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転生したら絶滅寸前の希少種族でした。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
第三章 〜六歳のわたし〜

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六歳のわたし第4話



 翌朝、屋根裏部屋で目を覚ます。

 ああ、そういえばナコナさんに部屋を明け渡したんだっけ。

 ……まあ、元々屋根裏部屋はわたしの第二の……いや、完全にお父さんやお爺さんに見られて困る系の乙女の私物置き場と化していたので……むしろここの方が居心地がいいくらい。

 ベッドから起き上がると着替えて屋根裏部屋に付いたベランダで軽ーく体操をしてから髪を整える。

 鏡台に映る自分は、やはり耳が伸びてきた。

 小さい頃に比べて絶対伸びてるわ!

 これ、どこまで伸びてしまうのかしら?

 あんまり伸びると……エルフ耳みたいになるんじゃ。

 でも、ハーフエルフのシリウスさんは今のわたしくらいだったしなぁ?



「………………………………」



 伸ばしっぱなしだった髪を左右で、耳が隠れるようにかなり緩めにまとめて毛先五センチ辺りをゴムで結ぶ。

 ……うん、これなら耳が隠れるし髪もそんなに邪魔にはならないわ。

 いや、これはいっそのこと短くショートボブにして耳を隠す?

 いやぁ、でもショートボブじゃあ風で髪が靡いたりしたらバレる。

 こう……もう少し伸ばして耳を隠すように後ろに左右ひと束もみあげを結べばコレよりは簡単だし可愛いかもしれない。

 よし、もう少し伸ばそう。


「…………」


 昨日は考えないようにしたけど、やっぱりわたしって少し……ヘン……だよね。

 髪は金髪から赤紫へのグラデーション。

 赤い目。

 尖り耳。

 人間だとばかり思っていたけど、この世界には亜人や獣人も住んでいる。

 朧げになってきたものの、わたしを生んだであろう『おかあさん』もエルフ耳だった気がするし、なにより額に石が埋まっていた……ような?

 それに『暁の輝石』の血よ、目覚めないで……とかなんとか。

 最近錬金術に夢中で忘れていたけど、やっぱりちゃんと調べた方がいいわよね。

 どうしよう……ギャガさんに聞いてみようかな。

 でも、危ない物とかだったら「どうしてそんなことを聞くんだー」「まさか『暁の輝石』の関係者!? 危険だー!」みたいなことになって追い出されるかもしれないし……。

 わたしが捨てられた理由と無関係とは思えない。

 ……危険な物の可能性は、高い。

 うん、これは置いておこう!

 自分で調べられる年齢になったら調べよう。

 目下問題は山積み。

 それどころじゃないわ!


