24 女神のエントリー
◆◇◆
夕方、児童養護施設に帰る。
男部屋にいるのは俺1人。学生服から室内着に変えようとする時……
「ねえ、幸斗」
セーラー服姿の千紘姉さんが戸口に顔を見せる。こんもりと盛り上がったJカップの胸が視界に入るたびにドキっとする。
「な、何?」
「さっき氷室さんていう弁護士の人とお話したんだ」
千紘姉さんが部屋に入ってくる。
「ほんとに来たんだ……」
俺はちょっと呆れながら、2段ベッドの1段目に腰を下ろす。千紘姉さんが右に座った。
氷室さんはエントリーする女の子に説明に回るって言ってた。
俺はいまだに現実感がないんだけど、千紘姉さんのところにも話が来て、だんだん現実っていう気がしてくる。
「私に幸斗のお嫁様バトルロワイヤルに参加してって言われたよ。びっくりしちゃった」
「だよねぇ……で、千紘姉さんは参加してくれる?」
俺は恐る恐る尋ねる。
「私なんかでいいのかな……」
千紘姉さんがうつむいて自信なさそうにつぶやく。
「えっ!? いいよ。何言ってんのさ、姉さん」
「だって幸斗って、良いところのお坊ちゃんなんでしょう。私なんかでいいわけないよ」
「うう……なぜ姉さんが卑屈に。児童養護施設育ちなのを気にしているの? 俺だって施設育ちだし。全国の施設育ちの子のために胸を張ってよ」
「違うよ。幸斗が素敵だからだよ。かっこいいし、やさしいし。私なんかじゃふさわしくないって思っちゃう」
「姉さんは人が好すぎる……他の女性が聞いたら嫌味かって思うよ」
学校一のゆるふわ美女で、爆乳。母性愛に満ちていて、嫁にしたい女性ランキングのダントツ1位だよ。
でも千紘姉さんは天然で、控えめ。謙遜に悪気は全くないんだよね。
「私は辞退した方がいいんじゃないかな」
「いいいっ!?」
俺は心臓が止まりそうになる。
「だって、私がいなければもっと幸斗にふさわしい女性が代わりにやって来るんでしょう。そうした方が幸斗のためになると思うのよね」
「いやっ 千紘姉さんの代わりなんていないから」
「私としては幸斗と一緒に暮らしたいんだけど……」
「うんうん、俺もだよ。お願いだから参加して」
結婚してくれって言うみたいで、ちょっと恥ずかしいけど頼み込む。
「……わかった。じゃあ参加させてもらうね」
千紘姉さんが照れて、顔を赤くする。かわゆい。
「よしっ」
ガッツポーズしてしまう。
千紘姉さんが参加してくれて、俺の心の中は大フィーバー。
お互いに告白したも同然。
俺と千紘姉さんは、実の姉弟みたいだからな。距離が近すぎると、改まって告白の機会がなかった。
バトルロワイヤルは不本意だが、千紘姉さんとの関係が進展するのはいいことだなと思ってしまう。
「氷室さんが言ってたけど、私は幸斗より一足先に退所するんだって。バトルロワイヤル会場のタワーマンションに引っ越して、幸斗がやってくるのをお迎えするんだって」
「へぇ 退所は同時じゃないんだ」
「他の4人の女の子たちと、幸斗をお迎えするの。私はあくまで5人のお嫁様候補の1人に過ぎないからって。あと、幸斗とはあんまり話さないでって」
「むぅ……」
俺と最も付き合いの長い千紘姉さんでも特別待遇はされないらしい。
氷室さんが、バトルロワイヤルの駆け引きは会場に全員集合してからって言っていたけど、やはり公平さにうるさい人だ。厳しい氷室さんにびびって、千紘姉さんは萎縮してそうだ。
「ほんとに私でいいのかなってすごく心配だったから、幸斗とちょっとだけお話したかったんだ。私でもいいみたいで、良かったよ。じゃあ、幸斗と次にお話しするのはお引越ししてからね」
千紘姉さんはホッとした表情。腰を上げて部屋から出て行こうとする。
「俺のために、ごめん」
「ううん、幸斗と暮らせるのは楽しみだよ。バイバイ」
姉さんは振り返って手を振る。俺も手を振り返した。
千紘姉さんの多くのパラメータは他の子に勝ってるんだけど、生来の控え目な性格が心配である。
他の子たちが勝つ気まんまんでやって来たら、姉さんを押しのけちゃうんじゃないか……
千紘姉さんが参加してくれて一安心だけど、俺はバトルロワイヤルが波乱の展開になる気がますますしてきた。




