54 悪役令嬢?のマウンティング
「すごいなあ、麿莉奈先輩は。こんなおいしいカレー、自分は作れません」
藍が白旗を上げている。
「そんなことないですよ。基本はレシピどおり作ればいいですし、あとは幸斗さんへの愛情をいっぱい込めるんです」
麿莉奈が謙遜しながらも、さりげなく藍に対して自分の方が俺に愛情を持っているとマウンティングしているような……
「いえ、レシピどおり作るのって意外に難しいんですよ、自分にはそれだけでも無理」
藍はマウンティングにムッとする様子はない。料理で張り合っても勝てないと悟ったようだ。
「私、カレーに隠し味が入ってると思うんだけど……甘酸っぱい……何だろうこれ?」
千紘姉さんが味わいながら呟く。
「えへへ、わかりますか?」
麿莉奈が気づいてもらえてうれしそうな顔をする。
「私は何を入れたかまではわからないな」
「何を入れたのさ?」
俺も聞きたい。言われてみれば確かに甘酸っぱい気がして、味わい深いさが増している。
「企業秘密ってことにさせて下さい。また食べたくなったら、ウチがいつでも作ります」
麿莉奈は隠し味を秘密にする。また食べたかったら麿莉奈にリクエストするしかないわけで、俺をリピーターにする巧妙な作戦だ。
カレーとかラーメンは中毒性の高い料理だ。味が気に入ってしまうと、何度でも同じものを食べたくなる。
プロの料理人が毎食作ってもらえるとしても、麿莉奈の代わりは務まらない。
料理は俺のお嫁様の必須スキルではないと思っていたが、認識を修正した方が良いかもしれない。麿莉奈が一生懸命作ってくれた料理にはただ美味しいだけじゃなくて、俺に対する愛情がこもっている。愛情はプロの料理人からでは感じられないものだ。
母さんを早くに亡くした孤児の俺は愛情に飢えている。時には、お嫁様が愛情を込めて作ってくれた料理が食べたくなる。
麿莉奈には先日から弁当を作ってもらって評価が上がっていたが、今晩のカレーでさらに上がった。裸エプロンといい、麿莉奈は畳みかけてくる。
「麿莉奈先輩は女子力高すぎ。綺麗だし、料理も上手だなんて」
藍が尊敬の眼差しを向けている。
「ほんとよね。麿莉奈ちゃんは私がお嫁さんに欲しいくらいよ」
千紘姉さんも感心しきり。
「おいしすぎますです。お父さんのシーフードカレーよりおいしいです」
ニーナちゃんもびっくりしている。プロのシェフにも勝ってしまった。
麿莉奈の料理はすごい威力だね。
俺の胃袋を掴んでさらに、女の子たちに女子力ってやつで威圧して、戦意喪失させる効果まである。
確かに、「ウチの女子力は530000です」って感じだよ。
「あーあ、自分なんて汗臭い道着で帰ってきて、女子力低すぎ」
藍は道着の袖をクンクンする。
「ウチは女の子はみんな、女らしくないといけないってことないと思うわー むしろ藍さんはスポーツやってて、かっこいいし、他の4人と別タイプなのがウチには脅威なんやけどな」
麿莉奈が藍を持ち上げる。
俺から見ても、確かにボーイッシュな藍は異彩を放っている。
マウンティングしたり、お互いににほめ合ったりと、高度な駆け引きがなされていると感じるのは俺だけだろうか。
お嫁様バトルロワイヤルでは、他の女の子をあからさまにディスると、かえって俺が悪い印象を抱く。さりげなく自身の評価を上げて、他の子の評価を下げるのがコツだろう。
麿莉奈のしたたかな戦略を見ている気がする。やはり麿莉奈は性格の良い正統派美少女じゃなくて、没落令嬢あるいは悪役令嬢のように他の子を上手く出し抜こうとしている。
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