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転生したら絶滅寸前の希少種族でした。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
第三章 〜六歳のわたし〜

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六歳のわたし第5話



 ナコナさんの服を買い、部屋へ持っていく。

 部屋の外に出されていた空の食器を厨房に持って行き、お父さんが薪をギャガさんたちに渡し終えて帰ってくるのを待つ。

 それから一緒に朝食。

 途中、ナコナさんが二階から降りてきた。


「おはよう、ナコナ。ティナにお礼言ったのか?」

「う。…………あ、ありがと」

「いえ、サイズやデザインは大丈夫ですか?」

「うん! サイズはピッタリだし、動きやすいからいい感じ! これならビックベアもぶん殴れそうだわ!」

「…………?」

「…………?」


 ビックベア……ロフォーラ山など山岳地に生息する凶暴な巨大肉食生物。

 前世で言うところの熊を一回りほど大きくした挙句肉食限定にした山の頂点生物の一角である。

 ……いや、ではなく……わたしが買ってきたのはただの服であり武具の類ではない。


「い、いえ、あの、ナコナさん、それは普通の服ですよ?」

「いや、ナコナ……ビックベアはお前にはまだ倒せないだろう」

「お父さんツッコミが違います」

「大丈夫よ! 『ダ・マール』でギルディアスさんに格闘技と剣も習ったの! こう見えて結構戦えるんだから!」

「ギルディアス〜〜!?」


 ……あ、あれか、お父さんの昔話にたまに出てくるお父さんの部下の人か……。

 お父さんのことを相当尊敬していたらしいから、お父さんの実子のナコナさんにもよくしてくれていたのだろう……な?


「だ、だとしてもビックベアは食べられないので狩りませんよ」

「え? じゃあなになら狩るの?」

「ボアやビックボアなどは干し肉にして保存食にもするので……」

「じゃああたし、今日はそいつらを倒しにいくわ! あたしもここに住むんだから、お仕事手伝うわよ!」

「ちょ、ちょっと待て! ボアは確かにそろそろ狩りに行かなきゃならんが、お前にはまだ早い! 慣れてもいない山で狩りなんてやらせられるわけがないだろう!? ……働いてくれる気があるのなら、薪割りを頼む。今は団体さんが来ているしな」

「むーっ」

「あと、ティナは薬作り充分に気をつけること!」

「はい」


 もちろん、充分に気をつけるわ。

 それでなくとも今日は初めて作る物だもの。

 有毒なものばかりだから本当に充分気をつけないと。


「薬作り?」

「ああ、ティナはすごいんだぞナコナ。この歳で錬金術が使えるんだ」

「!?」

「お、お父さん…!」


 ちょっとちょっと!

 そんな言い方したら!


「ふ、ふぅーん……」

「…………」


 ものすごい睨んでる。

 でも、服のことがあるせいか昨日みたいには怒鳴ってこない……。

 でも、本当は言いたいんだろなぁ。


「あたしだって八連打打てるけどね!」

「?」

「お、そうなのか? そりゃあすごいな! さすが俺の娘!」

「ふ、ふふーんっ!」


 ……よくわかんないんだけど、八連打?

 格闘技ができるらしいからそれ関係かしら?

 まあ、なんにしても爆発しなくてよかった。

 買ったばかりの服をまた昨日みたいにあちこちに引っ掛けて破ってしまわれたら困るわ。

 まだお金払ってないし。


「さてと」


 後片付けはお父さんがやってくれるそうなので、わたしは用意しておいた空の薬瓶を二十本ほど持って湖前の大木の下へ移動する。

 リホデ湖は人間大陸一、大きな湖。

 なのだけど……この世界の人たちってあまり観光に興味がないらしいのよね。

 そりゃ、琵琶湖ほど大きいわけじゃないけど……対岸は見えないくらい大きいもん。

 漁をやろうと思えばできそうな広さ!

 ……だけど、このリホデ湖の周囲にあるのは『ロフォーラのやどり木』のみ。

 少し奇妙だけど、この世界『ウィスティー・エア』は村や町はなく、人は『国』に住む。

『国』と『国』は街道で繋がり、それ以外の土地は“誰のものでもない”。

 しかし、『国』と『国』の間は距離がある。

 土地を自ら開拓し、街道沿いに宿屋や道具屋などの店を始める者には『国』が二つ以上『認可』を出せば商売が認められるそうだ。


「…………よし、やるわよ」


 なので、街道からこの『ロフォーラのやどり木』への道の前に新しく薬屋を建てるとしたら……その場合許可っているのかしら?

