62 藍の汗2
「高校のトレーニングマシンはけっこうガタが来てますが、ここは新品なので自分は本当に恵まれてます」
毒舌で生意気な藍にしては素直にタワマンの環境を褒め称えてくれている。
「よっぽど気に入ってくれているんだな。俺が手配したわけじゃないけど、うれしいよ。藍以外に誰かトレーニングしてるのか?」
「いえ、他の子が使ってるのは見たことないですね」
「へえ、もったいないな。俺がときどき使わせてもらってもいい?」
「当たり前じゃないですか。幸斗先輩は王様だからどう振る舞おうと勝手なのに、女の子に気を遣ってばかりですよね」
「藍専用みたくなってるからさ。割り込むのは悪いかなと思って」
「どうぞどうぞ。マシンに自分の汗がついてたりしますが、ちゃんと拭いておきますから。それとも拭かない方がお好みですか?」
「あのなぁ……俺は藍の汗に興奮するような変態じゃないぞ。拭いておいてよ」
「先輩だったらクンクンされたりペロペロ舐められたりしても構いませんが」
「んなことしないわー!!」
「ふふっ 恥ずかしがらなくていいのに」
「カケラもしたいと思わないからな。俺が藍の汗を目当てにトレーニングしに来たって勘違いしないでくれよ」
俺は苦笑して、ツンデレっぽいことを言ってしまう。
藍にからかわれたが、不愉快ではない。
むしろ藍と掛け合いが自然にできるようになってきたのはちょっとうれしい。
同棲しているってのは大きいね。
一年後輩で、毒舌な子とでもいつのまにか打ち解けてしまえるようになった。
「さてと、自分はもう終わります」
藍がルールランナーのボタンを押す。
「クールダウンを開始します」というアナウンスが流れた。
「おう、お疲れ」
「自分が残ってて、先輩にマシンの使い方を説明した方がいいですか?」
「いや、いい。今日のところは30分走るだけにしとくよ。藍が先に行ってしまうからって、汗をクンクンしたりしないからな」
「されてもいいのになぁ 先輩は自分の今の汗まみれをクンクンしたくないですか。うなじの辺りとか、ほらほら」
藍はうなじを指差している。
「しつこいって。世の中には美少女の汗に興奮する変態もいるんだろうが、俺は違うから」
「ちぇっ 先輩が変態だったら、自分が有利なのに。残念ですね」
一人でトレーニングしててマイペースな藍も、バトルロワイヤルで戦う気はあるらしい。
俺がふとトレーニングにやって来た時がチャンスだと藍は待ってたのかもしれない。あいにく俺が変態ではないので、不発である。
しかし、これからも俺はちょくちょくトレーニングしに来ようと思っているから、藍と一緒に過ごす時間は増えそうだ。藍が焦ることはないと思う。
藍のルームランナーはどんどん遅くなり、停止した。
「じゃあ自分はお風呂に入ってきます」
藍はルームランナーから降りる。
「ありがとうな」
俺は走りながら、軽く左手を振ってバイバイする。
それから俺はタイマーが終わるまで走った。
この後で藍の恐るべき罠に嵌められることになるとは、思いもよらなかった。




