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調和の王〜影から継がれたもの〜  作者: 俐月
2章

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白き牢獄と陽だまりの聖女




最新話は、シュトルツ視点→ルシウス視点です。

 


「エーレ、大丈夫?」


「大丈夫に見えるなら、お前の目はやっぱり節穴だ」



 ゼファから報酬を受け取ったエーレは、窓のない無機質な部屋に設けられた、質素なベッドに体を投げ出していた。

 ベッドとキャビネット以外はなにもない、真っ白な部屋。

 シュトルツはベッドサイドに一つだけある椅子を引いて、腰を下ろした。



「どうしてあんなことしたんだ。エーレはあの人苦手でしょ。

 怒るのはわかるけど、あんなことしたら、やられるに決まってる。なのに……」



 エーレは人の事情に、無暗に足を踏み入れない。

 けれど、今回の件は別だ。

 ミレイユを思ってのことも少しはあるかもしれないが、今回のことは彼の問題だった。


 そこにシュトルツとの関係が、少しは関与しているということを、彼はよく知っていた。

 権能を授かった時点で、シュトルツとエーレの主従は解消されている。

 もうシュトルツは、彼の従者でも騎士でもない――対等な仲間だった。

 言葉でそうは言っても、そんな簡単なことでもない。


 ベッドに仰向けになって、腕を額に乗せたエーレ。

 彼は、シュトルツの言葉には答えなかった。

 言われずとも、わかっている。だから答える必要もない。

 シュトルツはそんな心境を察して、ただただすぐ近くのーー彼のもう片方の手へと視線を落とした。



 この部屋にいると、嫌な記憶が蘇る。

 目の前の彼だって、そうであるはずだ。

 遠い昔のことであるはずなのに、いつまで経ってもそれが遠のくことはない。


 シュトルツにはその気持ちが痛いほど、わかっていた。

 すぐにでもこの聖堂を出て行ってしまいたいはずなのに、どうしてこうしているのか。



 エーレーーシオンを暗くて湿気た牢獄から助け出し、彼の目が覚めるまで眠ることも忘れて、寄り添ったこの部屋。

 体中傷だらけで、やせ細った彼の手を握って、ひたすら懺悔を繰り返した日々が頭に過る。


 窓のない真っ白な部屋は、シュトルツ――ヴィンセントが罪を懺悔するには、これ以上ない場所だった。

 全ての終わりと、全ての始まりを告げたのが、この部屋だった。


 エーレの手を見て、記憶に呑まれそうになっていた時、前から舌打ちが聞こえた。



「嫌になる。俺はもうシオンじゃない。なのに、ここに来るたびに、あのころの無力さを思い知らされる」



 忌々しそうに言葉を口にした彼に、やりきれない感情が湧き上がった。


 ――俺にとってはシオンもエーレも大切で、唯一無二に変わりはない。


 そんなこと言葉にしなくても、目の前の彼は知っているだろうし、伝えたところで何かが変わるわけでもない。

 無力感が彼の心に火をつける火種となるなら、シュトルツはただそれを見守るしか出来なかった。


 憎しみの数を数えて、生き延び、再び立ち上がったのがエーレだ。

 それをとやかく言うことは出来ないし、言うつもりもない。



 ただ彼の傍にいる。

 彼の望む道が俺の道であり、全てだった。

 そこに正しさなんて求めていないし、必要もない。

 誰に理解されなくてもかまわない。



 ‘’シュトルツ‘’


 彼にその名を呼ばれるたび、胸に深く刻み込む。

 己の誇りを、貫きとおす。

 それが許された唯一の償いであり、信念で、同時に守り通したい望みだった。



「ほんっと、俺もあの人嫌いだわ」



 思わず、口からこぼれた言葉。

 エルフを従えているからとか、神の化身だからとか、歯が立たないからとかではない。

 エーレの気持ちを理解できる人でもあるはずなのに、毎回こうしてエーレを傷つける。


 けれど、彼はそれすら受け入れて、自分が傷つくことも厭わない。

 全て自分が悪いのだとすら思っていそうで、見ていて嫌になる。

 いくら痛みに鈍感な彼だとしても、シュトルツはそれを許容出来なかった。


 リクサの目的なんて、どうでもいい。

 知っていてもどうにか出来る問題でもないし。彼女が目的を達する頃には、俺たちはもういない。

 利害が一致する――ただそれだけだった。




 目的のために、お互いを利用し合う。

 その残酷さをシュトルツたちに教えたのもまた、リクサだった。



「エーレさん、そろそろ行かない?」



 リクサと同じ場に、ルシウスを置いておきたくない。

 リーベも、嫌気がさしている頃だろう。



「そうだな」



 静かに答えたエーレは、そのまま体を起こして、こちらを一瞥した。

 けれど、その目はすぐに逸らされて、彼は怠そうにベッドから這い出した。

 そのままシュトルツより少し小さな背が、大聖堂に繋がる扉の前で、ふと躊躇うように立ち止まる。



「大丈夫、エーレには俺がいる。もう二度と一人にはしない」



 その背に、嘘偽りのない言葉を向けた。

 少しでも彼の痛みが和らぐように、そんな祈りを込めて。



「そうだな」



 無感動に呟かれた言葉と共に、扉が開かれた。

 その先にリクサはすでにおらず、ルシウスとリーベが一斉にこちらに顔を向けた。










 修道院を出ると、そこにはミレイユがいた。

 フードを外して、陽を受けた金色の髪を輝かせながら、こちらを睨んでいる。

 僕たちを認めると、彼女は羽織っていたローブを剥ぐように勢いよく脱いだ。


 その中はーー春らしい淡いピンクのフレアワンピースだった。

 突然の彼女の行動に呆気にとられた僕をよそに、エーレはまるで何も見ていなかったように、歩を前に進める。



「ちょっと、あんた。馬鹿じゃないの? なんであんな余計なことしたの?」


「え」



 思わず、口からこぼれたが、次が言葉にならない。

 彼女の口から飛び出たのは、まるで別人の口調と声色だった。

 僕の記憶にある彼女は、フードを深く被って、冷静であり厳格で、大人びた雰囲気のまさに聖女。


 しかし目の前には、年相応に飾ることもなく、眉を寄せて、エーレに突っかかっていくミレイユがいた。

 ーー本当に、僕が見てきた聖女ミレイユと同一人物なのだろうか?

