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転生したら絶滅寸前の希少種族でした。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
第八章 〜十六歳のわたし、そして未来のわたし〜

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十六歳のわたし第3話



 ナコナが来た翌日。

 自室の隣にある、わたし専用の錬金術の工房!

 去年レドさんが来た時に、ついでに改築してもらったのよ!

 ロフォーラにある工房は最近錬金術を覚えたいというモネに貸し出すとして……まあ、でもそれ以前にモネに教える用の簡単なレシピを考えておかないとね。

 普通に考えれば『下級治療薬』『下級解熱薬』『下級解毒薬』。

 どれもロフォーラで採れる野草の花で作ることができる。

 それにしても、モネが練金薬師になりたがってるかぁ。

 んもぅ、本当に可愛いんだから〜!

 ……けど、しばらく会ってないなぁ。

 ロフォーラにも二、三年帰ってない。

 まあ、まだ毎日魔物がデイシュメールに施された『魔寄せの結界』に引き寄せられて、襲ってくるからわたしは離れられないから仕方ないんだけど。

 あまり変わってないのだろうな。

 久しぶりに帰りたいな。

 ロフォーラの澄んだ空気を思い切り吸い込みたーい。

 裏山の温泉にも久しぶりに浸かりたいわぁ。


「よいしょ、と」


 洗ったお鍋を用意する。

 底の深い、黒い鉄鍋。

 そこにレンゲくんからもらった『レビノスの泉』の水を入れます。

 そして取り出したのは『イブの花』。

 さて、実にシンプルだけど、使う水も花も超特別!

 これで果たして『万能治療薬』はできるかしら?

 いざ!


「…………」


 ぐる、ぐる、ぐる。

 魔力を注ぎつつ、かき回す。

 うーん、思った以上に馴染みが悪い。

『イブの花』を『凝縮化』させてからの方がよかったかしら?

 どうしてこんなに馴染みが悪いのか。

 あ、そうか……『レビノスの泉』の水に含まれる『原始魔力エアー』濃度が濃いから、わたしがいつも薬作りで使う魔力が足りないんだわ。

 でも素材同士の“つなぎ”には魔力を入れる必要がある。

 うーむ、となると……あとは混ざるまで根気よく魔力を注ぎ続けるしかないわね。

 これは思った以上に大変な作業になるかも。


 ぐる、ぐる、ぐる。

 ぐる、ぐる、ぐる。


 もはや粉薬を作っている時よりも長時間かき混ぜているわよ。

 なかなかに溶け合う気配がないわね……。

 いえ、諦めないわよ。

 絶対混ぜ合わせてみせる!


 ぐる、ぐる、ぐる、ぐる、ぐる。

 ぐる、ぐる、ぐる、ぐる、ぐる。


 カッ!


「!」


 光った!

 できたわ!

 ほ、ほぼ三時間近く魔力を注いでかき混ぜてた!

 レシピ帳にメモメモ、と!

 ふぃい……すんごい疲れた〜。


「……さ、さてと…………ん? んんんんん?」


 鍋の中身は薄い青い液体。

 とても澄んでいて、綺麗な色、なん、だけど……。

 昔一度だけ成功した『万能治療薬』はキラキラとした金粉みたいなのが入った、薄ピンクな液体だったような?

 ま、まあ、いいわ、いよいよこの時が来たのだもの!

 いくわよ。


「鑑定!」


 鑑定魔法発動!

 どうか『万能治療薬』でありますように!


「…………んん?」


 わたしの目に映った情報は——。


『セント・エリクサー』

 品質【基準】

 あらゆる病、怪我、体力を全快させる。

 また、生き物に飲ませると自我を発達させたり、特定の存在にかけると命を宿す。



「………………………………ヤバイもの作った予感しかしない」


 ド、ドウシヨウ、コレ……。






 *********



「セント・エリクサー!? そんなの作ったの!?」

「う、うん……なんか、できちゃって……」

「できちゃって、っていうレベル!? 伝説級の代物じゃないん!?」

「や、やっぱりそうなんだ?」


 その日の夕方、とりあえずなんかヤバそうなので『セント・エリクサー』のことを幻獣たちに相談しようと現物を持って、二階の食堂にやって来た。

 ご飯を食べに来たレンゲくんとジリルさんとミラージェさんに朝作った『セント・エリクサー』について聞いてみると、この反応。

 ううう、やっぱりとんでもないもの作っちゃったんだ〜っ。


「どのくらいマズイものなの?」

「そうだね……不老不死の霊薬って知ってる?」

「……えっと……もしかして生命薬って呼ばれてるやつ? 『聖人ケリア・ヴェルジュ』が病気の奥さんのために作ったという……」


 世界初の錬金術師、『聖人ケリア・ヴェルジュ』。

原始星ステラ』の祝福を受けて不老不死の生命薬を作ったが、奥さんはそれを受け取らず、そのまま天寿をまっとうした。

 ケリア・ヴェルジュは妻が受け取らなかった生命薬を井戸に捨て、作り方も残さなかったという。


「ケリア・ヴェルジュ? ……いや、ケリア叔父さんは平民だから苗字なんか持ってないよ?」

「おじ……?」

「うん、僕の叔父さん」

「!? ケ、ケ、ケリア・ヴェルジュが!?」

「アカリさんの弟なんだ。『原始星ステラ』の祝福って多分そういう意味じゃないかな。……叔父さんは確かに今でいう錬金薬師だったね。母さんが病に伏せたのを見かねて、不老不死の霊薬を作ることに成功した。でも母さんはそれを受け取らなかった」

「!?」


 母さん!?

