を立てて開かれる。

 その場にいた全員の視線がそちらに集まった。


 そこには――清楚な白いワンピースの裾をたなびかせ、ベージュのワイドブリムハットを被った一人の女性がいた。

 彼女は、大股でどんどんこちらへとやってくる。

 綺麗な金色のストレートの髪が、歩を刻むごとに美しく揺れている。

 

 もしかして、この人は……



「ちょっと! あんた!」



 彼女はエーレのすぐ隣までやってきて、エントランスホールに響き渡るほど、大きな声をあげた。

 腰を浮かせようとしていたエーレは、再び椅子に腰を下ろすと、怪訝そうに彼女を見上げる。



「お前、こんなところまで何しにきた」



 僕はちらり、とその顔を覗き込んでみる。

 やっぱり、ミレイユだ。


 聖女ミレイユ――レヒト教会の象徴の一つである聖女。


 その手首には、彼女がエーレから奪い取った隠蔽の魔鉱石が嵌めこまれたブレスレットがあった。

 おそらくこの場にいる他のクランの人たちで、ミレイユと面識がない人は、彼女が聖女ミレイユだと気付いていないだろう。



「ご令嬢。ここは貴方のようなお方が、足を踏み入れるようなところではありません」



 何故か、近くにいたカイ・オルドレンが狼狽しながら、訴え始める。


 ご令嬢――たしかにパッとみれば、そんな感じにも見える。

 その実、価値観がぶっ壊れた聖女だというのに……



「は? あんた誰よ、ちょっと黙ってなさい!

 エーレ! あんた昨日、私の荷物間違って持って行ったでしょ!?」


「は? んなわけねぇだろ。こんなところまできて、何言うのかと思ったら……」


「昨日、買ったやつよ!? あんたたちが荷物持ってたじゃないの!」


「てめぇが昨日、ちゃんと確認して持ってってったろうが。難癖つけんな」


「いいから部屋案内しなさい! 絶対、紛れ込んでるから!」



 怖い二人の怒鳴り合いにも聞こえるやりとりが、すぐ目の前で繰り広げられて、顔が引きつってしまう。

 ミレイユは勢いのまま、伸ばした手でエーレの腕を掴もうとした。

 瞬間、エーレが咄嗟にその手を払う。


 振り払われた手、ではなくて何故か彼の表情に目がいった。

 何か、小さな違和感を感じた気がした。

 彼から感じたのは、何か小さな狼狽のようなものにも思えた。


 しかしそんな違和感も、その彼から大きく吐き出されたため息に攫われていく。

 エーレはそのまま、面倒くさそうに腰をあげた。

 同じように眉間に皺を寄せた二人は、無言で2階へと向かっていく。




 その間、シュトルツは料理に伸ばす手を止めないままだし、リーベはちらりと一瞥しただけだった。

 ふと視線をリーベの上にあげると――カイ・オルドレンが顔を伏せて、体を震わせていた。



「彼は、女性への接し方がなっていない!

 その上、あんな美しいご令嬢に対して、なんて物言いを……」



 確かにそれは一理あるけれど、どうしてこの人がこんなに怒ってるんだろう。

 そういえば……

 ミレイユの登場で、ふと昨日のことを思い出した。





 リクサがいた修道院の廃墟――エルフの魔法で作られた空間を出た後のこと。

 僕たちは、ミレイユに付き合わされる形で、首都の街に繰り出した。



 聖女の仮面を外した彼女は、傍若無人で天真爛漫。

 僕だけではなく、エーレたちですら手を焼く、じゃじゃ馬だった。

 半日、彼女の買い物に付き合わされて、レギオンの支部に戻ると、随分と遅い時間になっていた。

 すぐに宿を取って部屋に入り、寝ただけだから、このレギオンに意味のわからない独自の規則があることは、まだ気づいていなかった。



 それにしても、昨日は楽しかったなぁ……

 ミレイユのわがままぶりはすごかったけれど、明るくて太陽のように笑っていた。

 それが僕だけではなく、エーレたちの心を溶かしていっているようにも見えた。


 4人揃って、街に繰り出すのも初めてのことだった。

 ミレイユは気になる店を見かけるたびに入って、長時間悩み、結局買わないということを繰り返していたし、それを見て、エーレは隣でずっと文句を言っていた。


 そうして2人は、子供のような喧嘩を始める始末。

 その隣でシュトルツは楽しそうに笑っていたし、リーベも呆れたような表情をしていたが、なんだかんだ楽しそうだった。



 彼らの生き生きとした表情は新鮮だった。

 ずっとミレイユがいてくれたらいいのに……

 そんなことが頭に過りもした。



 けれど、彼女は聖国のレヒト教会の聖女で、聖女の仮面をかぶると、またあの性格を演じるのだろう。

 どうして、使い分けているのか――

 昨日の記憶を反芻しながら、僕はシュトルツとリーベに目を向けてみた。



「もしかしてミレイユ、あれのことなんじゃない?」



 僕の視線を受け取ったシュトルツが、肉を刺したフォークを僕に向けた。

 相変わらず行儀が悪い。

 これで王国の王家の剣――そう呼ばれるグライフェン伯爵家嫡男だった過去があるのだから、信じられない。



「あれって?」



 昨日、悩みながらも、たくさんの買い物をしたミレイユの荷物。

 その全てを把握なんて、出来ていない。



「ああ、あれか」



 隣でリーベが思い出したように、シュトルツを見た。



「だからあれって」


「あれだよ、エーレがミレイユに買ってやったティーカップ」



 フォークに、いくつもの肉を勢いよく刺していくシュトルツの言葉で、僕は思い出した。

 首都にたどり着く前の暗殺ギルドの奇襲で、割れてしまったティーカップ。

 不可抗力とはいえ、割ったのはシュトルツとリーベ。

 だから、その代わりとして、エーレがミレイユに新しいものを買ってあげていたんだった。



「でもあれって、たしか……」








中途半端な気もしますが!すみません!

読んでいただきありがとうございます!

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