53 没落令嬢がカレーを作ってくれた
◆◇◆
夕方7時ちょっと前。
俺はニーナちゃんとリビングのソファでまたゲームをしている。
「ただいまー」
藍の声が玄関でする。
俺が頭を向けると、藍は合気道の道着で廊下に現れる。
「おかえりなさい。藍ちゃんは部活の後、制服に着替えないのね」
千紘姉さんは廊下の方へ歩いて行って、お母さんぽく藍を迎える。
「家が近くですから、帰ってすぐシャワーを浴びればいいと思いまして」
「麿莉奈ちゃんが晩ご飯作ったって。シャワーの前に食べたら」
「やった。お腹空いたんで、いただくことにします」
「幸斗、ニーナちゃん、ご飯にしましょう」
「はーい、セーブしたら行くです」
ニーナちゃんがやっているRPGは今どき珍しい、セーブポイントに行かないとセーブできない仕様。
「桃香がまだ帰ってきてないけど」
俺は桃香を待たずに食べるのは悪い気がする。
「桃香ちゃんなら帰るのが遅くなるってLIMEに連絡があったわよ」
千紘姉さんが教えてくれる。
スマホのLIMEの存在を忘れてた。メッセージをやりとりするアプリらしい。
タワマンでの同棲を始めるに当たってスマホを持ってなかった者に、氷室さんがスマホを渡してくれた。
俺と女の子6人のLIMEのグループも設定されている。何かあればLIMEで連絡を入れればいい仕組みだ。
俺はスマホを持ってなかったから、まだ使い方に慣れていない。スマホをリュックに入れたままにしている。
「桃香は何をやってんだ……ま、いいや、先に食べちゃおう」
ん、いい匂いがするなぁ……
釣られて、俺はダイニングテーブルの方へ歩いていく。
麿莉奈が配膳をしている。
「ありがとう、作ってくれて。全員の分を作るのは大変だよね」
「いえ、大丈夫です」
テーブルの上にカレーライスとサラダと味噌汁が並ぶ。ほかほかと湯気を立てている。カレーにはイカのリングやエビが入っている。いい匂いがするし、おいしそう。
「すごい! いただいてもいいですか?」
道着姿の藍がテーブルに寄ってくる。
「どうぞどうぞ。幸斗さんは食べさせてあげましょうか?」
麿莉奈が促す。
「いいよ、家では自分で食べるから」
俺は6人掛けテーブルの真ん中の椅子に座って食べることにした。
食べさせてもらうのは、学校でやるからこそ意味がある。男子どもに見せびらかして、うらやましがって歯ぎしりしているのを眺めるのが快感なのだ。
普通、恥ずかしいことは外でやらず、家でやるものだろうという異論がありそうだ。だが俺は逆で、恥ずかしくても女の子とイチャラブぶりを見せびらかしたい。俺には露出狂的な、ちょっと変態なところがあるのかもしれない。
ニーナちゃんもとたとたやって来て、俺の左隣に座る。
座席は……
千紘 麿莉奈
ニーナ 俺 藍
……である。
熱そうなので、スプーンですくったカレーをふーふーする。
ぱくっ
はふはふ。
まだちょっと熱いけど、奥深い辛さのカレーと炊き立てのご飯の歯ごたえが絶妙のハーモニーを奏でる。エビのぷりぷりした弾力も心地よい。
「うまい!!」
思わず叫んでしまう。
「おいしいです」
藍も感嘆している。
「良かったわー でも、まだ幸斗さんの好みが完璧に把握できてないので、辛すぎないか心配やったんやけど。本当に大丈夫ですか?」
麿莉奈は不安げな表情。
「ちょうどいいよ、めちゃくちゃ美味しい」
本当に俺の人生で一番美味いカレーである。
「うれしいわー」
麿莉奈がようやくホッとする。
カレーの味見はさせずに、サプライズにしたからね。俺に喜んでもらえるかドキドキしていたみたいだ。
うれしいのはおいしいものを食べさせてもらっている俺の方なんだけどね。麿莉奈も俺が美味しく食べているのを見てとてもうれしそう。
「この前から幸斗さんにウチのお弁当を食べていただいて、好みがだんだんわかってきてはいたので、辛さはこんなものかなってスパイスの加減を調節したんです」
麿莉奈が苦労を明かす。
俺は気軽に食べてただけなのに、麿莉奈は俺の反応を観察していたのだ。
そして俺の好みに合うように微調整をやってくれていた。緻密な工夫がされていたことに驚嘆する。
俺を大事にしてもらっているって感じてジーンと来るね。
本作の短編版
『1兆円持ってる俺は、競馬で無双して美女にデレられてしまう』を投稿しました。
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