 奥さんじゃなくて!?

 あれ!? 待って!?

 レンゲくんのお母さん?

 レンゲくんのおじさん!?


「ま、待って! レンゲくんのおじさんがケリアで、って、え? じゃあ、え? アカリ様……レンゲくんの……え?」

「叔父さん」

「え? でも今なんかケリア・ヴェルジュはアカリ様の弟って……」

「え? うん? ……あれ? 言ったことなかったっけ? 僕の母はアカリさん。『聖女アーカリー・ベルズ』と呼ばれている人。ケリアさんは叔父さんだよ」

「……………………」


 けろっと。

 なんかさらっと言い放ってきたんだけど、この人……っ!


「えええええぇぇぇぇ!?」

「あれ、本当に言ってなかった? ごめん」

「幻獣界では有名な話なのよん?」

「最も評価に関しては真逆だけどねン」

「?」


 ひょ、評価?

 え、いや、待って。

 じゃあ昔、『原始星ステラ』をもらった時にアカリ様がレンゲくんのことを気にしていたのは……レンゲくんがアカリ様の『息子』だからーーー!?

 な、なんだ……特別な関係は特別な関係だけど、そ、そういう……。

 い、いや、そうじゃなくて!

 その上、アカリ様とはじまりの錬金術師ケリア・ヴェルジュも姉弟〜!?

 うううぅそおおおぉ!


「叔父さんは母さんが寿命で伏せていたのに気づいてたけど、父さんを『ウィスティー・エア』に留めるためにも、小さかった僕のためにも、そしてまだ魔物の存在した世界のためにも、母さんは死んではダメだと思ったんだ。だから必死に『不老不死の霊薬』を作った。でも母さんは、半永久的な寿命を持つ父や幼い僕に『命には終わりがあることを教える』と言ってその薬を受け取らなかった」

「……!」

「叔父さんはその意思を理解して、ロフォーラの頂上にある井戸に薬を捨てたんだよ。……セント・エリクサーはその不老不死の霊薬を作る時に生まれた薬の一つ。『壺の中の小人』……『意思持つ原始罰カグヤ』はセント・エリクサーを取り込んだ『原始罪カスラ』だと聞いた。叔父さんは最初、それが壺の中に溜まった『原始罪カスラ』だとも気づかなかったし、生まれたものが『意思持つ原始罰カグヤ』だと分からなかった。当たり前だよね……当時は『原始罰カグヤ』そのものが存在しなかったんだから……」

「えっ……! じゃ、じゃあ、こ、これ……」

「ティナが持っていれば大丈夫だとは思うよ。叔父さんは壺の中に『原始罪カスラ』が溜まっていたのに気づかずセント・エリクサーを移し、偶然『意思持つ原始罰カグヤ』を生み出した。でもティナは『原始星ステラ』の影響で、周辺の『原始悪カミラ』、『原始罪カスラ』、『原始罰カグヤ』は自動的に浄化する。それに、瓶に入ってるしね」

「……そ、そっか」


 なら、わたしが持っていた方が逆に安全っていうこと、かな?

 というか『生き物に飲ませると自我を発達させたり、特定の存在にかけると命を宿す』ってそういうこと〜っ!

 でもそれじゃあ、迂闊に捨てるのも危ない、ってことじゃない。

 壺の中に『原始罪カスラ』が溜まってるのに気づかず移し替えた、ケリア様のドジっ子〜!

 というか壺の中に『原始罪カスラ』が溜まるっていうのも正直信じられなーい!

 どういうことなのよ〜!?


「それに本来の用途は普通に病気や怪我を治す薬だしね」

「そ、そうだよね」


 ちょっと用途を間違えてしまっただけなのよね、ケリア様。

 なるほど、それで幻獣族からは評価が悪いのか……。


「!」

「あら?」

「えっ!」

「え?」


 納得したのでご飯を、と厨房へ移動したわたし。

 でも、突然レンゲくんたちが驚いた表情をする。

 ジリルさんは両手で口を覆うほどだ。

 これは、多分『思伝テレパス』という魔法!

