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82/203

82 希望

 ◆◇◆


 2週間後。

 金沢大学病院。

 北陸最高峰の病院に、柚子香ちゃんは転院した。


 個室のベッドで寝そべって、アラフォーの女医さんの診察を受けている柚子香ちゃん。


 俺、桃香、氷室さんは窓際に立ち、見守っている。いつもどおり俺は学生服、桃香はセーラー服で、氷室さんはグレーのスーツ姿。


 柚子香ちゃんは新しい薬が投与されて1週間が経った。はたして効いているのかどうか。

 顔色は良くなって見えるのだが……酸素マスクは付けていないし。


「はーい、深呼吸してください。吸って、吐いてー」

 女医さんが柚子香ちゃんの胸を開けさせて聴診している時は、俺は顔を背けている。


「はい。いいですよ。うん、効いてますね、薬。続けていきましょう。どんどん良くなると思いますよ」

 女医さんの言葉に震えがくる。


「うおおおおおおおおおおお、やったぜ」

「やったー」

 俺と桃香は跳び上がって喜ぶ。


 女医さんが退室した途端(とたん)に、桃香と柚子香ちゃんは抱き合って泣き始める。


「良かったなあ柚子香」

「お姉ちゃん、夢じゃないよね。体が痛くなくなるなんて」


 俺は氷室さんに話しかける。

「ミコ糖症は今の医学では治せないって言ってたのに、どういうことなんですか?」


「ふ、私の話は少し誇張してありました。幸斗さんを試させていただくためにね」

 氷室さんは腕組みして話す。


「本当は治せるってことなんですね……(だま)したんだ。あれ、でも今岡市民病院では全然治せなかったのに……ダメ病院だったってこと?」

 俺にはわけがわからない。


「実は半年ほど前に、アメリカの研究者がミコ糖症の原因となるDNAの欠損部位を特定したという論文を発表していたんです。DNAは人体の設計図。柚子香さんは普通の人と、わずかにDNAが違っているためにミコ糖を分解できないってことです」


「はあ。俺はバカだからよくわかんないけど、続けてください」


「DNAを特定できるのは、病気が発生するメカニズムを明らかにして、どんな薬を使えばいいかっていう大きなヒントになります。その研究者は人工知能(エーアイ)で解析して、ミコ糖症に効きそうな薬を選び出したんです」


「おおお、すげー 超頭良さそう」

「私は研究者に連絡を取って、金大病院の医者に情報提供をしてもらったんですよ。今岡市民病院よりも、大学病院の医者の方が最先端の研究を取り入れてくれますからね」


「氷室さんが全部お膳立(ぜんだ)てをしてくれたんだ!」


「幸斗様のお金の一部を研究資金として提供しましたからね。(こころよ)く協力してくれることになりましたよ。お金使って良かったですよね?」

「もちろん。使って使って」


「このまま治るんだよね、柚子香は?」

 桃香の声。振り向けば桃香が泣き顔で立っている。

 

 柚子香ちゃんも強張(こわば)った顔でこっちを見ている。


「希望は大いにあります。私は治ると信じています」

 氷室さんが笑顔で応える。


「うわあああ、ありがとうございます」

 桃香が氷室さんに抱きつく。


「ちょ、ちょっと桃香様、治るのは絶対に確かじゃありませんよ」

「あたし、うれしいんです。柚子香が生きていけるって思えるなんて」


「え、でも、この薬が効いて治るんじゃないの?」

 俺はもう解決した気分。


「薬は病気の進行を遅らせる程度のものでしょう。根本解決には、ミコ糖症を引き起こすDNAの欠損を修復しないといけません」


「うう……話が難しいけど、原因を取り除かないといけないってことだね」


「最先端の医学はもはや魔法のようでして、DNAを書き換えてしまうゲノム編集(エディティング)という治療方法が実用化されつつあります。いずれ柚子香さんのDNAを正常に書き換えてしまうことができるようになるはずですよ」


「全然わかんないけど、すげー」


「ぐすっ 柚子香の……柚子香の体が……病気じゃなくなるんですね」

 桃香の泣き声は喜びに(あふ)ている。


「はい。薬で時間を稼げるから、20才を過ぎてもきっと大丈夫でしょう。そしてゲノム編集を使えるようになるのを待てばいい。健康な体になれます。ただし……」

 氷室さんが言葉を切るから、ドキッとする。


「何か問題があるんですか?」

 俺は恐る恐る尋ねる。


「ゲノム編集には何億円という費用がかかるでしょう。何十億かも」

 氷室さんが俺の方を試すように見る。


「……全然安いじゃないですか。俺が払いますよ」

 拍子抜け。金で解決できることなら、現金だけでも千億円持っている俺なら楽勝。


「それでこそ幸斗様です」

氷室さんは満足そうに頷いた。

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