 唖然として、立ち止まってしまった僕の肩に、小さな衝撃が落ちてきた。

 すぐにそちらを見ると、シュトルツは失笑していた。



「あー、最初に言っておくべきだったね。ミレイユの素はあれだから」


「あれって……」



 反対の左隣を追い越していったリーベが、肩を竦めたのが見えた。



「ミレイユは非番になると、聖女としての振舞いをやめるからな」


「つまりミレイユさん……猫被ってたってことですか?」


「はぁ? 私が猫なんか被るわけないでしょ?

 聖女と私個人は別ものなのよ。あれは聖女ミレイユ、私は’’ただのミレイユ’’。わかった?

 わかったなら、あんたたちも早くきなさい」



 そんなに大きな声で言ったわけでもないのに、僕の呟きを聞き取ったミレイユが、大きな声で答えてきた。



「お前が非番でも、俺たちには関係ないことだろ。

 連れまわそうとすんな」



 ミレイユの隣にいるエーレが手を払って、嫌そうな声をあげる。



「はー、せっかくこんな美人がお出かけに誘ってるのに、ついてこないなんて、男として終わってるわ」


「お前、鏡見たことあんのか? そもそもお前の隣にいたら目立つだろ」


「そんなの、あんたが持ってる隠蔽の魔鉱石を寄越せば済む話じゃない!

 さっさと寄越しなさい!」



 手を差し出したミレイユにエーレは、目だけで彼女を一瞥して、苦笑を飛ばす。



「俺の名前は‘’あんた‘’じゃない。それに、それは人にものを頼む態度じゃねぇだろ」



 いつしか言っていたミレイユのセリフを、そっくりそのまま返したエーレ。

 僅かに口端を吊り上げ、してやったり、と言わんばかりの態度で。

 そんな彼も、今までとはどこか違って見えるのは気のせいだろうか?


 え? もしかしてこの二人、本当は仲がいいのか?


 少し前で振り返ったシュトルツが楽しそうな表情をして、僕へと手招きした。

 僕はやっと足を動かして、彼らに追い付く。

 同時に、ミレイユのわざとらしい溜息が聞こえてきた。



「私、エーレさんから魔鉱石をもらいたいな? お・ね・が・い?」



 声のトーンを引き上げて、奇妙な演技をして見せたミレイユに、僕は思わず笑ってしまいそうになった。

 隣でシュトルツは笑いをこらえている。

 リーベすら、顔を背けた。


 それを間近で見たエーレは、笑いをこらえるように大きなため息を吐きだして、ポケットから取り出した魔鉱石のブレスレットをミレイユに放り投げる。


 ミレイユはそれを見事キャッチすると、ついでと言わんばかりにエーレに近づき、背伸びをした。

 その顔が彼の頬に近づく前に、エーレは咄嗟に避ける。

 しかし、それが顎に当たって、エーレは顔を顰めた。



「やった! これで街を堂々と出歩ける!

 もうこれは私のものだから、返さないからね!」



 そうして颯爽と歩き出した彼女。

 僕はあまりにも自由なミレイユを見て、空いた口が塞がらなかった。



「ちょ……聖女様がそんなことして……」



 エーレは嫌そうに、彼女の唇が触れたところを拭い、僕へと振り返った。



「聖女? あいつはただのじゃじゃ馬だ。手に負えん」


「聖女が純潔じゃないといけないなんて、馬鹿じゃないの? 時代遅れもいいところよ!

 ほら、あんたたちさっさと行くわよ。買い物に付き合いなさい」



 数メートル前で手を振るミレイユは嬉しそうだ。

 太陽に輝く髪は先ほどよりも数段神々しく見えて、無邪気な彼女の表情を、より引き立てていた。



「ああなったミレイユは、俺たちには止められないから。

 エーレさんも、なんだかんだ付き合ってあげてるし。

 気分転換に街でも回ろう。まぁ、ミレイユの荷物持ちだけどね」



 後ろから、一陣の風が通り抜けていった。

 太陽のように笑う彼女。

 僕はそれを見て、重かった心が一気に洗われるような感覚だった。


 天真爛漫で無邪気な――聖女の仮面を外したミレイユ。

 エーレたちが、なんだかんだ彼女に付き合う気持ちがわかるような気がする。


 もしかしたら、今日はこれから楽しい時間になるかもしれない。

 知らない彼らとミレイユの顔を、また沢山見れるだろう。


 そんな予感を覚えて、僕は歩を速めた。






ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

ここまでで2章は終わりです。

3章からは他のクラン、そのメンバーが登場してきます。

3章から物語が本格的に速い展開で動き出します。

これからも更新頑張っていきますので、よろしくお願いします!

評価、感想、ブクマをお気軽にいただけたら嬉しいです!


あと2章初めから、足りない描写を加筆していってます。

流れ自体は全く変わってませんが、一応報告として。

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