「帰れない場所、帰される心のオルゴール」─【ラジオ大賞企画作品・全キーワード使用】
こちらは『第7回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞(https://www.joqr.co.jp/ag/article/164182/)』企画への参加作品です!
・文字数(空白・改行含まない):1000字 (ちょっきり!)
・全キーワード(年賀状/オルゴール/合い言葉/自転車/雨宿り/ギフト/ホットケーキ/風鈴/サバイバル/木枯らし/舞踏会)使用!
全キーワードを使った第二弾!φ(*´▽`*)楽しいです~♪・・・が、しかし…?
『ひかりをわすれぬように…』
魔王城の最奥で、魔法のオルゴールが風鈴のように震えながら、細い旋律を奏でていた。
その音が終われば、勇者は元の世界へ戻る――それが正しい結末。
私は王国の女王。
彼は異世界から来た青年。
出会いは最悪だった。
自室で楽しみにしていたホットケーキの皿に、自転車ごと転移してきた彼を見た時、私は本気で彼を敵だと思った。
それでも、魔王討伐の旅は私たちを近づけた。
過酷なサバイバルの夜、洞窟で雨宿りし、身を寄せて震えた。
探し迷った合い言葉の廃墟。
舞踏会で私を庇って血を流した彼の手の温度。
――心が、傾かぬはずがなかった。
だがそれが、最も愚かで許されぬ感情だと知っている。
「あなたは、帰らねばなりません」
私は自分の指を強く握り締める。
「女王を置いて帰る勇者って……馬鹿みたいだよな」
そう言いながら、彼は笑わない。
その横顔は、初めて会ったときより孤独に見える。
否定してあげたかった。
でもできない。
立場が許さないのではない。
言った瞬間、彼が本当に残ってしまう気がして、恐ろしかった。
「俺さ……あんたがこの国を背負うのを知ってる。でも俺は……」
言葉が途切れた。
胸が痛すぎると、人は言葉を失うのだと知った。
オルゴールの旋律が弱まり、終わりが迫る。
彼はゆっくり手を伸ばした。
触れれば壊れてしまいそうな、迷う指先。
「私は……あなたを愛してはいけない人間です」
私は――その手を取らなかった。
取ればきっと、終わってしまう。
だから私は、彼から逃げるように視線を下げて呟いた。
「分かったよ。言わなくていい。でも俺の気持ちは……どこにも行けないままだ」
その言葉が、私を殺しにくる。
ただ、ほんの一瞬だけ、魂が軋むような表情を見せてしまった。
『きみをひとりにしないために』
合い言葉と共に旋律が止まり、光が彼を包む。
私は最後まで手を伸ばすことも、泣くこともできなかった。
届かない場所へ帰る、大事なギフトを、ただ見送るだけだった。
――日本。
勇者は元の世界に戻った。
木枯らしの夜には眠れず、風鈴の音に胸が締めつけられた。
どんな日常も帰る場所ではなかった。
そして正月。
年賀状が届いた。
差出人は関係者ばかり。
あの女王からは、一通もない。
届かない想いは、どこへ向かえばいいのか。
帰れない場所を、どうやって忘れればいいのか。
オルゴールの音はもうない。
けれど胸には、終わった旋律の残響だけが鳴り続ける。
――どんな世界よりも残酷な形で。
残念ながらハッピーエンドではありません……オルゴールは勇者を転移させた後、黒く崩壊してしまいました。(´人・ω・`)<お読み下さり、ありがとうございました…