「……おはようございます」

「おはようティナ。悪かったな、昨日は」

「いえ、別に。元々屋根裏部屋の方が気に入ってましたし」

「…………」


 ああ、申し訳なさそうな表情。

 まあ、実の娘が突然現れて我儘放題泣きたい放題じゃあ拾われっ子のわたしが遠慮するのは目に見えているし、それに対して申し訳なくなるのも仕方ない。

 でも、本当に気にしていないのだ。

 特に部屋に関しては。


「屋根裏部屋の方が広いので、むしろ得した気分です。本当にあのままわたしが使ってもいいんですか?」

「ティナ、その……無理しなくても……」

「いえ、無理なんてしてませんよ。薬品棚とかも置きたかったし……手狭だなって思ってたんです。あのぅ、屋根裏部屋、本当にわたしが使ってもいいですか?」

「…………。すまん。恩にきるよ……」

「………………」


 大袈裟な。

 そして、なんていうか……伝わらないなぁ。


「朝ごはんお手伝いします。あの、昨日ギャガさんが朝にお風呂に入るのでお風呂用の薪を出しておいて欲しいって。あと今日わたしお外で万能解毒薬作りに勤しみますね!」

「薪だな、わかった。……錬金術の事故で顔がえぐれたって奴もいる。充分に気をつけるんだぞ」

「はい!」


 うわあ、怖……。

 そんな事になるんだ〜……本当に気をつけよう。


「……ところで、ナコナさんは」

「ん? まだ起きないのか? 仕方ないな……」

「わたし起こしてきます」

「悪い。起きないようなら飯抜きだって言ってやってくれ」

「ふふ、はぁい」


 お父さんのご飯はそれほど美味しいわけじゃないけど、毎食欠かさず頑張って作ってくれる。

 なんとなく、そこは……前世のお母さんと似たものを感じるのよね。

 ……どんなに忙しくても、どんなに料理が苦手でも……。


「…………」


 階段を登っていた途中で、思い至り振り返る。

 ああ、そうか……あの人、本当に『お父さん』なんだ。

 今世でのわたしの本当の両親よりも、前世のお母さんに近い。

 それって…………“お父さん”ってこと、だ。


「……………………」


『お父さん』なんて、わたしやお母さんを捨てる最低男のことだったけど、やっぱりマルコスさんは違うのだろう。

 あれが本来の『お父さん』という存在なのなら、わたしはもう少し彼を『お父さん』として信用してもいいのかもしれない。

 もちろんすぐには無理だ。

 前世で刷り込まれている『お父さん』像がわたしの中には根強いから。

 ややこしい。

 それならいっそ、お父さんなどという存在ではなく『マルコスさん』として接した方がわたしは楽なのでは……?


「……おはようございます、ナコナさん。朝ですよ」


 二階に上がってすぐ、お父さんの部屋、書庫を通り過ぎた角部屋。

 ここが以前わたしの部屋だったところ。

 ベッドや机、ソファーなどはそのまま。

 わたし用にお父さんやギャガさんが買ってくれた本も棚の中に入っている。

 部屋を移動するのなら、家具類は仕方ないとしても本や服は返してもらいたい。

 一応、今日着る服は持ち出してあったけど、ほとんどはこっちの部屋にあるのだ。

 わたしより年上のナコナさんには着られないものだろうし、言えば返してくれるだろう。

 ……でも、そもそもナコナさん荷物持ってたっけ?

 着替えとか……。


「…………」

「……あのー?」


 気配はするが出てくる気配がない。

 ノックして声をかける。

 ……これは、まさか……もしかして……。


「あの、もしかして着替えがないんですか?」

「…………うん」

「…………。ギャガさんが来ていますから、ナコナさんが着れそうな服を買ってきますね。先にご飯を持ってくるので食べてください。食器を取りにくるついでに着替えを持ってきます。それでいいですか?」

「……う、うん」

「ちなみに服はどんな服がいいですか?」

「う、動きやすいやつがいい……」

「わかりました」


 階段を降りて、お父さんに事情を話す。

 思い至らなかったお父さんも頭を抱えて溜息をついた。

 わたしはお父さんから朝食をお盆に乗せてナコナさんに持っていく。

 下手したら全裸なので、部屋の前においてとりあえず声だけかけて降りてきた。

 そのままギャガさんたちの泊まっているコテージに行くと、ギャガさんキャラバンのメンバーの一人、ドレークさんが朝の体操をしているところに遭遇!

 筋骨隆々、緑のタンクトップ。

 彼は確か『衣類系』商人護衛!

 ナイスタイミングだわ!


「ドレークさん、おはようございます」

「お、おはようティナリスちゃん。今日もいい天気になりそうだね」

「はい、そうですね、あの、いきなりなんですけど服を買いたいんです。下着を含めて……」

「え! ついに!? 待ってて! すぐに団長を呼んでくるよ!」

「え!? いえ、わたしの服では……!」


 ついに?

 ついにってなに!?


「あ、もしかしてお姉さんの服?」

「お姉さん?」

「ナコナって子。マルコスさんの娘さんなんだから君のお姉さんだろう?」

「…………」


 ……お、おおう、そ、そうなるのか。


「そ、そうですね。……。とにかく、服がないと出歩けないって」

「昨日の逃走劇で汚れたか破けたかしたのかな? ははは! 今持ってくるね」

「す、すみません……朝早く……」


 …………。

 ……その両方だとは、なんとなく彼女の名誉のために言わなかった。


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