 幻獣族はこの魔法でどんなところにいても瞬時に連絡を取り合える。

 スマホ要らずでちょっと羨ましいのだが、使うにはコツが必要でとても難しい魔法。

 ちなみにシィダさんは楽々使ってたわ。

 わたしはもう少し練習が必要。

 結構な魔力が必要なのよねー。

 と、それより、三人が顔を強張らせたり驚いたりするってことはなにかよくないことでも起きたのかな?

 わたし、なにか役に立てる?

 三人はそれぞれ顔を見合わせて、難しい顔で俯いた。


「レンゲくん? あの、なにかあったの?」

「……あ、ああ、うん……クリアレウス様が……意識を保てなくなってきたらしい」

「!」


 そ、それって……。

 わたしも両手で口を覆う。

 クリアレウス様、ここ数年、ほとんど寝てばかりで体は弱る一方。

 元々あまり永くはないとご本人も仰っていたけれど……いよいよ、ということなのだろう。

 そんな……。


「…………。あの、三人とも、行ってきていいよ」

「!」

「聖女ちゃん……」

「…………っ」

「わたしは城壁の外に出ないから大丈夫。最期のお別れ、になるんでしょ? 行ってきて」

「でも……」

「最期なんだよ!」


 レンゲくんの腕を掴む。

 レンゲくんが今自分で言ったんだよ。

『命には終わりがある』。

 悲しいけど、その通りだ。

 だからこそ、見送れるのならちゃんと見送って。

 でないときっと後悔する。


「…………ティナ……」

「レンゲ様!」


 バタバタ、とやかましい足音を立てて入ってきたのはレヴィレウス様。

 涙を目に浮かべ「母上が!」と叫ぶ。

 ああ、そうか。

 レヴィレウス様にとってクリアレウス様はお母さんなんだもんね。


「……! お前、その薬は!」

「え?」

「貸せ! 母上に飲ませれば……これさえ飲ませれば母上は!」

「レ、レヴィレウス様!?」


 テーブルの上に置きっぱなしだった『セント・エリクサー』をレヴィレウス様は瞬時に『なんであるか』鑑定したらしい。

 素早く『セント・エリクサー』を握り締め、転移してしまった。

 な、なんてことなの!?


「大変! レンゲくん! 今の見た!?」

「あ、ああ! 大変だ! レヴィのやつ、まさか『セント・エリクサー』をクリアレウス様に飲ませようと……」

「そうじゃなくて! レヴィレウス様が瓶を壊さず持ち上げて持っていったわよ! すごい成長じゃない!?」

「そっち!?」

「た、確かにん!」

「た、確かにン!」

「い、いや、それは、確かにそう言われるとそうだけど!」


 あの破壊魔のレヴィレウス様が、脆いガラス瓶を割らずに持つなんて!

 ようやく力の加減ができるようになったのね!

 おめでとうございます!

 ……クリアレウス様も喜んでくれるわ……ん? クリアレウス様?

 あれ?

 レヴィレウス様、そういえばなんで『セント・エリクサー』を持って行ったのかしら?


「ね、ねぇ、レンゲくん。レヴィレウス様は、なんで『セント・エリクサー』を持って行っちゃったの?」

「今? ……多分、クリアレウス様に『セント・エリクサー』を飲ませるつもりだ。『セント・エリクサー』の効能なら、クリアレウス様の寿命を数年程度伸ばすこともできるだろう」

「え!  あの薬、そんなことできるの!?」

「そ、そのぐらいすごい薬なんだけど……ほ、本当に自覚なかったの?」

「うっ」


 いやぁ、まさか、ねえ? だって、ねぇ?

 そ、それにほら、は、初めて作った薬だし?


「けど、クリアレウス様は……」

「ええ、きっと望まないのだわン」

「レヴィ様のお気持ちは、痛いほど分かるけどん……」

「そうだね……」

「…………」


 去年お会いした時、『十分生きた』と仰っていた。

 全ての役目を終えたとも。

 クリアレウス様は満足している。

 レヴィレウス様の気持ちはわたしだって分かるけど……クリアレウス様の気持ちはどうなのだろう。

 みんなレヴィレウス様と同じ気持ちだけど……クリアレウス様は飲んでくれるかしら?

 わたしとしては、せっかく作った薬だし、手元に置いておいてもなんかヤバげなので是非飲んでいただきたいんだけど!


「あ! そんなことより、レンゲくんたちも早く行って行って!」

「ええ!? で、でもね、聖女ちゃん、あたくしたちの任務はこのお城と貴女を守ることなのよン」

「わたしなら大丈夫だってば! あのね、ジリルさん、わたしも本当ならクリアレウス様に最期のご挨拶はしたいの」

「!」

「聖女ちゃん……」

「でも、わたしまでここからいなくなるわけにはいかないでしょう? だからわたしの代わりに、ね? お願い!」

「………………」



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― 新着の感想 ―
[一言] 話がどんどん壮大になっていくのに、世間が思ったより狭いというかみんな家族だぜ!って感じというか… 読んでいて和みますね
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