10 ニーナちゃんから誕生日プレゼント
でも今のニーナちゃんは銀髪ツインテールをいつもと変わらない赤いリボンで縛っている。白いワンピース姿には大きなリボンが付けられていたりはしない。
「ニーナさん、反則やわ。プレゼントやったら幸斗さんが受け取るからって」
麿莉奈も怒る。
「ち、ちがうのです。プレゼントはわたしではないのです」
ニーナちゃんが焦って否定。
とりあえず俺たちはホッとする。ニーナちゃんが紛らわしいことを言うからドキドキした。
「ニーナちゃん、幸斗はやさしいからどんなプレゼントでも喜んで受け取ってくれるわよ」
千紘姉さんが促す。
「は、はい。では。ゆきとさん、受け取ってくださいです」
ニーナちゃんが、さっと両手を俺の前に出す。
小さな箱を手の平に載せている。
3センチ四方くらいの本当に小さな箱で、大層な物が入っているように見えない。
「まさか、指輪なん!?」
麿莉奈がハッとする。
「ずるいぞニーナ、ゆきとと婚約指輪するなんて!!」
桃香が激おこ。
ニーナちゃんのプレゼントが波乱を起こしまくっている。言われてみれば小さな箱に入りそうなプレゼントって指輪くらいに思える。
俺とお揃いの指輪をニーナちゃんとしていたら、他の子は心穏やかじゃないだろう。
「ちがうのです。指輪じゃないのです。ゆきとさん、あけてくださいです」
ニーナちゃんの声は緊張している。箱の中身を俺がどう受け止めるのか、とても心配しているようだ。
「う、うん。じゃあ開けさせてもらうね」
俺は箱を右手でつまむ。軽い。何も入ってないと思えるくらいだ。
左手の指先で箱の蓋を開ける。
女の子たちの視線が集まっているのを感じる。
箱の中には、小さく折り畳まれた紙が入っている。
俺は取り出して、紙を開いた。
ニーナちゃんのたどたどしい字が書かれている。
『ゆきとさんへ12月に手編みのマフラーをプレゼントする券』
なんと、誕生日プレゼントはニーナちゃんのマフラーをもらう予約券なのだ。
「うう……マフラーを編むには時間がかかるのです。か、かならず12月には編むって約束するです」
ニーナちゃんが泣きそうな顔で伝えてくる。
「手編みだなんて、大変なんじゃ……」
俺の誕生日プレゼントを紙切れ一枚だけにしやがってなんて思いはしない。ニーナちゃんに申し訳なく思う。
「わたしがゆきとさんにプレゼントできるものはあまりないので、がんばりますです」
いくら大金持ちの俺へのプレゼントって難しいからって……
「やっぱり大変そうだ。俺のために苦労するなんて悪いよ」
「苦労じゃないです。ゆきとさんにわたしのマフラーをしてほしいのです」
「ウチも手作りの物は考えたけど、時間がなくて諦めました。その手があったかって悔しいわー でも12月に渡すんやったら、クリスマスプレゼントにすればいいのでは?」
麿莉奈はニーナちゃんにしてやられたと思っているのか、ちょっとディスっている。
「ええと、クリスマスには、手編みの手袋をプレゼントするです」
ニーナちゃんは恥ずかしげに答える。
「ええっ!? マフラーだけでも大変そうなのに、手袋も!?」
俺はびっくりしっぱなしだ。
「だいじょうぶなのです。日本の冬は寒いですから、ゆきとさんにはあったたくしてもらいたいのです」
「うれしいよ。ありがとう、ニーナちゃん。この予約券は大事に取っておくね」
俺は猛烈に感動している。女の子の手編みマフラーなんて男子の夢だよね。しかも手袋ももらえるなんて。
「券をなくしても、ゆきとさんにはプレゼントするですよ」
ニーナちゃんが、ホッとした表情になる。
俺が喜んでいるのがうれしいのだ。
今日のところは予約券がプレゼントで、俺がドン引きするとニーナちゃんは心配していた。
「俺は、ニーナちゃんが俺のためにプレゼントを考えてくれただけでうれしいよ。マフラーと手袋を編むのに夜更かしして、体を壊さないでね」
「ゆきとさんやさしい……毎日ちょっとずつやっていくです」
ニーナちゃんが微笑して席に戻る。
「あたしも手編みのマフラーをクリスマスプレゼントに考えてたんだけどな。ニーナに取られちゃった。はぁ」
桃香がため息。
「私もよ。考えることは、みんな一緒みたいね」
千紘姉さんも残念そう。
ニーナちゃんに先手を打たれてしまって、みんな負けたと思っているようだ。ニーナちゃんが『先んずれば人を制す』という発想をしたとは思えない。ニーナちゃんは無意識に他の子を制圧しまうから、まじ恋愛の天才だよね。
「自分は編むつもりですよ。マフラーは、いくつあってもいいんじゃないでしょうか。幸斗先輩には日替わりで使ってもらいたいです」
藍は諦めてない。
体育会系の藍が、女の子らしい編み物をするなんてとてもギャップを感じる。
「そ、そうだ。雪で濡れるからな。ゆきと、マフラーを毎日交換してくれ。順番はジャンケンな」
桃香がすかさず気を取り直して、言い聞かせてくる。
ニーナちゃんにプレゼントのサプライズを奪われてしまったが、敗北をおとなしく受け入れず対抗する子もいる。
まだ5月だというのに、俺のマフラー装着を巡って順番争いが勃発してしまった。みんなに苦労をさせるのは申し訳ないが、美少女に取り合いにされるのは悪い気はしない。
みんなが編んでくれるマフラーと手袋で、冬を温かく過ごせそうだ。
「パーティー会場を飾り付けてもらえたし、料理とケーキでお腹いっぱい。プレゼントももらえて俺は幸せだよ。みんな、ありがとうね」
俺は、人生で最高の誕生日会をしてもらって、女の子たちに深く感謝した。