 まあ、まずはお父さんに相談する必要があるけれど。

 なんにしてもまずは資金!

 ……お父さんがわたしを追い出すとは……思えないけれど…………それでも、わたしの抱える謎の多い『暁の輝石』に関して、万が一を思うと一人で生きていけるだけの資産は必要。

 生活能力とか、一人で生きていく職とか、諸々。

 その為にもまずは軽〜く下級治療薬を五十本ほど作ります!

 瓶は足りないけれど、二本ほど大瓶を持ってきたの。

 これは『お徳用大瓶』と呼ばれる冒険者ではなく、ギャガさんたちのような商人さんが小分けにして売る時に利用される瓶である。

 一瓶で約小瓶二十本分。

 これを二瓶作ると、小瓶二十本ちまちま作るよりも楽なのよね。

 錬金薬師はこんな感じで下級治療薬を大量生産して売る。

 一つの小瓶で二百コルトとしても、二十本分と考えれば割と楽に稼げるのだ。

 もっと作っても良いんだろうけれど、材料がなくなってしまう。

 それに、ギャガさん曰く「大量に作れる錬金薬師でも一日大瓶一本が限界」なんだって。

 わたしは大瓶を二瓶作ってから、魔力回復術で回復してから万能解毒薬作りに入るわ。

 そう、下級治療薬は軽い肩慣らしよ。


「でーきたっと」


 大瓶に作った薬を注ぐ。

 大瓶二本、完成よ。

 これで普通なら四千コルト分。

 でも、わたしの作る下級治療薬は質が『良』なの!

 プラス三十から五十コルト。

 ギャガさんはプラス五十コルトで買い取ってくれるので大体五千コルト。

 大瓶二本で一万コルト!

 ……ナコナさんの服の分を払ってもお釣りがくるわ。


「さてと、万能解毒薬は……」


 材料『清水』、『ソランの花』とギャガさんに貰ったお土産、『殺人蛾の鱗粉』と『猛毒蠍の尾』と『劇毒大蜥蜴の爪』と『激毒大蛇の牙』。

 水はロフォーラの滝から汲んできた純度抜群の清水と、同じく裏山に生えた『ソランの花』。

 作り方は治療薬と同じく水にソランの花やその他材料を入れて、魔力を加えながらよーくかき混ぜる。

 一度目の錬成後、一煮立ちさせながらもう一度魔力を加えながらかき混ぜていく。

 さらに冷めるまで魔力を加えながらとにかくひたすらかき混ぜる。


「…………」


 これは、きついな。

 思っていた以上に時間がかかりそう。

 腕が絶対疲れるわよ、これ。

 むむむ、でもやるしかないわ……やるって言っちゃったもん。

 鍋に水を入れる。

 材料を入れる。

 ワンポイントアドバイス……毒系の素材は、瓶のまま入れてかき混ぜながら蓋を開けていくと安全。

 ……蓋は緩めておくが、決して開けてはならない。

 ふむふむ。


「……ソランの花と、鱗粉と、あと……」


 蓋は緩め、鍋の中へと落とす。

 全部入れたらかき混ぜる開始よ!


 ぐーる。

 ぐーる。

 ぐーる。


 もちろん魔力もそっと、優しく注ぎ続ける。


「…………」


 万能解毒薬……これが作れたら、上級治療薬も作れるようになるかしら。

 中級治療薬、上級治療薬でもお父さんの失くした腕は治らない。

 でも、万能治療薬なら治るかもしれない……そう、上級錬金術の本に書いてあった。

『万能治療薬は欠損部位の回復成功も報告されている』……と。

 お父さん。

 マルコスさん……。

 わたしを育ててくれた人。

 その恩をどう返したらいいか、ずっと考えていた。

 わたしができる、恩返し。

 こんなどこのなんともわからない小娘を、文句ひとつ言わずに育ててくれた“いい人”に、わたしができるのは多分、それくらいだと思うの。

 あの人へのわたしからの恩返しは『万能治療薬』。

『万能治療薬』の存在を知ってから、それにしようと決めた。

 これはその第一歩よ。


 集中するのよ、わたし。

 全身全霊を研ぎ澄ませて、魔力を注ぐの。

原始魔力エアー』を感じながら……取り込みながら……。

 絶対に、成功させるわ。



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