80 桃香の真実
◆◇◆
ラブホの入口から30メートル離れたところで路駐した。
桃香は向かい側からやって来る。
「本当にラブホに入っちゃうつもりかよ……」
俺は手に汗握って、桃香が別の場所に向かってくれるよう祈っている。
桃香は俺のお嫁様候補だというのに……ラブホに入ったらさすがにアウトだ。
だが桃香はこっちに向かって来る。
「実は桃香様のリュックに盗聴器を仕掛けてあります。小声でも拾える高性能のものです。お聞きになりますか?」
氷室さんが俺を横目で見る。
「えっ!? 今ごろになって!? 早く言ってくださいよ」
「聞きたくないかと思いまして。桃香様とオッサンの会話なんて」
「もういいから早く」
俺は確かに聞きたくないんだけど、仕方ない。
氷室さんの監視はやはり徹底している。尾行をする必要がなかったと思えるくらいだ。
でも、俺は桃香がラブホに入って行くのかこの目で見極めたい。
タブレットから音声が流れる。
「ねえねえ桃香ちゃん、おじさんとラブホに入ろうよぉ」
オッサンの声は酔っぱらいのように間伸びして聞こえる。焼肉屋でビールをしこたま飲んだようだ。
「あたしは行かないって」
「そう言いつつラブホの方に向かってるじゃん。もっとお金をあげるって言えばいいんでしょ、ぐふふ」
「あたしの家がこっちの方ってだけ。もうバイバイしようよ」
「本当は誘ってるんでしょ、桃香ちゃん」
「あのさー あたしは16才だよ。オッサンは逮捕されてもいいわけ?」
「大丈夫だよぉ おじさんは警察の偉い人と友達なんだ。何かあっても揉み消してもらえるの」
「マジ?」
「そうそう、大丈夫だから、行こうよ。おじさんはエッチが上手だから任せてよぉ」
「キモ。嫌だって」
「うーん、じゃあ5万円あげるよ」
「いくらもらってもダメ」
「桃香ちゃんはおねだり上手だな。10万円にするよぉ、10万円!」
「止めて、離して」
桃香が嫌がっている。手をつかまれていそうだ。
フロントガラスの向こうに、桃香とオッサンの姿が現れる。
オッサンが桃香の右手を引きずって、ラブホに連れ込もうとしている。
桃香の顔は笑っていない。本気で嫌がっているように見える。
俺は桃香が体を売る気はないとわかった。
助手席から飛び出す。
「桃香から離れろ、バブルの豚野郎!!」
走って、勢いをそのままにオッサンを殴りつけた。
オッサンは桃香を引きずることに気を取られてて、俺の拳を頬にまともにくらい、転倒した。
「桃香が嫌がってるだろ。失せろ」
俺は荒い息をしながら、オッサンを見下ろす。
「ゆきと!? どうしてここに!?」
桃香が驚いている。
「今日は桃香を付け回してたんだ、ごめん」
「えっ そ、そうなんだ!?」
桃香は俺の尾行に全く気づいてなかった。
「うぐぐ、なんだよ、いきなり……」
オッサンが呻きながら身を起こし、俺を睨みつけてくる。
「だからとっとと失せろ。桃香に乱暴したってことで、警察に突き出してやろうか」
「ああん、僕は警察の偉い人と友達なんだぞ。暴行で捕まるのはお前の方だ」
オッサンが両手の拳を構える。
体格は俺よりずっと大きい。
酔っ払っている相手とはいえ、ガチでやったら負けるかも……
「止めておきなさい。この少年は、総理大臣にも顔が効くんです。お前ごときの警察のお友達なんか軽く吹っ飛びますよ」
氷室さんが俺の隣に腕組みして立つ。
「はああ、何をわけのわからんことを言ってるんだ?」
「もう県警本部長に通報しています。お前の過去の買春などの悪業を洗いざらい捜査して、社会的に抹殺してやりますからね」
ちょうど近くでパトカーのサイレンが鳴り響く。ファンファンファンと音が接近してくる。
「ひいいいいっ」
オッサンは腰を抜かし、転びながら逃げて行く。
「氷室さん、本当に警察呼んだんですか?」
「ええ、呼びましたよ。私は県警本部長といつでも連絡が取れるようになっています。幸斗様と女の子の安全に責任がありますから。パトカーがバブルの豚野郎を追いかけて捕まえてくれます」
「さすが……」
俺が車を飛び出して、わずか数分で現場のパトカーに指示を出せるなんて。俺の1兆円の財力をバックにして、氷室さんは絶大な権力を握っている。
「ついでに、バブルの豚野郎に警察のお友達も白状させて、警察内部を浄化しておきましょう。ククク」
氷室さんがせせら笑う。
あと4回で第1巻完結です。




